カクテルと花言葉②
ある、春の日。わたしは仕事帰りに、同期と出会った。
「おう、木村。久しぶり。せっかくだから、飯でもどうだ?」
相手は同期の山田。場を盛り上げるタイプの男の子だ。ふたりきりで、会うのは初めてだった。
わたしが好きなイタリアンレストランでご飯を食べることにした。
「最近、がんばりすぎてるだろう。無理していないか」
「大丈夫よ。今は何かしているほうが気が紛れるし」
わたしはいつもの無機質な受け答えをする。
「木村な。それ、いつも言ってるだろ。同期もかなり心配しているんだぞ」
彼は少し呆れ気味になりながら、ため息をついた。
わたしたちは届けられたパスタセットを食べた。
「少し飲みたいから、つきあってくれよ」
普段なら、断るところだが、明日は休日なのでつきあうことにした。
彼の行きつけのバーに案内してもらう。
少しだけ仕事上の愚痴や連休の予定を話した。こんな普通のことを、しばらく誰とも話していなかったからとても新鮮だった。
彼のいきつけはとてもクラシックなバーだった。
「おや、珍しいね。女の子と来るなんて」
彼がマスターに挨拶すると、マスターはそう言って彼をからかった。
「仕事の同期なんですよ」
彼は恥ずかしそうにそう言った。
「なんだ、彼女じゃないのか。それは残念だ」
彼とマスターは冗談を言い合っている。行きつけの店というのは本当らしい。
彼がこんな落ち着いた店に来るなんて意外だった。
山田はどちらかといえば、みんなでワイワイ飲むのが好きなイメージだった。
「いつも課長の悪口ばかり言ってるんですよ」
「マスター、一応、職場の同僚だから……」
わたしは飲み物の注文を考えていた。




