第二十三幕 初音
「最初の攻撃を見切られても持ち前の反応速度で次の攻撃ができた。それで倒せた」
「それのどこが悪い」
「悪いとは言っていないわ。でもその戦い方で私にすべて避けられたのではなくて?」
ルルーシェはアイリーンの早さについていけていない。
防御することもなく投げられたことが証明している。
「あと防御することも覚えた方が良いわね」
「攻撃は最大の防御なんだろ?」
「それは一対一の戦いで実力が拮抗しているときのことね。明らかに実力で負けているときは防御も必要よ」
「師匠たちは教えてくれなかった」
「それなら今から覚えなさい。戦いは力だけ決まるのではないのだから」
ルルーシェの一族は強いことは分かる。
だが細かいことを考えて行動するのは苦手なのも分かる。
アイリーンはすべて避けたが避け続けられるほどの実力者はそう多くない。
避けるだけならカイルもできるが紙一重というのはできない。
「でも力が無いものは負けるんだろ?」
「その答えは自分で見つけると良いわ」
「自分で?」
「ちょうどいい相手がいるもの。次の獲物のポイズドラゴ。血を出さずに倒す。考えてみると良いわ」
これ以上戦っても勝つことができないと分かったルルーシェは攻撃するのを止めた。
アイリーンは一撃必殺の戦い方以外の方法を考えさせるために誘ったから止めを差す気はない。
「どうやって戦い方を覚えたんだ?」
「坊やくらいのころよ。今は絶滅したロストルドールという牛のような魔獣の巣に放り込まれたときね」
「えっ?」
「何十頭もいるから一撃で仕留めるしかないと思っていたのだけどね。彼らは連携するのよ」
攻撃を仕掛けて当たる寸前に他の個体から攻撃される。
防御すれば一斉に攻撃される。
逃げても巣である以上は地形の理は彼らにある。
「それで戦い方を考えたのよ。それでも左腕と肋骨が折れたけどね」
「すごいな。俺は絶対嫌だ」
「一体倒すので精いっぱいよ。あとは気を失って助けられて自信喪失ってとこね」
「それが普通なのか?」
「普通じゃないわよ。跡取りとして生まれてくることを望んでいた父は総合的な力で劣る女の私が嫌いだったのよ。だから女として生まれたことの罰として巣に放り込んだの。そのまま死んでも良いと思ってたみたいね」
実の親から捨てられているルルーシェは親というものの愛情がいまいち理解できない。
だけど親が子を殺そうとすることが異様なことだということは分かる。
「助けてくれたのは近所に住む幼馴染よ。それからね。必死で戦い方を覚えて殺されないようにしたのは」
「父親から殺されそうになってたの?」
「一族を継ぐのは性別問わずに第一子と決まっていたからね。弟が生まれてからは過激になったわね」
何としても男子に跡を継がせたいという狂気的な思いからアイリーンは毎日のように命を狙われた。
殺されないように強くなり、殺されないように戦い方を覚えた。
そのおかげで向かうところ敵なしとなるが命を狙われることには変わりがなかった。
「私の昔話はこれくらいにしておきましょ。とにかく力だけでは疲れるってことよ」
「うん、疲れた」
「それは三百六十八回も全力で突進してくるからよ」
「数えてたのか!」
「当たり前でしょ。どれくらい体力があるのか分からないと教えようがないもの」
最初から勝ち目はなかった。
相手の実力が近いと錯覚させられるくらいに上の存在だったということが分かった。




