第十三幕 明石
「あっ」
「どうした?」
「ちょっと行ってくる」
テーブルのサンドイッチの入った籠を持つと店を飛び出した。
「いったい何があった」
「犬でも見つけたんじゃないか?」
「野良犬がいたら保護するようにしているんだがな」
犬でもただの犬ではなく魔獣だ。
昼間に乗せてくれた魔獣が近くにいることに気づいたルルーシェはサンドイッチを持って飛び出した。
「いた」
「どうした?」
「サンドイッチ持って来たよ」
「・・・何か悩み事か?」
「うん」
魔獣はルルーシェを背中に乗せると器用にサンドイッチを食べる。
長い毛に体を埋めてゆっくりと話す。
「今日ね、俺の伯父さんに会った」
「うむ」
「俺がキィと一緒にいられる時間が少ないって。だからキィが死んだら側にいてくれるって」
「良かったではないか」
「でもね、俺はキィとずっと一緒にいたい」
「人は儚いから仕方ない」
ルルーシェとキルシェの関係を知らないが何か悩みがあるのなら聞く。
魔獣としての時が長いから人との別れ方や付き合い方を知っている。
「理に触れたらずっと一緒にいられるって伯父さんが言ってた」
「そのおじさんは信じられるのか?」
「俺の母親の兄弟だって言ってた。あとエルフと人の合いの子だとも言ってた」
「理の調停者と言われるエルフなら信じて騙されることはあるまい」
「そうなの?」
「何だか心配になってきた」
初対面の魔獣を信じて悩み事を相談するというのは危うい。
今回は良かったが、騙されて食い物にされるのが通常だ。
単純な戦闘となればルルーシェも勝てるが知力となれば知らないことが多すぎて負ける。
老婆心というものを持ってしまった魔獣だった。
「何が?」
「ルルが騙されないか、だ」
「大丈夫だよ」
「仕方ないな。サンドイッチをもらったことだし付いて行ってやろう」
移動手段に使われてあげている軍人たちが食事をしている店にルルーシェが来た。
気づいて何か持ってきてくれないかと期待した。
その期待通りになったが、面倒なことも一緒についてきた。
それはご愛敬というものかもしれない。
「おーい、ルル」
「あっ、キィだ」
「ルル、どこまで行ってって。昼間の魔獣か?」
「うん」
「サンドイッチを馳走になった」
ルルーシェが走り出した理由が分かってキルシェは納得した。
あとは人であるキルシェも何か不安定な悩みを持っていることに気づいた魔獣は面倒なことになったと嘆息した。
「そうだ。聞きたいことが」
「なんだ?」
「俺たちは理に行こうと思うが森には不慣れだ。案内を頼める魔獣を知らないか?」
詳しい関係は知らない。
知らないが二人の年齢差から親子だとしたらそっくりだと魔獣は思った。
この親にして、この子あり、だ。
「われが案内をしてやろう。このあたりの魔獣は知性が低い」
「良いのか?」
「われの仲間から新しいモノを寄越しておく」
本当に面倒なことに巻き込まれたと思うが、悪くないと思う気持ちもあった。
噂でしか知らない理の本質というものを知ることができるかもしれない。
そんな楽しみもあった。
「そう言えば、どうして軍人に従っていたんだ?」
「あぁ、数年前くらいのことだ。われの仲間の仔が人の罠にかかった。子供とはいえ魔獣だ。軍人が派遣された。それがマキシムという男だ」
「あいつは、そんなこともしてたのか」
魔獣の討伐は特殊部隊が派遣される。
警邏隊が派遣されることはまずない。
それだけ中央から邪険にされているということだった。




