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理不尽な!?魔道具師。  作者: kususato
3/23

南騎士団 臨時補佐官 (2)

2話目です。

 「騎士団長!補佐官殿がどちらにいらっしゃるかご存知ありませんか?!」

 「補佐官?・・・・今はいないぞ?」

 「「「・・・・」」」

 騎士たちは顔を見合わせ、そうか、今はいないんだなと思った。



 「副騎士団長!補佐官殿が現在おられないとの事なので、こちらの書類をお願いいたします!」

 「私の書類もお願いいたします!」

  「・・・・・書類は預かるが。」

 「ところで副騎士団長!本日の補佐官殿は午後出勤ですか?!」

 「補佐官?・・・・違う。」

 「「「・・・・・」」」

 騎士たちはまた顔を見合わせ、そうか、午後からの出勤じゃないんだと思った。



 「では、補佐官殿は本日はお休みでありますか?」

 「・・・・・南騎士団には現在補佐官は存在していない。」

 「「「・・・・・」」」

 騎士たちは再び顔を見合わせて、そうだ”臨時”だと補佐官殿も言っていたと思い出した。


 「申し訳ありません!臨時補佐官どのは、本日お休みでありますか?」

 「南騎士団には過去も現在も補佐官が存在したことはない。臨時だとしてもだ。」


 「ええっ?!なんですって?!では2ヶ月ほど前からいたあの人は幻だったと?!」

 それはまた、長い間出現していた幻だ。

 「そんな!まさか?!ではもしかして、あの人はこっそりとお手伝いしてくれるという伝説の妖精さんだったのでは?!」

 全然こっそりしていなかったし、寧ろ堂々としてたよね?

 「そう言えば、そんな神秘的な気配を漂わせる雰囲気をお持ちだった!!」

 そんな雰囲気を醸し出した覚えは、かの人物には全くないだろう。



 騎士たちの言い分に頭を抱えた副騎士団長が、疲れたように説明をする。


 「お前たちの言う”臨時”補佐官が昨日までここにいた黒髪の者のことを指すなら、あれは冒険者ギルドに依頼した薬の追加と備蓄の請け負ってくれた、薬師の資格を持つ冒険者だ。ギルドに依頼した仕事が終了したのであの者はもうここには来ない。事務仕事に関しては・・・・器用そうだったから少し手伝ってもらっていただけであって、決して”臨時”の補佐官ではない。わかったか?」


 「「「・・・・・・」」」

 騎士たちは三度(みたび)顔を見合わせているが、理解したようには見えない。

 彼らには長い説明だったのか、まだ把握出来ていないらしい。


 「「「・・・・・・」」」

 考え中。

 「「「・・・・・・」」」

 考え中。

 「「「・・・・・・」」」

 考え中。

 「・・・・・俺の説明は理解したか?」


 「それはつまり・・・・もうあの人はこの南騎士団には来ない、ということですか?」

 「そうだ。」

 「「「!!」」」


 やっと理解したらしい騎士たちは叫んだ。

 「そ、そんな?!我らの補佐官殿が――――――――っっ!」

 「唯一の癒しが――――――――っっ!」

 「一服の清涼剤が――――――――っっ!」

 「「「我が南騎士団の潤いが失われた――――――――っっ!!」

 「ちょっと待てコラお前たち・・・」


 「「「「「何だと――――――――――――――――っっ!!!」」」」」


 


 建物の影から草むらの中からのそこかしこから、ワラワラワラワラと自騎士団の面々が雄叫びを上げながら出現し、すわ暴動か?乱闘か?という勢いで騎士団長たちのところまで突進してきた。


 「お前たち!何故そんな所で潜んでいた?って・・・・えっっ?!」


 ――――――――――――――――と思ったら、騎士団長と副騎士団長以外ががっくりと肩を落とした。


 大柄で筋肉過多な男たちが一同に項垂れる姿はある意味圧巻だが、守られるべき南区に在住する民にはとても見せられない。

 騎士団長と副騎士団長だって見たくなかったはずだ。

 しかもそれぞれが何やらブツブツ呟いている。

 

 「近づいても一歩離れるだけで、他の一般人のように脱兎のごとく逃げたりしない人だったのに・・!」

 「役に立った時には優しく微笑んで頭をなでなでしてくれる人だったのに・・・!」

 「「「「せっかくの・・・・掃き溜めの鶴だったのに・・・!」」」」

 

 自分たちの騎士団を掃き溜め呼ばわり。

 そんな騎士たちを騎士団長は、驚くやら呆れるやらの複雑な心境に陥るも見ているしか出来なかった。

 その横で副騎士団長はただただ呆れていたが、ふと思った。


 (あの冒険者、そんなに惜しまれる人物だっただろうか?俺には冷たく怒っている印象しかないんだが・・・)




 ******************



 

 木も斑にしか生えていない岩山に囲まれた場所を、照りつける日差しを避けるマントを(ひるがえ)しながらテンポ良く移動している人影がある。



 周辺の状況を確認しようと、その人物は見晴らしの良い場所で動きを止めた。

 索敵魔術を展開はしているものの、目視でも周囲を探っている。



 南区の特徴である熱帯的な気候とこの場所に住み着いている火トカゲの影響なのか、吹いてくる風はかなり熱い。

 その熱風が髪と左耳についている魔法陣を刻んだコインを組み込んだ細い紐をより合わせて作られている耳飾りを不規則になぶっている。


 そんな状態でも、汗一つかかずに辺りの様子を窺う顔は嬉しげだ。

 火トカゲを容易(たやす)い相手と侮っている訳ではないが、ここしばらく思いっきり体を動かす機会がなかったために心が浮き立っているようだ。

 


 この人物の名前は、ヴィー・ショーノ、17歳。

 サラサラの黒髪に切れ長の同色の黒い瞳。

 全体的にすっきりと凛々しく、中性的な面立ちだ。

 身長は175cmほど。

 学生時代はにょきにょき伸びていたのに最近は全然だ、とこれで頭打ちかな?もう少しくらい伸びてもいいなと思っているらしい。

 15歳で国立のロガリア学院魔道具科を卒業して以来、自分の魔道具の店を持つという夢を叶えるべく資金と店舗の場所を求めて国のあちこちを渡り歩き、冒険者ギルドの依頼をこなしている。

 現在のギルドランクはCランク。 

  



 「見つけた。」





 火トカゲの群れ、数は6匹。


 群れというには少ないが、火トカゲ自体はかなり大きい。

 牛よりも一回り大きいと言えば分かりやすいかもしれない。

 暑さにも熱さにも強い火トカゲは、敵に遭遇すれば相手を焼き尽くす火を吐く。

 動きは俊敏で力も強い、長い尾の攻撃を受ければヴィーくらいの体格の者は吹っ飛ばされるだろう。

 


 向かい風のためか、あちらはヴィーに気づいていないようだ。

 素早く自分の武器である弓に矢を番え、狙い定める。

 だが風は向かい風、このまま射れば威力が弱まる、だから()ぐのを待つ。


 好機を逃さず、素早く間を置かずに続けざまに矢を放つ。

 抵抗する隙を与えられずに頭部に矢を受けた火トカゲは、体が硬直した数分後にぐったりとなった。


 しばらく様子を見ていたが、徐に立ち上がり火トカゲの元へと下り立つ。

 

 


 周囲に結界を張り、素材となるべく火トカゲの皮を剥ぎ、肉と骨を切り分け、血と眼球すら瓶に詰めていく。

 

 数の間引きとは言え、その体に捨てる箇所はないので回収出来るものは全て回収する。

 体内から取り出した魔石を回収し、放った矢も回収して魔法陣を刻んである布札で洗浄する。

 火トカゲから得た素材と討伐証明となる1匹付き牙2本計12本を愛用の拡張魔道具であるバッグに詰め込むとついでに辺りを軽く洗浄。


 最後に、血生臭い状態の自分自身を洗浄すべく、再び別の魔法陣を刻んである布札を取り出し言葉を発する。

 

 「”洗濯”魔術発動。」

 するとヴィーの体の周りに小さな石鹸泡を含んだ水流が巻き起こり、汚れと匂いを取り去っていく。

 そのまま、すすぎ・脱水と続き、うっすら微かにミントの香りが漂い始める。 

 「ふ~・・・”洗濯魔術、解術。」

 服は乾き、こびり着いた血などの汚れも落ち、髪もサラサラだ。



 冒険者ギルドの依頼を恙無く終え、満足気にヴィーは(ひと)()ちた。

 「さてと、帰りますか。」





 岩山に来た時と同様に周囲を魔術で索敵しつつ、テンポ良く移動をしながらヴィーはふと思った。

 「火トカゲの肉って、美味いのかな?」


 そう言えば、南区に来てまだ日が浅いこともあって、火トカゲは食べたことがなかったなと。


 南区とは正反対の”極寒区”と別名がついているヴィーの実家がある北区に棲息している雪トカゲは食べたことがある。

 結構美味しかった。

 西区と東区のトカゲもそれなりに美味かった。

 だったら、火トカゲもちょっと期待しても良いくらいには美味しいのではないか。

 

 塩焼き?照り焼き?唐揚げ?煮込み?

 自分で料理しても良いのだが、まずは地元料理からだよね?という事で、今泊まっている宿の主人に料理してもらえるように頼んでみよう!なんて考えていた。


 「あ、やばい、(よだれ)がっっ!」



 ヴィー・ショーノ17歳は、まだまだ成長期、食べ盛り。 



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