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ノストルダム器官  作者: 樹聖 -Sei Itsuki-
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第四章

 “Yシャツに灰色のジーンズ。黒いケープとリユックサックを身に着けた青年ヨセフはある日、「とあるログハウスの個室にある二段ベッドから起き上がる。外の景色は真夜中だ。」そんな夢を見た。”


 夜が明けた。窓から差し込む光でヨセフとアルトロが泊まっている二〇八号室が暖まり始める。けれども外の空気はまだ冷たいままだ。ヨセフがベッドから起きると、既に起きて(うつむ)いているアルトロの姿があった。昨日の出来事のせいか、アルトロの様子が少し変だった。


「アルトロ、まだ疲れがとれないのか?もう少しゆっくりしてもいいぞ。急いでるワケじゃないからな。」


 アルトロの返事がない。ヨセフは彼の俯いた顔を横からゆっくり覗くと、アルトロはただ目の前にある壁を睨みつけていた。


「アルトロ…?」


「…。あっ、すまない。どうした?」


 ヨセフは昨日見た夢が何を意味してるのか分からなかった。それはいつものことだったけれど、二人に何かが起こるようで不安でしょうがない。


「今日、この宿を出てどの方角へ行こうか。」


 ヨセフは、老人が言っていた洞窟へ行ってほしくなかった。


「ヨセフ…、俺は決めたんだ。老人を食い殺した龍がまた俺たち人間を襲うかもしれない。だから洞窟に行って、龍を殺そうと思う。」


「本気で言ってるのか?」


 ヨセフの質問にアルトロは真剣な面持ちで(うなず)く。


「駄目だ、アルトロ!君も龍に喰い殺されるぞ!」


「なら君はこのままでいいのか!?何もしなくたって人は喰いころされるさ!」


「君に龍を倒せるだけの力はあるのか!?」


「あるさ!ヨセフ、お前は忘れたのか!?ならば思い出せ!五万年前の俺たちは…兵士だったじゃないか…。」


アルトロのその言葉を聞いた途端、ヨセフにまた焼かれた町と人間の死体が頭の中から浮かび上がる。


「兵士…!?僕たちが…?」


「あぁ…そうだ!心配するな。俺は龍に殺されない。」


 その後、アルトロは必ず生還してみせよう、と言って宿を出た。ヨセフはアルトロを止めることが出来ずに二〇八号室で(うずくま)っていた。ヨセフにとってクレーテ・ヲードの少女やアルトロとの旅は、掛け替えのない楽しい日々だった。


 この星の人口は龍によって激減している。アルトロは何も出来ずに、ただ黙って人々が殺されてしまうことが我慢ならなかったのだろう。ヨセフは例え人々が殺されてしまおうがどうでもいい。アルトロがこの世から消えてしまうことが我慢ならないのだ。


 アルトロの帰りを待って既に三日が過ぎた。ヨセフは宿を出て、城下町の人々に龍が住む洞窟について尋ねていた。


「あんた何考えてるんだい?そんな危なっかしいトコに行くんじゃないよ。(はらわた)を龍に捧げたいのかい?」


 老婆にそんなことを言われたが、それでも知りたいとヨセフはしつこく尋ねた。城下町の人々の話によると、城下町の南門を出てその先にある山を越えた場所に龍の洞窟はあるのだという。とても一日では辿り着けなさそうな距離だった。ヨセフは山の頂上で野宿をした後、早朝に出発し洞窟を目指した。


「よし…。もうすぐだ。無事でいてくれ。」


 大きい草をかき分けながら進むと、大きい岩の向こうに洞窟を見つけた。


「アルトロ、来たぞ!大丈夫か!?」


 ヨセフは岩の上を跳んで移動しながら洞窟の穴へと近づいていくと、足元には血で汚れた剣や血痕があちらこちらに散らばっている。


「これは龍の血だよな…?アルトロの血じゃない…。そうだろ!アルトロ!!何処にいるんだ!返事をしてくれ!」


 そう叫びながら、ヨセフは恐る恐る中へと入っていく。ランタンを点け、回りを見ると血生臭い悪臭が漂って来た。


 足元には血痕が目立つようになった。この血痕は何処まで続くのだろう。血痕。ここにも血痕。さらにここに…人の腕。


「あれ…?」


 ヨセフは止まった。目の前に人間の左腕と右の(ふくら)(はぎ)、そして細かく喰い千切れた人間の内臓があたり一面に散らかっていた。ヨセフは両眼を思いっきり開いた。右目の目蓋(まぶた)だけが小刻みに震える。全身が一気に凍てつく。手足が痙攣(けいれん)する。心臓が破裂しそうになる。思考と感情が目の前の現実に拒否反応を起こす。


「グヴゥゥゥ…。」


 獣のような鳴き声が聞こえてきた。ヨセフはその方向にランタンを照らすと、そこに黒い(うろこ)と翼に赤い目、口に無数の牙を持つ龍が姿を現す。龍の奥歯に黒い影のようなものが見えたが、それは右腕と下半身を喰い千切られ、龍の牙で胸を突き刺されたまま死んだアルトロだった。


「アルトロ…?そんな…。」


 黒い龍はヨセフを見てその赤い目で睨み付ける。ヨセフはあの頭痛に襲われ、黒い龍を見て五万年前の出来事を思い出す。


「お前…五万年前(あのとき)もそうやって死んだよな。」


 ヨセフがそう呟いた瞬間、大きな口を開けた黒い龍に襲われ、目の前が真っ暗になった。


 目が覚めると、ヨセフはログハウスの個室で木製の二段ベッドの下で寝込んでいた。ヨセフは起き上がり、近くにある窓の外を見ると完全に真夜中の景色だった。そこでヨセフはようやく気がつく。


「そっか…。僕は五万年後の夢を見てたんだ。」

イラスト

URL : https://medibang.com/picture/on1803012312067500000035032

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