CHAPTER-2 《異質の牙城》
メイジの少女は雷光の衝撃に煽られ、尻餅をつく。魔方陣のあった場所には雲間から伸びる巨大な光の塊が生物のように煌々と輝き蠢く。少女はただ呆然と、その塊を見つめることしかできなかった。しばらくして、雷雲は大きく割れ、裂け目から陽光が少女に差し込む。少女は眩しさに一瞬目を瞑る。
再び瞼を開くと、雷雲はすでに消えており、青い空と白い雲、暖かい風にたゆたう草があった。しかし、その眼前には異質とも呼べる巨大な《何か》が聳え立っていた。レンガとも石とも異なる灰色の壁と薄い鉄で出来た蛇腹の板、少女は怖気付きながらも、おそるおそる《何か》に近づく。
「ちょっと、何よこれ・・・? これが召喚されたってわけ?・・・え?」
未だに理解できない、私の召喚したのは《魔の軍団》、召喚主に隷属する異形の軍団、圧倒的物量と残忍さを持ち、ドラゴンの群れさえも恐れない殺戮の化身、それなのに、それなのに、目の前にあるのは変な建物。もしかしたら、この中にいるのかもしれない。
「おーい・・・《魔の軍団》さーん? いますかー・・・?」
少女は杖を握り締め、鉄製の扉の前で立ち尽くす。
近づくと余計に際立つ建築物だ。辺境の要塞にも似た無機質な灰色の城、ただただ聳えているだけで、畏怖のような感覚がきて、おもわず身震いする。
「でも、成功したって事でいいわよね・・・?」
少女は蛇腹の薄鉄の板を叩いて笑う。この蛇腹の板は、周りと比べると断然薄い。《召喚魔法》で失った膨大な魔力のせいで、あまり大きな魔法は使えないが、この程度の板なら低火力魔法でも破れると考えた。
「ここなら破れる・・・《衝突魔法》!!!」
少女は杖を振るい、蛇腹の板に向けて魔法を放つ。板は大きく拉げ、円形の大きな穴を開けた。案の定薄い板だ。
《衝突魔法》は接近魔法の中でも汎用性が高く、対象に強い衝撃を与えるだけのシンプルな魔法なだけに覚えやすい。
少女はいつでも魔法を唱えられるように用心しながら、杖を前に突き出して先ほど開けた穴から建物の中に入る。