第四十二幕 匂宮
落ち着いた雰囲気だった秋とは違い、活気があるという表現が合う賑わいを見せていた。
近くにエルフの里があるようには見えなかった。
ギルドはすぐに見つかった。
「よっ」
「別のギルドに連絡を取りたい」
「そこの伝令玉を使っていいぜ。前金で銀貨一枚、時間で後払いな」
「分かった」
ギルドの運営に関してはマスターに一任されているのと決まった額というものが存在しない。
ハンターが多ければランクの低い依頼は安くなる。
反対に少なければランクが低くても高額になる。
「・・・はぁい」
「ジョーバー、キルシェだ」
「ちょっ、えぇぇぇぇ、いったい今までどこにいたのよ!連絡も寄越さないで!心配したでしょ!ヴィリシアも全然知らないとか言うし」
どれだけ驚いて心配をかけたのかは分かる。
それでもこの驚きようは異様だった。
「だいたい今どこにいるのよ。一年もふらふらとして」
「一年?」
「はぁ?ふらふらし過ぎて日にちも数えられなくなったとでも言うの?いいから今どこよ」
「フィヨナドルだ」
「・・・・・・・・・・・・はぁ?寝言は寝てから言いなさいよ。だいたいどれだけ鈍足でも二週間もあれば着くようなところに何、一年もかけてんのよ」
ジョーバーの言葉を信じるなら一年もの間、エルフの里に留まっていたことになる。
少し話をしてすぐに里を出たが外ではすごい早さで時が過ぎていた。
「とにかく何をしていたか説明しなさい」
「わかった。そっちに戻る」
「ヴィリシアのとこも行きなさいよ。あぁ見えて心配してたんだから」
伝令玉の代金が高いということは百も承知だった。
それにマスター同士の噂というものも知っている。
ジョーバーの中にはフィヨナドルのマスターは金にがめついということだけがあった。
「・・・他のギルドのマスターにも気に入られているみたいだし。銀貨二枚のところを銀貨一枚と銅貨八枚にまけとくよ」
「どうも」
「訳アリのようだけど、何か手伝うことはあるかい?」
「いや、けっこうだ。このまま出発させてもらうよ」
「そうかい。じゃまた来てくれることを祈ってるよ」
キルシェもマスターをしていたからフィヨナドルのマスターの噂は知っている。
手伝いを依頼すれば手伝い料として法外な値段を請求される。
いろいろなところで裁量を任されているが相場というものは存在する。
伝令玉の使用料もあれくらいなら銀貨一枚と銅貨八枚は妥当なところだった。
つまりは何も負けていないということだ。
「急ぐ必要はないからな。食料を補充してゆっくりと行くか」
「エルフの里でのことも整理したいからな」
「キィ、豆のスープが飲みたい」
「ほら、あそこで買って来い」
食べ歩きができるように屋台が出ていた。
季節だけでなく近く祭りが行われるのだろう。
その準備がそこかしこで進んでいた。
「エルフの里が時を持たぬというのは事実のようだな」
「あぁ。実際に里にいる間は時間の流れというものを意識できなかったからな」
「外にあった太陽はずっと同じところにあったよ」
エルフの里が外の世界と異なる制約のもと成り立っているのは理解できた。
おそらくではあるがエルフの里に行ったものが返ってこないというのも事実とは少し異なるのだろう。
しばらく留まり外に戻ったときには時が進み過ぎて知っている者が生きていないのだ。
人ならばさらに忘れられていたことになる。
エルフの里から戻った者も最初は説明しただろうが信じてもらえずひっそりと過ごしたのだろう。
それからエルフの里から戻った者は皆、口を閉ざしたのだろう。
エルフの里のことを広めても何の得にもならない。
過ごせば過ごすほど大切な人たちを失うことになる。




