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第二幕 帚木

次の誰かに渡してしまえば良かったが、家付きハンターは家庭があるし、流しのハンターは、このギルドを中継地点としか見ていない。

 

マスターになれるほどの腕のある者がマスターになりたいと思うほど、このギルドには旨味がなかった。

 

再三とギルドマスター後任申請書を送っていたが国からの返答はなかった。

 

先代が帰って来て、勝てばギルドマスターを押し付けられる。

 

さらにマスターは業務以外で村を離れられない。

 

追いかけられる心配もない。

 

先代がマスターになれば、少年が追いかけてくるかもしれないが、確実に勝てる相手だ。

 

少年にマスターを押し付けようにも年齢と実績が足りない分、後見人が必要だ。

 

そこまで考えてキルシェはこの不毛な闘いを受けた。

 

「とりあえず、勝て。殺さないようにな」

 

「・・・分かった」

 

村は先代が帰って来たことで騒ぎになっている。

 

さらに先代の魔族嫌いは有名で、ルルーシェを殺そうとしていることも伝わっている。

 

ルルーシェを知らない村人は先代を支持し、ルルーシェを知っている村人たち、特に女性陣は先代を目の敵にしている。

 

「ルールはどうする?そっちは魔族で、こっちはか弱い人間だからな。ハンデくらいはあっても良いだろ」

 

「好きに決めろ」

 

「良いのか?こいつはガキだが、相当な修羅場をくぐっているぞ」

 

「それならルルも同じだ」

 

「なら一本勝負、急所を押えた者が勝ち。瀕死までは許容するが、殺すのはなしだ。条件はお前がガキを殺すことだからな。こっちが殺したら意味が無い」

 

「ルル、愉しんで来い」

 

ルルーシェが負けることは始めから想定していない。

 

それにルルーシェに闘い方を教えたのはキルシェではない。

 

ルルーシェの魔獣の一族だ。

 

もともと、性に奔放で、それを利用して敵地に潜入して、暗殺することや殲滅することで生計を立てていた。

 

今では存在が認知されているから闘い方だけが受け継がれている。

 

キルシェとてルルーシェと闘えば勝てない。

 

「おい、誰か審判やれ」

 

「面倒なことしやがって、何がルルを殺せだ。血も涙もない男は嫌われるぜ」

 

審判を引き受けたのは、家付きハンターの中での古株だ。

 

ルルーシェだけでなく、キルシェがマスターになったときから二人の成長を見守ってきた。

 

特にルルーシェのことは孫のように可愛がってきた。

 

そんなルルーシェを殺すと言った先代に反感を持っている者は少なくない。

 

同時に、魔獣の合いの子に対して、嫌悪している者も少なくない。

 

「ほら、さっさとしろ。コインが地面についたら開始だ。公平に判断するが、やり直しは認めないからな」

 

「構わない」

 

「良いよ」

 

両者の視界の端に映る位置にコインを投げる。

 

地面にコインが触れるまで約二秒の間、両者は動かない。

 

触れた瞬間、互いの間合いが縮まった。

 

ルルーシェは右手を取ると体を入れ替えて投げる。

 

宙に浮いた体を返して腰のナイフを投げた。

 

見えているからこそルルーシェは右手を掴んだまま避けて地面に叩き付ける。

 

一瞬の隙を見逃さずに急所である首を掴む。

 

「・・・そこまで」

 

「くっ、まだだ」

 

首を掴んでいる手を捻って外そうとする。

 

「そこまでだ。よく見ろ」

 

そう言って指差された先にはナイフで心臓を狙っているのが見えた。

 

自分が投げたナイフだ。

 

避けられただけでなく、死角となる位置で受け止めて、さらに死角になるように攻撃されていた。

 

体術だけなら圧倒的な実力差だ。

 

「勝者はルルーシェ。異論は認めない。いいな」

 

「俺は構わない」

 

「ちっ、仕方ねぇ」

 

「問題がないなら、この書類にサインをしてくれ。約束を反故にされても困るからな」

 

キルシェは持って来ていたギルドマスター承認書を差し出した。

 

承認書には魔術が施されており、サインをした者に対してマスターであることを認めると共に、マスターに対して業務外の遠出が出来ないようにする効力を発揮する。


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