第二十幕 朝顔
「よし、キングゴブリンとオークの群れの討伐だね」
「やつらは村から決まった距離に群れを作る」
「昼過ぎには一度ギルドに向かうぞ」
「昨日言ってた広域依頼のこと?」
「あぁ」
匂いを探してロディが森を案内する。
闇雲に歩くことが多いなか効率が良かった。
「近いぞ」
「よし、行くね」
「俺はここにいる」
「その方が良いな」
ロディは元の大きさになりルルーシェはロディの背に乗った。
全てが片付いてから核の回収係だ。
「・・・誰だ」
「あら、勘が良いのね」
「ハンターか?」
「えぇ私の名はアイリーン。ランクはS++級よ」
「そんな大物が何の用だ?小銭稼ぎか?」
「広域依頼になりそうだという噂を聞いたから来たのよ」
女性のハンターの中で最も強いとされているが信じられてはいない。
それはアイリーンという名の女性がギルド創設時からいるからだ。
世襲制だと言われていた。
「あとは貴方が連れている坊やのことね。合いの子でしょ?」
「狩るのか?」
「狩らないわよ。私の子もそうだし」
「子持ちか」
「何か腹立つわね」
アイリーンは溜め息をつくと森の奥から来た人物に視線を向けた。
そこにはルルーシェとロディと青年がいた。
「キィ、聞いてよ」
「どうした?」
「横取りされた」
「はっ?」
「横取りも何も後から来たのはそっちだろう」
この調子でルルーシェと青年は言い争って来たのだろう。
依頼が被ることが無いようになっているが、ときどきある。
「俺とロディの獲物だったのに」
「物は相談なのだけど」
「何だ?」
「私たちと今回は獲物を半分にしない?」
「やだ」
「ルル、ちょっと黙ってろ」
依頼が被ったときはランクが上の者に決定権がある。
今回はアイリーンに決定権がある。
たいていは獲物も報酬も全て取られてタダ働きになることも珍しくない。
「私たちとチームを急遽組んだことにして半分ずつ」
「俺とルルはB級だ。S級と組むことはできない」
「問題ないわ。彼が、カイルというのだけど、A級だもの」
「・・・わかった」
「話が分かるハンターで良かったわ」
「キィ、どうして!横取りしたのはあいつらだよ」
ルルーシェは納得がいかないとごねるが決定は覆らない。
魔獣であるロディではハンターの細かい決まりまでは知らないので静観だ。
「坊や、横取りしたわけではないわ」
「どういうこと?」
「依頼が被ったときにはチームを組むことで、両方の依頼を完了したことになるのよ」
「両方の?」
「ええ、貴方たちが受けた依頼の報酬も私たちが受けた依頼の報酬も、ね。良いことだと思わない?」
説明をされて納得したのか小さく頷いた。
「分かってもらえて良かったわ、坊や」
「坊やじゃない」
「十分に坊やよ。私から見ればね」
「アイリーン」
「彼らは大丈夫よ。カイル」
何か裏がありそうだが出会ってすぐに聞くことではないと判断し黙る。
ルルーシェは警戒したままだが、人見知りの範囲だ。
「依頼を完了させに行きましょうか」
「あぁ」
「改めて自己紹介をしておくわ。私はアイリーンよ。ランクはS++級」
「俺はカイル。ランクはA級だ」
「キルシェだ、ランクはB級だ」
「・・・・・・ルルーシェ、B++級」
黙って付いて来ていたロディは自己紹介した方が良いか迷っていた。
おそらくは自分が魔獣であることは知られているがキルシェたちが明らかにしたいのかはっきりしなかった。
「後ろの魔獣はロディで良かったかしら?」
「気づいていたのか」
「分かるわよ。種明かしをすると私は人じゃないもの」
「人じゃない?」
「えぇ、失われし一族の末裔よ。カイルはその眷属」
五百年前くらいに森が鳴動するような地殻変動があった。




