〜少年はそこで武器商人と言う職業を知る〜(2)
その後、双子の親と色々な話をした。
彼らの住んでた家が壊れた事。その後、寝泊まりしていた父親の工場も空爆で壊れてしまった事。そして、これから母方の親族がいるT国に行こうとしている事など色々だ。
双子の名前は、マル、モロと言うらしい。男の子がマルで、女の子がモロと言う。
性格はお兄ちゃんのマルは好奇心が抑えられない年頃なのか物怖じせずに進んでいくのに対してモロはマルの後ろをついて歩くような引っ込み思案な性格だ。
マルとモロの家族の状況を聞くと、自分も置かれている状態について話した。話を聞き終わっ両親は少し哀れんでいるような顔をしたのが分かった。その後奥さんが優しく抱擁してきた。
実の母親の顔を知らない俺はこの時、本当に母さんがいたらこんな感じだったんだろーな。と思いながらそのまましばらく抱きついていた。
ハンスとアイナがいる部屋には戻りたくなかったが、このまま逃げてても何も変わらないし家にすら帰れないかもしれない。
そう思って、部屋をあとにしようと立ち上がると父親と遊んでいたマルが近づいてきて、
「お兄ちゃんも、頑張ってね。僕達も負けないように頑張るから!」
と、興奮した様子で話しかけてくる兄のマルは、言いながら俺のズボンを引っ張ってくる。まだ、小学生ぐらいの年齢なのになんでこんなに力が強いのだろうか。なんでだろ一歩も動けないや。
その後彼らの部屋をあとにしてハンス達がいる部屋に重たい足を引きずりながら戻った。
T国に着いたのはそれから数時間後だったがその間ずっとマルの言葉とハンスが言ったセリフを思い出しそれが頭から離れなかった。
平和。平和ってなんだろ……
結局自分はその答えを見つける事が出来ずに船から降りた。貨物室にいた人達は後から聞いた話によると親が死んであてが無くなった子供達らしい。
彼らはこれから男は強制労働でボロ雑巾のになるぐらいまで使われ動けなくなったら捨てられる。女は売春宿などに売られるらしいという事を聞いた。
どちらも、自分の考える平和とは程遠い。因みに自分の頭が少しイッているのか、未だに二人が死神に見える。全く俺も平和とは程遠い所に立っているんだけどさ。
「らっくーん。どうしたの?早く宿に行くよ〜。」
車の前でアイナがこっちを向いて手を振っている。今は彼らに置いて行かれないようについて行こう。考えるのはそれからだ。
途中、市街地を通ったが、街はいたるところに戦争の爪跡が残っていた。全く、戦争のなにが楽しいのだろう。
車は市街地を抜けて宿泊場所のホテルに泊まった。こちらは市街地とは違い被害はほとんどなかった。
「着いたー!ん〜。らっくん。私達これからこっちの高官にも武器売りに行くんだけど見る?」
車から降りたアイナは少し体を伸ばしてからこれからこの国にもどうやら武器を売るらしい。
改めて思ったが武器商人は敵はいても味方はいないらしい。
さっきのコンテナの一件から自分はこのまま武器商人を続けて行けるか不安になっていた。だからアイナが、これから行う商談もとてもじゃないが見る気にはなれない。
「ごめん。遠慮しとくよ。なんか今日は気分悪いし、ちょっと散歩したらホテルで休んでてるからさ。」
「そう?ハンスは私の護衛もあるかららっくんに連れていけないから気をつけてね。何かあったら連絡して。お姉ちゃん商談なんかほっぽらかして助けに行くから。」
そう言って俺たちは別れた。二人は車に乗って出て行った。
今の現状を考えながら市街地に向かって歩く。現在C国とT国は短期間の停戦を結んでいるから簡単に商品が持って来れたんだけど。さて、どうしたものか。
俺はこのまま船に積まれていた商品を売るか、それとも売らずに日本に帰るか。
きっと正解は後者だろう。このまま日本に帰ってなにもなかったように過ごす。良いじゃないか。親父がどうであれ俺はこの仕事には向いてない。
「はぁー、結局。なんのためにここにきたんだか。武器商人とか、人身売買とかやってられないよな。」
突然の一際大きな怒声と何かが壊れる破砕音が今まで考えていた事をかき消される。その後数秒たってから続けざまに聞こえる数回の発砲音。甲高い悲鳴が遠くから聞こえる。誰かが撃たれたのか?
戦争は一時的休戦を結んでいると聞いていたので流石にこれには驚いた。いや、ここは間違っても戦場。治安は最悪だ。銃の一つや二つぐらいこっちに流れていてもおかしくない。
状況が気になり音のした方向に走っていると、全員同じ迷彩服を着た団体がこちらに近づいてくる。あーやばい。これはダメなパターンだ。
「キミは『limit』の者だね。」
相手はアジア系の顔立ちをし、俺よりふたまわりは大きい男であった。親父と同じぐらいの年齢だろうか。流暢な英語を使って話しかけてくる彼は鷹のような鋭い眼差しがどうやら彼がグループのリーダーという事を語っている。
「あなた方は?」
「我々は民間軍事会社『ブラック・スカル』の者です。今回『limit』から銃器を購入したのですが。」
いくつか分から無い単語はあったものの、相手が今回の商売相手。つまり客だと分かってちょっと安心した。良かった、さっきの血走ったT国の連中かと思った。
それにしてもこんなとこまでよく戦争しに来るな、傭兵屋は。全く、こちとらたった今武器は売らないって決めたんだよ。
そこで俺は一つの嘘をつく事にした。
「商品のことですが少し納入が遅れていまして。」
商品ならすでに船の中で眠っている。相手が何者であれ俺は売る気は無かった。それが自分の考える平和の近道に思えたからだ。
そう、戦争のない、平和な世界を作るなら武器を売らなければ良い。
「オーマイガー!これじゃあ俺たちは戦えないじゃないか‼︎これからどうやって戦えば良いんだ。」
彼はそれっきり仲間と話出すとこちらを振り向かないでいた。ふと、そんな彼らにずっと頭の中で悩んでいた事を聞いてみたくなった。
どうして戦争をするのか。
「あなた達はどうして、どうしてこんな危険な戦争地域で働くんですか。」
こちらを見ずに話し込んでいた彼らはこちらを向いて一斉に笑い出す。
「ははは!武器商人のあなたがそれを聞くかい?limitの坊ちゃん。俺たちが戦争をする理由?そんなのこんな狂った戦争を早く終わらせるためさ。知ってるか、現在、戦争してるのはここと一部の島だけだ。なぜだかわかるか?」
答えが分からずに口を閉ざしていると、相手のリーダーが更に話す。
「それはな、勝ったにしろ負けたにしろ、戦争で一区切りの結末がついたから。トドのつまり、戦争が終わるためには戦争をするしかないのさ!」
『平和な世界は戦争がない世界。』
『平和になるためには戦争をするしかない。』
この、アンチテーゼに俺の頭が思考停止するほど混乱した。
その後、彼ら『ブラック・スカル』とどうやって別れたのかは覚えていない。
気がつくとベッドに横たわってぼぉーとしていた。覚醒を促されるような感覚に見舞われて、ふと自分の今おかれている状況を確認する。体に外傷のようなものはないものの、ぽっかりと心に大きな穴のようなものを感じた。自分の考えは間違っているのだろうか。
平和の為の戦争の否定。方や平和の為の戦争の肯定。どちらが正しいのだろうか。自分にはわからない。
俺はその答えがこの国のどこかにあるような気がして、再度街に歩き出した。外は水平線から昇ってきた太陽を追い出すかのように暗闇が空を覆い尽くすか尽くさないかぐらいの薄暗い空だった。
ホテルを抜け市街地に入るとホテル街にあった街灯がほとんど無くなっていた。正確には壊されていた。唯一残った街灯には大勢の人が団子になるように集まって焚き火をして暖をとっている。
彼らを横目に見ながら市街地を抜ける。何かを思って歩いているわけでは無かったが、どうやらクルマで来た道を逆に辿っていただけだった。
そして、潮の香りがするそこにたどり着いたのはホテルを出て数十分後だった。この港は戦争が起こっている場所の反対側の位置にあり、被害が少ないがそれでも所々に戦争の傷は付いている。
「………ぉにぃちゃん。」
石レンガの床を歩きながら湾岸沿いを海をながめていると、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。
振り返るとそこには船の中で出会ったマルとその母親の姿があった。