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第二十四幕 胡蝶

「笑ってたんだろ」

 

「笑う?坊やが弱いからと言って笑う必要はないわ」

 

「どうせ弱いやつが噛みついているって思ってたんだろ」

 

「坊やはたった数年しか戦っていないのよ。その何十倍も年月を戦いの場に身をおいているのだもの。実力が上なのは当たり前でしょう。坊やもあと何十年かすれば私たちと変わらないくらいの力を身につけるわ」

 

「気休めなんて言うな」

 

「気休めではないわ。自分たちと同じくらいに強くなると分かっている者に気休めを言っても仕方ないと思わない?」

 

いくら魔獣との合いの子でも戦闘能力は才能に依存する部分も大きい。

 

強くなる速度は最たるものだ。

 

「これからは色々な者の戦い方を見なさい。それは必ず坊やの力になるわ」

 

「・・・・・・」

 

「それよりも気になっているのだけど、坊や、保護者の前だとずいぶんと性格が違うのね」

 

「なっ!ほっとけ」

 

「まぁ性格が定まっていない時期でもあるから気にしないけど」

 

「定まっていない?」

 

「坊やは生まれて間もないでしょう。周りに影響されて性格が変動するのよ」

 

キルシェの前では大人しく甘えた感じだ。

 

初対面だが実力が上過ぎるアイリーンとカイルに対しては生意気な感じだ。

 

どれも等しくルルーシェだが大人に近づくにつれて性格も決まってくる。

 

「坊やって呼ぶな」

 

「坊やは坊やよ。大人になってから主張しなさい」

 

特に待ち合わせをしていたわけではないがギルドの前でキルシェとカイルが並んで待っていた。

 

アイリーンに文句を言おうとしていたがキルシェを視界の端に認めたルルーシェは走った。

 

「キィ」

 

「ルル、擦り剥いているな」

 

「これくらい大丈夫だ」

 

「その様子だと負けたみたいだな」

 

「何で分かるの!」

 

「昔から勝てばすぐに勝ったと言ってくるからな。それがないということは負けたということだ」

 

「・・・引き分けかもしれないじゃないか」

 

伊達に育ての親を名乗っていない。

 

様子ですぐに分かる。

 

引き分けなら次は勝つというようなことを言う。

 

ルルーシェの手の内は理解していた。

 

「・・・悠長にしておれんぞ」

 

「どうしたの?ロディ」

 

「ポイズドラゴが近づいておる。しかし、この臭いは解せん」

 

「町に入られたら面倒ね。準備ができたことだし行きましょうか」

 

アイリーンとカイルは装備を持って木から木へと飛び移る。

 

ロディはルルーシェとキルシェを乗せて疾走する。

 

見た目が人だからと言って人とは限らないことを実感した。

 

アイリーンとカイルは人ではまずあり得ない移動手段だった。

 

「ロディ、ポイズドラゴの臭いがすると言ったな」

 

「うむ、だがポイズドラゴにしては甘いのだ」

 

「甘い?」

 

「感覚である故に言葉にするのは難しいが、いつものポイズドラゴが雄ならば、今回の臭いは雌と言うのが近い」

 

ロディの言葉に一番早く反応したのはアイリーンだった。

 

雄と雌の違いという表現に思い当たる節があった。

 

「ちょっと待ってよ、それなら今回のポイズドラゴは・・・」

 

「来るぞ、構えろ!」

 

地面が割れてポイズドラゴが姿を現した。

 

平均的な大きさは人と同じくらいのポイズドラゴに比べて五倍以上の大きさのものが出てきた。

 

頭は植物のようで体は鱗に覆われている。

 

「ぎょえええええええええええ」

 

「うそ!?ポイズドクイーン!」

 

「ぎょえええええええええええ」

 

叫び声を上げながら頭から胞子を吹き出す。

 

ロディにしか分からなかった甘い臭いというものが認識できた。

 

胞子にはポイズドラゴを引き寄せるための誘引剤が含まれているのだろう。

 

それがほかの種族には甘い臭いとして感じられる。

 

「アイリーン、ポイズドクイーンはポイズドラゴとは別物なのか?」

 

「別物よ!血も毒じゃないわ。普通の魔物と同じよ!ただし、この甘い臭いでポイズドラゴを呼び寄せて守らせるから面倒なのよ」

 

「ならポイズドラゴが集まる前に倒すぞ」

 

頭の植物の部分が伸びて触手のように襲ってくる。

 

避けたり切ったりしているが再生速度が速く一向に減らない。


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