第四十幕 幻
長老のマルハブラが歩くと足元の花が消えて舗装された道が広がった。
まるで幻覚の続きを見ている気分だった。
「外の方はいつも驚かれますが全てはエルフの里ゆえのこと」
「いつもということは俺たち以外にも辿り着いた者がいるということだな」
「何年かに一度は来られますな」
惑わしの森を抜けて奥まで辿り着くことができたものがいる。
なのにエルフの里の中のことや洞窟でのことは一切知られていない。
外に流れる情報は制限されているようだった。
「エルフは調停者でありますが同時に神でもあります。そう簡単に出会える存在ではないのですよ」
「神・・・」
ロディが噂で聞いたことは本当のようだった。
自分たちのことを神と言い切るのなら他の種族のことは下に見ているだろう。
神と同じならアンディの一方的な主張というものも理解ができる。
「人が信仰する神とは異なり救いを差し伸べることも慈悲を与えることもあります。何もしないで見ているだけの神よりもよっぽど我らの方が有意義であると思いますがね」
気まぐれに救いを差し伸べるくらいなら最初からない方がいい。
そう思うくらいにはキルシェは神を信じていない。
神という存在がいるのなら己より弱い生き物を気に掛けるということすらしないであろうと。
「ここがわしの館になります」
キルシェたちを何一つ警戒していない。
それは神に矢を射る愚かなことをしないという絶対の自信からくるものなのか。
何があっても押さえつけられるという確信なのか。
それは分からないが背を向けるマルハブラには警戒というものがなかった。
「客人だ」
「ようこそいらっしゃいました」
エルフである以上は信用できない。
笑顔で迎え入れたのはメイドの恰好をしている若い女のエルフだった。
「ここでは時間は無限にありますのでな。ゆっくりとされると良い」
「無限?」
「さよう。エルフの里は外とは異なる時間を持っているがゆえに老いとは無縁であると言える」
「時間が無限であっても無駄にはしたくない。理について教えてもらおうか」
「理について話す前に我らエルフについて話すことにしよう。噂が独り歩きしているものもありますからな」
ソファと机しかない質素な部屋だが貧相ではない。
簡単に食べるものを用意されるが外では見たことのないものだった。
「我らエルフは森を流離う放浪の民でした。約五百年前に地殻変動が起き住む場所が壊れてしまいました」
「地殻変動?」
「ある森の奥で突如として変動した摩訶不思議なことです」
アイリーンがヒントとして残した現象だった。
エルフも詳しいことは知らないのだろう。
ただただ住処を奪われた自然現象だと思っている。
「我らの半分は死に絶え残ったものも生きることだけに追われ年老いていくばかりでした。エルフの子どもは産まれにくく純血ともなれば数十年に一度産まれれば慶事だったことも災いしました」
「それで他の種族との間に子どもを作ったのか」
「アンディはエルフと人との間の子であります。その母であるものは、のちに人との間に女児を産み落とした。それがルルーシェの母であると断言できる。エルフの里にしばし留まり人の世に戻られた」
話す内容を信じるのならアンディとルルーシェは伯父と甥の関係で間違いがないということだ。
だがアンディが生まれたことは最近のように聞こえる。
ルルーシェの年齢から逆算すれば最近の出来事なのだろうが違和感があった。
「エルフの血を持たぬものを我らは見守ることはできても干渉することはできない。それが如何に血を分けたものであったとしても」
「だがアンディはルルーシェへ干渉してきたぞ」
「それはエルフの血を持つものであれば最大の禁忌」




