第十九幕 薄雲
「キィ」
「どうした?」
「ホルンの串焼きが食べたい」
「頼んでこい」
「うん」
空になった芋の皿を返すとともに注文をする。
ホルンという名の魚の串焼きと骨付き肉ともち粉のスープを持って帰ってくる。
さらに追加で骨付き肉を頼んでいた。
「キィは食べないの?」
「俺はいい」
「ふーん」
昔は食べてたなと感傷に浸りながら消えていく料理を眺めた。
最後まで速度を落とすことなく食べると出来上がった骨付き肉を包む。
ロディへの土産にするつもりだ。
「坊主、えらく食べてたな」
「うん」
「で、見ない顔だな。名は?」
「俺はルルーシェ、こっちはキルシェ」
「ルルーシェにキルシェね。ガボックだ。ランクはC+++級だ」
ランクが下だと判断した相手には階級を明らかにして喧嘩を吹っ掛けるハンターもいる。
ガボックはそのタイプだった。
ランクだけなら二人ともB級になっている。
「俺はね、B++級でね。キルシェはC+級だぎょ」
「B級だ」
ルルーシェの頭を鷲掴みにして訂正する。
まだ予定だが、一週間すれば正式にB級になるから間違いではない。
「おいおい、C+級からB級になるってどんな依頼を受けたんだよ」
「魔獣討伐だ」
「いやいや、そっちの坊主がB++級なのも納得がいかねぇ」
「本当にB++級だよ。ほら、あれ?カードがない」
「これだろ」
「そうそう、ほらね」
カードを忘れることや無くすことが多いルルーシェはいつもキルシェに預けていた。
小さいころからの癖で治らない。
「ほんとにB++級かよ」
「キィ、早く帰らないとお肉冷めちゃう」
「あ?」
「ロディが怒るよ」
「分かった。大将、勘定おいとくよ」
「毎度あり」
料金は一定だ。
ただし、ルルーシェのように食べる量が多いときは割増で置いておく。
あとは良心だがハンターである以上は軽率な行動は広まる。
「早く早く」
「分かったから落ち着け」
ハンターの小競り合いくらいは日常茶飯事だがルルーシェがいたところは小競り合いが起きると近所のおばちゃんが叩き潰すので知らない。
さらに流しのハンターが喧嘩を吹っ掛けることもあるがルルーシェのランクを知って止める。
今回もそうだ。
ルルーシェには誰が来ても勝てると思っている。
「ロディ、お土産だよ」
「肉か」
「骨付きだよ」
「・・・良い味付けだ」
骨ごと噛み砕いて分かるのか不思議だが気に入ったのなら良かったと見ないふりする。
今までの持ち合わせから旅費を計算する。
「金貨が七十枚と銀貨が二十枚と銅貨が十五枚か」
「ずいぶんと持っておるな」
「ギルドに預けている分を合わせればもう少しあるぞ」
「して、頼みがある」
「どうした?」
「たまにで良い。堅パンをわれの分も買って貰えぬか?」
「たまにと言わずにいつもでも良いぞ。今回の報酬はルルとロディで稼いだものだからな」
おそらくは旅費に困ることはない。
魔獣を飼ってむしろ余るようになってくる。
中央に行けば物価が上がるからあればあるだけ助かるが極貧となることは考えられなかった。
「それはありがたい。堅パンが好物でな」
「堅いだけの非常食なのに?」
「堅いものが好きなだけだ」
「だから骨ごと食べちゃったの?」
「うむ、さよう」
ロディは体を小さくすると枕元に蹲った。
周りも静かになってきたから寝ることにした。
朝から討伐に行くつもりなら寝る方が良い。
「明日は早いぞ」
「う、ん」
「消すぞ」
「うむ」




