プロローグ
拙作「理不尽な?!」から約2年後~のお話です。
ラフューリング王国は王都中央を中心とし、その周りを東区西区南区北区の4つの地域にわけている。その海側の玄関口であるトーク港を有する南区。
この地区は気温が年間を通し常に15度を下回ることがなく、とても暖かい。
というか暑い。
反対に位置する北区は別名”極寒区”と称されているが、この南区は”酷暑区”と言われるほどである。
更に季節が夏ともなれば連日は30度を優に超えるが、湿度が低いためカラッとしている。
が、酷く暑い地域だ。
現在は初夏ということでまだそれほどの暑さを感じずにいられる季節だ・・・暑さに慣れてしまっている地元民にとっては。
それでも時間が経つ毎に気温は上がっていくだが、朝早い時間帯の今は清々しく(しつこいようだが地元民にとってはだ)どちらかというと涼しいくらいだ。
南区のトーク港にほど近い場所に石を積み上げて固めた外壁、そしてどっしりとした要塞のような砦がみえる。
青々とした蔦が覆っているため、無骨に見えがちなその建物の威圧感をやわらげている。
ここはラフューリング王国の南区を守護し、トーク港からの貿易船などに目を光らせる南騎士団の本拠地だ。
その南騎士団本拠地の砦内の石廊下を、レンガで作られたガセホ辺りを横目にカッカッカッとブーツを鳴らしながら歩く人物がいる。
「おはよーございます!補佐官殿!」
「おはようございます!補佐官殿!!」
「おはようございます!今日も凛々しいですね!補佐官殿!」
廊下を行き交う騎士たちの爽やかな挨拶の声に、礼も返さずそちらを見ることもしなければ関心も示さない。
まるで自分には関係ないとばかりに歩みを緩めず歩いていく。
「おはようございます!!補佐官殿!副騎士団長のところへ行かれるのですか?ご一緒してもよろしいですか?」
「おはようございます!お疲れ様です!補佐官殿!」
「おはようございます!実家から送られてきました果物です!よろしかったらどうぞ!補佐官殿!」
会う騎士会う騎士が口々に声をかけてくる状況を看過していた人物はピタリと立ち止まると、はあ~・・・と溜息をついた。
その様子に声を掛けてきていた騎士たちは、構って構って!状態の子犬のごとく目をキラキラさせてその人物の動向を見ている。
”何でこんなことになっているんだろう?”と甚だ疑問に思いながらも、何度となく告げてきた言葉をその人物は騎士たちにもう一度言ってみることにした。
「おはようございます、騎士様方。何度もお伝えしてしていますが、敢えてもう一度言わせて頂きます。」
「「「「はい!何でしょう?補佐官殿!!」」」」
「・・・・・・私は、臨時でこちらの書類などの事務的な仕事をお手伝いしているだけの、Cランクの冒険者です。決して、あなた方、南騎士団付きの補佐官ではありません。」
「臨時でも何でも副騎士団長の補佐をなさってるんですから、補佐官殿で間違いはありません!」
「補佐官殿で間違いありません!」
「補佐官殿は補佐官殿です!」
「補佐官殿でいて下さい!」
「・・・・・・・・・・・・」
徐に見上げた空はとても青く、雲一つなかった。
こいつらには何をどう言っても無駄かもしれないと諦めの境地に至り、頂いた果物はしっかりと持っていながらも、そっと嘆息した。