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サクラ
時間は簡単に止まってしまうものだ。そんな風に、よく言われている。
でも、「止まる」というのも正しくないと思う。勝手に流れていってしまうものだ。なにもすることができずに、ただ向こうに進んでいってしまう。
5年前、父が死んだ。
交通事故だった。わたしは、大学を卒業して働き始めたばかりの時だった。
それ以来、わたしの時間は、なにをすることもなく流れていってしまっている。
父子家庭であったわたしたちは、ひとりになってしまった。
ひとりで、ただ仕事をして、ただ食べて寝るだけの生活を送っていた。みじめな生活だった。
他人から見れば、ただの独身暮らしだった。でも、わたしのなかの、心の半分は失われてしまった。本当にひとりになってしまったのだと痛感するとわたしはひとりで泣いた。
父の死から5年が経った時、職場で花見にいくことになった。いつも通り、うわべだけの付き合いになるはずだった。
でも、わたしはそこで桜と出会った。とても美しい桜だった。散っていく花びらが、わたしの心を埋めていく。わたしはこうして時間のなかに、戻ることができた。