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希望の星屑  作者: てんてん
知を求めて
1/3

1・星屑の世界

*


 かつて存在していた世界『ネプチュリア』。

 その外観は、青く美しく、「奇跡の星」と呼ばれていた。

 文明は高度に発展し、支配者のいない世界。人々は豊かに暮らし、誰もが幸福でいられる、そんな世界だった。

 しかし、謎の原因により、世界は突然ものすごいエネルギーでバラバラに砕け散った。それによって散りばめられた星の(くず)

 だが、運命に抗うように、人々は星くずに最後の希望を(たく)していた。


【汝、無知を知れ】


*


 カランカラン。

 町の酒場に一人の少年が入店する。

 その少年の服装は、この熱帯の小国『メラネス』においては、ごく普通のものだった。

 半そで半ズボン。半そでは灰がかり、袖はボロボロに破れている。まるで過酷な冒険をしてきたような破れ方だ。だが半ズボンだけは、取り替えたのだろうか、やけに真新しかった。真っ白で清潔なズボン。そして、緑色のキャップを目が見えなくなるくらい深くかぶっている。

 さらに、そのボロボロの衣服の不潔さをかき消すように、大きく赤い宝石がついたネックレスをぶらさげていた。

 店内の人々は皆、次々に不思議な格好のその少年に視線を向ける。


「あん?おい何だボーズ。

ここはお前みたいなガキが来るとこじゃねーよい」


 酒場のゴツい体型の店員がその少年を見るや否や言った。

 しかし少年はそんな言葉を気にせず、ズボンのポケットに両手をそれぞれ突っ込みながら堂々と店内を歩き、カウンターに腰を掛ける。


「おい……ボーズ」


 近くで店員が、ため息混じりで再び声をかける。

 だが少年はその言葉を無視し、緑色のキャップのつばに手をかけながらこう言い放った。


「母親を探しているんだ」


 店員は、その言葉を聞いて少し目を丸くした。するとどうやら、少年を店内から追い出そうという意識が消えたらしい。


「こほん」


 と、店員。まだ真昼間(まっぴるま)のこの小国『メラネス』の酒場で、場違いにも入店した少年。その少年は、暫くして自分のキャップを取った。

 キャップを外して現れたその髪は茶髪で、真ん丸の赤い瞳をしていた。その瞳で、店員の顔を見つめる。


「なんて名だい?」


 店員が聞く。するとすぐさま少年は答える。


「マリア。マリア・ナタリエル」


 その名を聞いた瞬間、店員は素直にびっくりした様子だった。周りの人間もぎょっとした目で少年に視線を向ける。

 店内は少年の一言によって静まり返ったのだ。暫く沈黙が店内に流れ、


「マリア……!?」

「マリアだって……」

「あのマリアの子!?」


 騒然となる店内。驚いた店員は息を荒くして少年に言う。


「お、お前さん、マリアを探しているのかい?

 マリア……あの人はね、二年前までここにいたけど、イースタンに行った。なんでも、古代図書館に行くとかな」

「古代図書館?」


 少年が聞き返す。


「おうよ、イースタンだよ!あの、世界の四大大国、『イースタン帝国』!

 そこに現存する、かつて存在していた世界『ネプチュリア』の遺産、古代図書館『ストラホフ』に行くためにな!」


 興奮する店員だが、いまいちピンとこない。イースタン?四大大国?少年は店員が何を言ってるのか全く訳がわからなかった。


「ごめん。もう少し詳しく頼む。俺、母親のことなんにも知らないんだ」

「む!?」


 少年の言葉に店員はさらに驚く。


「馬鹿野郎!お前の母親、マリアは、考古学者だ!

 なんでもあの『ネプチュリア』の謎を解き明かそうとしてるらしいぞ!」


 その話を聞いて、少し意外だったのか、少年は持っていた緑色のキャップで自分の鼻をさりげなく隠す。


(へ、へぇ。考古学者……だったのか。俺の母親。意外だなぁ。しっかし、よくしゃべるなぁ、この店員。ちょっと酒臭いし……匂い嗅がないようにしよ)


 少年は、キャップで店員の酒臭さを感じないように、さりげなく鼻を隠していたのだ。口もキャップの中の空間に包まれながらも、話す。


「まぁ……つまりその、イースタンってとこに行けばいいんだな」

「おう!」


 なんだかんだいって親切だった店員。しばらくすると、頼んでもいないのにブドウジューズが出てきた。

 何分か話していると色々母親のことがわかった。なんでも、少年の母親はここら辺じゃ有名だったらしく、人々に好かれていたらしい。

 その子供ともなれば、もてなさない訳にはいかない。

 そして店員は、少年がぶら下げていた大きく赤い宝石がついたネックレスを見てこういう。


(ニイ)ちゃん、最近なぁ、ここらで盗賊団が出るって噂だ。

 その宝石、とられないようにしろよ」

「ん?おう。ありがとうおっちゃん」


 暫くして、少年は緑色のキャップを再び頭に深くかぶり、席から立ち上がった。


「もう行くわ。ありがとな」

「なんだぁ、行っちまうのかい」

「おう」

「あんた、名前は?」


 店員が聞く。すると少年は、


「ユリー・ナタリエルだ」


*


 カランカラン。

 町の酒場から退室したユリー。


「ふぅ、全く……酒場ってのはめんどくさいな」


 そういうと、ユリーは港に向かって暫く歩く。

 あの酒場の店員の話だと、母親がいる国「イースタン帝国」というところには、船じゃないと行けないっていう話だ。熱帯のこの国は、見るとどこにでも熱帯植物である「マングローブ」が生えている。まさに、熱帯の国。今日は快晴で、すれ違う人々は皆暑そうな顔で過ぎてゆく。

 路地から、しばらくすると大通りに出た。またマングローブがある。そこは、とても賑やかな商店街で、じめじめと、熱帯ならではの感じだ。売っている商品も、バナナだらけ。

 

 しかし、遠い。港はここから18キロ行った町にあるらしい。この国はとてもじゃないけどクソ暑い。歩くには面倒だ。ていうか、暑い。


 そんなことを考えていると、どこからか、男性の悲鳴が聞こえてくる。恐ろしい、断末魔のような悲鳴だ。

 この暑い中、なんなんだよ。ユリーはその方角に目を向けた。するとなにやら、人だかりがある。


「なんだ?」


 今から港に向かってもどうせ暇だ。だから面白そうという好奇心のもと、ユリーはそちらのほうへ駆け寄ってみる。ちょっとの距離だった。

 すると、人だかりの中に、剣を持つ男と、倒れこむ男。

剣を持った男は、右足で倒れこんでいる男を蹴りまくっている。なんとも痛々しい光景だ。


 その周りの人々、ヤジウマは、誰もなにもせず、ただその光景を見つめている。


「なんだ、コレ」


 ユリーが呟く。すると隣の女性が、


「下級階級の人が、上級階級の人とぶつかっちゃったらしいよ。

 上級階級の人、ご立腹なさって……全く、この国は。身分制度が厳しいわね」


 身分制度……。なんだそれ。ユリーは目の前で広がる恐怖を手に汗握りながら見つめていた。

 誰か……助けないと、あいつ、殺されるぞ……


 上級階級のその男が、とうとう蹴るのをやめた。


「もう、貴様は良い。謝罪金の一つも用意できぬとは。死ね!」


 するとその男が、剣を鞘から取り出す。


「ひぃ、い、命だけはぁ……」


 蹴られていた男が命乞いをする。が、その願いは聞き入れられず、上級階級の男に剣先を向けられる。


「きゃぁぁああああ!」


 周りで見ていた女性の一人が声を上げる。


 どよめく、ヤジウマ。


「死ねぇ!!」


 くそっ、黙ってみてられねぇ。葛藤したユリーは、ついに行動を起こす。

 ユリーの近くでヤジウマしていた男性が持っていた「酒瓶」を奪い、迷わず走った!その男を止めようと、必死で。間に合うか間に合わないかぐらいのギリギリのタイミング。

 一人の命がかかってんだ!黙って殺させるかよ!


 ユリーは男のそばに駆け寄り、酒瓶を手に、手を振った。


 カキーン!


 甲高い金属音が、空を駆ける。

 どよん……と、辺りが静まり返った。


 ユリーはというと……


(ん?手応えがない。というか俺、まだ攻撃してないぞ……?なんだ?何が起きた?もしかして俺、死んだ?)


 全く意味不明な結論を下したユリーだったが、案の定そんなことはなかった。

 ユリーの目の前では、派手な、まるでこれから舞踏会にでも参加するのかというような服装をした少年が、剣を持っていた。その剣が、上級階級のあの男の剣と拮抗(きっこう)している。

 

 キーン!


「う、う、うわぁ!!」


 ついに、上級階級の男の剣は吹っ飛ばされ、一歩、また一歩とのけ反って、ついには倒れこんだ。


「……おぉ!テラ様だ!」

「テラ様……!」


 周りが、その、目の前に現れた派手な服装の少年を見て、どよめく。


(……誰だコイツ。同い年くらいか――?

 なんだよ。コレ。)


 大歓声の中でユリーは、持ち上げた酒瓶を静かにおろした。するとどこからか、羞恥心のようなものがこみあげてきた。やべ、でしゃばりすぎた。


「殺人は重罪だ」


 ユリーの前に現れた少年。金色の髪、真っ黒な瞳。服装は赤と金で目立ちまくるものだった。

 何やら、強い権力を持っていることには間違いない。


「ひ、ひぃ、すいません!テラ様……」


 流石の上級階級の男も、少年に対し頭を下げる。

 テラと呼ばれていたその少年は、静かにその剣を鞘に納めた。


「……それに貴様」


 ……ん?

 何やらこちらを見ているようだ。


「この男に、その酒瓶で殴ろうとしていただろう。貴様、見るに旅人のようだな。

 貴族への乱行(らんぎょう)行為は罪となる。心せよ」


(は?なんだなんだ。俺のこと?)


 ユリーは戸惑いを隠せず、ついにはこんなことを口走った。


「な、なぁあんた、誰なんだよ」


 ――!!

 上級階級のあの男が、目を丸くして、ユリーに対し声を荒ぶらせる。


「テラ様を知らない……!?

 貴様、こ、このお方は!この国『メラネス』の王子様、テラ・ベクトル様だぞ!」


 どよどよ。周りがまたどよめく。

 殺されようとしていたあの男も、頭を地につけてお礼を言っていた。どうやら場面は明らかに良い方向へ進んでいるらしい。

 

 だが、そんな中で、顔色が明らかに怪しい人物が、一人。

 この国『メラネス』の王子、テラだ。


「きききき、貴様!この私を知らぬというのか!!

 だ、大体なんなんだ貴様は!旅人のくせに!自分が訪問した国の王子くらいしっかり確認しとけよぉ!」


 テラが、ものすごく声を張らせて、ユリーに指をむけながら言った。とても一国の王子の発言とは思えない。


「え、え、えぇ!?」

「てか、なんなんだよおめーのその服装!!なんでズボンだけ明らかに上よりきれいなんだよ!!きたねーよ!なんだよ、ボク下半身には清潔感保ってんです的な!?うぜーよ!そんなんで女捕まえられると思ってんのか!!」

「え、え、えぇ!?」


 三度戸惑うユリー。周りのどよめきは絶頂に達し、口をふさいで笑いをこらえている女性もいた。


「うわぁぁぁぁぁ!」


 テラはそのまま、走ってどこかへ行ってしまった。

 

「な、なんだったんだ……アイツ」



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