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ノストルダム器官  作者: 樹聖 -Sei Itsuki-
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最終章

 虫の鳴く音だけが聞こえる夜。展望台で見張りをしていた兵士が南東の方角から空を飛んでこちらへ向かっている龍を見つけ、すぐ近くにある鐘を鳴らした。


「南東から龍が接近!七体、いや…八体だ!!」


 その内、七体は翼無しの龍だった。が、さらに遠くに空を飛ぶ生物らしきものがぼんやりと見えた。それは翼の生えた黒い龍だった。どうやらこちらに向かってくる様子は無く、まるで敵の出方を伺っているかのように、同じ場所をぐるぐると旋回している。


 ログハウスに生き残った兵士たちは戦いの準備に取り掛かる。ベッドの横に置いてある白い鎧や剣と盾を装備し、赤レンガの倉庫からカノン砲を十台取り出し、龍が迫ってくる南東の方角へ設置した。接近戦を行う歩兵も彼らの後方にある木々に身を潜める。


 何が起きたのかわからず、兵士の指示に従い怯えながら右往左往する老婆や中年の女性もいれば、目覚めたばかりで目を(こす)りながら母に腕を掴まれて非難する子供もいた。それを見た兵士の一人が、ボサッとするな!さっさと北西へ走れ!と大声で怒鳴る。


 国民は遠くへと逃げ、兵士たちは戦闘準備が整った。避難所から南東にかけて直径約一キロメートル圏内を戦場とし、この避難所が最終防衛ラインとなる。カノン砲で突撃してくる龍に照準を定め、少し引き付けろと中佐が命じる。龍の群集が非難所から五百メートルまで近づくその時だった。


「カノン砲!撃てぇぇぇっ!!!」


 兵士たちの攻撃が始まった。カノン砲の壮絶な爆音が兵士たちの五臓六腑に響きわたる。龍に全弾命中し、頭や足を吹き飛ばされた二体の龍はその場で倒れた。それでもまだ生き残った龍は突撃してくる。中佐は兵士たちに装填(リロード)を急がせる。しかし、その発射までのタイムラグを龍たちは見逃さず、三台のカノン砲に一体の龍が炎を放ち突進し、兵士たちに噛み付いた。本来なら刃も通らない頑丈な鎧はいとも簡単に牙で砕かれ、そこから噴水のように血があふれ出す。その場から逃げてしまう兵士をも龍は前足で踏み潰した。


「怯むな!歩兵部隊、突撃!!」


 剣と槍を持った歩兵たちは咆哮(ほうこう)を上げながら龍に突撃すると、無我夢中で龍の体を斬っては突き刺した。大量の血を流した龍は死に、カノン砲の装填が完了すると中佐はひたすら砲撃を命令する。

第二波も全て命中するが、それでも死んだのはたったの一体。残り四体は血だらけになりながらも七台のカノン砲に炎を吹き、雪崩(なだれ)の勢いで敵陣を一掃し、ひたすら兵士を叩き潰しては噛み砕き丸呑みにする。結局、圧倒的な力の差に中佐が肩を落した。その中佐に一体の龍が襲いかかる。


 龍は口を開け中佐を喰おうとした時、いきなり龍の首から血が噴き出し、中佐の目の前で息絶えた。


「遅れてすいません!襲撃群第二分隊、第三分隊ただいま到着しました!」


 中佐を助けたのはヨセフだった。そしてヨセフはまだ生きている歩兵たちに声を掛ける。


「皆、よく耐えた!僕らが来たからには国の勝利は目前だ!味方の死を無駄にしない為、このチャンスを決して逃すな!人間の力を思い知らせてやれ!!」


 兵団は襲撃群を先頭に龍へと突撃し、人間の怒りを全てぶつけた。徐々に敵の命を削っていき、七体の龍を殲滅した。


「やった!俺たち、龍を撃退したんだ!」


 兵士は自分たちの力で倒せたことに驚いては喜んだ。しかしヨセフだけは真剣な目つきで南東を見つめる。まだなんだ、まだ終わってないんだ。その時、さっきまで遠くから様子を見ていた黒い龍が空を飛んでこちらに向かって来る。それを見た兵士たちは、龍へ突撃した。


「殺せ!あの憎き龍を殺すんだ!!」


 黒い龍が口を開けた瞬間、ヨセフは何かに気づいたかのように逃げろと大声で叫んだが、彼らには届かなかった。黒い龍は炎を放つ。これまでの龍とはけたちがいの火力と威力で兵士たちを一気に焼き殺した。ヨセフはその場所へと少しずつ近づいてみる。地面にはクレーターが出来ていて、その中には龍の炎で溶けた地面が赤く光っていて、溶岩と化していた。とうとう生き残った兵士はヨセフだけになってしまった。


「そんな。」


 黒い龍はヨセフを睨みつけた。奴は多分にヨセフを殺すつもりだ。でも今のヨセフには恐ろしくなかった。彼がいつか死んだら、五万年後にあの紅色の空と青い砂で覆われた星で生まれ変わるらしい。そんな夢を見たからだ。そうだ、五万年後にあの星で生まれ変わったら、クレーテ・ヲードに乗ってアルトロに会いに行こう。そして今度こそ彼を救うんだ。


 やり直せないことばかりじゃないよ、決して諦めないなら。


 五万年後、アルトロにまた会える喜びと、いつかこの時代と別れてしまう悲しみでヨセフは涙を流す。右手に剣を左手に盾を持ち、美しい流星群が瞬く夜、龍が暴れるこの戦場を全力で疾走した。


 “Yシャツに灰色(はいいろ)のジーンズ。黒いケープとリユックサックを身に着けた青年ヨセフはある日、「かけがえのない友に会いに行く為、この青い砂漠を歩き続ける。」そんな夢を見た。”

イラストレーション

URL : https://medibang.com/picture/o81803030055431400000035032

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