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第二十五幕 蛍

「うっとうしい!」

 

「ポイズドクイーンは三百年に一度目覚める珍しい魔物よ。前に目覚めたのは二百年前よ。それが百年も早くなるなんておかしいわ」

 

どこに隠していたのかは不明だが大鎌を操るアイリーンの姿は死神のように見えた。

 

アイリーンの鎌に切られると再生することなく枯れていく。

 

「誤差じゃないのか!」

 

「ポイズドクイーンはおそろしく周期に正確なのよ。ずれても五年以内、十年もずれたら天変地異の前触れと言われるくらいよ」

 

「初めて聞いたぞ」

 

「人の間ではダイタラとか言われてた気がするわ」

 

「ダイタラなら聞いたことがあるな」

 

胴体は硬い鱗があるため刃がまったく通らない。

 

長引かせるとポイズドラゴの群れを相手にする必要があるため早めに倒したい。

 

カイルは二丁拳銃でポイズドクイーンの目を狙う。

 

動いているから命中率は低いが鱗に覆われていない数少ない場所だ。

 

避けながら攻撃するのは意外と体力を消耗する。

 

「ぎゅえぇぇぇえええええええええ」

 

「あまり品のない声で叫ばないでくれるかしら?」

 

「アイリーン!」

 

ポイズドクイーンの隙を見てカイルは爆薬の粉をばら撒いた。

 

その意図を正確に理解したアイリーンはルルーシェとロディを抱えて飛んだ。

 

キルシェは遠いところから援護射撃をしていたから影響はない。

 

離脱した一瞬のあとに爆発が起きた。

 

「これでどうだ」

 

「気を失ったみたいね」

 

「今、何したんだ?」

 

「簡単なことよ。爆薬の粉を撒いて火種を点ける。そうすれば大規模な爆発が起きるわ」

 

「粉塵爆発か、思い切ったことをするな」

 

これから止めを差そうと考えていたルルーシェとロディは不満げな顔だ。

 

だがポイズドクイーンを止めたところで臭いに誘われたポイズドラゴは止まらない。

 

嫌でも戦うことになる。

 

「第二回戦の始まりよ」

 

「今度は俺たちの獲物だからな!ロディ行くよ」

 

「うむ」

 

忠告どおりに切らずに打撃で倒していく。

 

多勢に無勢であるから一撃必殺の戦い方ではなく同士討ちを狙って動く。

 

「ポイズドクイーンが百年早く目覚めた理由に心当たりはあるのか?」

 

「ないこともないわ」

 

「ややこしい言い回しだな」

 

「おい」

 

「何だ」

 

アイリーンに喧嘩腰のキルシェに牽制をかけるカイルという図式ができあがった。

 

寡黙であまり会話に入ってこないがアイリーンに対してだけは違う。

 

「馴れ馴れしいんだよ」

 

「あぁ?別に共闘してんだから良いだろうが」

 

「きゃぁ私のために喧嘩しないでぇ」

 

「アイリーン・・・」

 

「嫉妬してくれるのは嬉しいけど、カイルの懸念はお門違いよ」

 

アイリーンの容姿は美女と言っても良い。

 

見た目は人と区別が付かないから男性はアイリーンに落ちる。

 

ときどき思わせぶりな態度をアイリーンも取るから勘違いする男も多い。

 

「どういうことだ」

 

「私がどれだけ誘惑しても彼は靡かないということよ。そうでしょ?ルルーシェの恋人さん?」

 

「恋人?どれだけ年が離れていると思ってる。二五才だぞ」

 

「相変わらず頭が固いわね」

 

「いつ気づいた?」

 

「最初に会って、そうかもしれないと思って確信したのは手合わせをしたときよ」

 

手合わせだというのに攻撃に殺気が混じっていた。

 

おそらくは無意識なのだろうがアイリーンを敵だと思っていたとなる。

 

さらにはカイルのことも敵だと認識している。

 

それはルルーシェの一族で唯一を定めた者特有の行動だ。

 

自分の唯一を守るために周りを敵と思い警戒する。

 

「幼いときは人見知りと間違われやすいから仕方ないけど」

 

「まじかよ、ただの生意気なガキだと思ってたな」

 

「カイル、まだまだ観察眼が未熟ね」

 

「どうせ俺は頭が固いですよ」

 

カイルがそこまでアイリーンに近づく男を警戒するのかはカイルがアイリーンの夫だからだ。

 

アイリーンが言う子どもはもちろんカイルとの子だ。

 

「・・・夫が拗ねてるぞ」

 

「いつものことだから大丈夫よ」

 

「・・・不憫だな」

 

お互いの誤解を解いたところでポイズドクイーンが早く目覚めたことを調査しようとしたときだった。

 

地面が立っていられないくらいに揺れた。


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