4話「エディ」
しばらく説明回が続きます。
荷物を受け取り、部屋の前まで行く。
俺は劣等生だ。
同じ部屋にランク差の離れた奴があてられることはないはずだけど、どんな奴かわからないし緊張する。
……ふう、行くか。
ガチャ。
「し、失礼します」
ドアを開けるとそこには荷物の整理をする、ゆるふわ金髪メガネの男がいた。
「あ、こんにちは」
よかった、いい奴そうだ。
「こんにちは。
えーと、俺は荒川集です。
よろしくお願いします。」
俺は丁寧にお辞儀した。
「あ、いいよタメ口で。
今日から一緒に子の部屋使うんだしさ、気楽に行こうよ。
僕はエディ=ブスケ。
よろしく」
エディはそう言って手を伸ばしてきた。
「あ、ああ、よろしく」
俺に友好的な奴は久しぶりだ。
中学時代は俺のことをいじめるか笑うかだったからな。
ああ……思い出したら涙が……。
「わっ、どうしたの大丈夫?」
「い、いやちょっと……。
いい奴だなぁと……」
「何か辛いことがあったんだね……
僕でよかったら相談にのるよ」
「ありがとう」
ホンマええ子や。
そのあと少し話していたら、もう夕食の時間になった。
「あ、もう夕食の時間だね。
ここの食堂は早くいかないと席がなくなっちゃうらしいから、早くいこうよ」
「おう」
食堂に着くと人が溢れかえっていた。
「あちゃ~、遅かったか」
「すごい人だな……」
「しょうがないよ。
今からでもきっと何とかなるよ、並ぼう」
並ぶのはいいんだけど、食堂から人が溢れるってどうよ。
さすがマンモス校ですな。
異世界から来ている人もいるから大抵の人は寮を使うんだろう。
なんだかんだでしゃべっているうちに、俺たちの番だ。
何を頼もうか……。
「お前らどけ、アベル=メデム様のお通りだ 」
うわ、なんか後ろから声がする。
振り向きたくねえ。
「おい、貴様ら聞こえなかったのかそこをどけ」
アベル=メデム様とか言うやつの取り巻きが俺たちに言う。
「ああ、失礼しました。
集、退こう」
「……ああ」
面倒なことになる前に引いた方がいいだろう。
ちらっと見たけどアベルってのは真ん中にいる態度がでかそうな金髪イケメンだな。
ああ、イケメンなんて見たくない。
さっさとどっかいってくれ。
……いやな奴もいるしな。
「あれ? もしかして集じゃないか?」
見つかったか……。
中学時代に俺をいじめていた奴が言う。
「やっぱり落ちこぼれの集じゃないか。
いやあ、久しぶり。
まさか君もこの学校に入学するとは……。
冒険者になる夢はまだあきらめてなかったのかい?」
わざとらしいこの態度がムカつく。
「アロルド、そいつと知り合いなのか?」
アベルが聞く。
何もみんなが見てる前で聞かなくてもいいだろうが。
「アベル様、こいつは中学時代の同級生でしてね……」
アロルドが俺の中学時代の話をする。
俺が誰にも勝てずに、こいつらにお世話になったことだ。
今更そのことをどういわれようが大して気にならない。
……ああ、長い。早く夕食にしたいんだけどな。
「……そうか、こいつが噂の劣等生か」
ん、噂?
「……何やらわかってないような顔だな。
君は入学試験を最下位だということが噂されているんだよ。」
マジか……知らなかった。
なんでそんなのが噂されているんだよ。
「そんな君があの超越者の兄だというのだから笑える」
……この野郎……言われっぱなしなのは我慢ならねえ。
「しゅ、集、押さえて……」
く、俺がもっと強ければ……。
いつかその金髪全部抜いてやるかんな。
「まあ、頑張りたまえ」
ふう、行ったか。
アベル=メデムってのはたぶん貴族かなんかだろう。
注文を済ませ、取り巻き2人とVIP席に向かった。
貴族でも一応注文はするんだな。
すでに用意されてるもんかと思ったんだけどな。
俺たちもさっさと注文しよう。
「さっきは災難だったね。
まさかアベル=メデムに会っちゃうなんて」
食べ始めた時、エディが言った。
「ん、知ってるのか?」
「うん、彼は僕たちの世界の有名な貴族なんだ。
たしか、火と水の魔法が得意な家系だった気がするけど、
彼の場合剣の腕も立つそうだから、喧嘩にならないでよかったよ。
もし決闘なんかに発展したら僕ら大怪我してたよ」
貴族で強くてイケメンですか、そうですか。
ますます気に入らないな。
「はあ、俺がもっと強ければあんな奴、即ぶん殴るんだけどな」
「まあまあ、僕も集と似たような感じだし」
「と、言うと?」
「あー、実はね、僕は没落貴族の子なんだけど、
この世界に来たのは家を再興させるためなんだ。
けど、魔法の腕は上がらないし、このままじゃ家に帰らないとダメなんだ。
あと、集は弟さんが超越者みたいだけど、僕の場合兄が超越者でさ、
プレッシャー感じてるんだ」
「そうだったのか……」
エディはいつも笑ってるけど、なかなか大変なんだな。
「なんかエディとは仲良くやってけそうな気がするよ」
「僕もだ、じゃあ二人の出会いを記念して乾杯でもしようか」
「お、いいね」
「「乾杯!」」
高校初日、一時はどうなるものかと心配したけど、さっそく友人ができた。
今日は久々にいい日になったな。
いい気分になったので少し説明しよう。
さっき貴族が突っかかってきたがああいうのはあまりない。
やるとしたら同じ世界同士か、よっぽど自信がある奴だけだ。
理由としては世界観の戦争になると困るからだ。
例えばこの世界で黒人差別化する時代あるように、どこかの世界で黒人を差別する奴がいたとする。
普通なら喧嘩程度で済むが、もし言われた方の世界が黒人だけの世界だったとしたら、その世界に喧嘩を売ったことになる。そうなると言った方の人物は相手の世界からはもちろん、自分の世界からも不要な戦争を起こした罪で罰せられる。
世界がくっついてすぐの時代はそういうことが頻繁にあった。そのため今は不用意に発言する奴は少ない。
他には獣人。
この種族は、世界にもともと存在したものや、魔法や科学によって人工的に創られた者達だ。
獣耳が付いたような者から二足歩行する動物のような者もいる。
自分たちの世界では人間が作った存在だから、獣人より人間の方が偉いだろうと思って接すると痛い目を見ることがある。これは今でも時々あり、そのたびに戦争になりかける。
このように他の世界の文化にも目を向けないと大変なことになる。
それから、先ほど貴族やエディが言った『超越者』とは、人間の限界を超えた者達に与えられる称号だ。
あるときステータスの表示ができる世界がくっついたときに存在が確認された。
それ以前は勇者になるものは限界がないんじゃないかと言われていたがこれでそれが証明された。
この称号が与えられる条件は人間としての限界を突破することだ。世界が混じっているせいで定義はあいまいだが、称号を得ると勇者とみなされる。
俺の弟が超越者になったのは小学4年生になったころ、俺が小学6年生のころだった。
普通は英雄を育てるための学校に行き異世界を救う旅に出たりするんだが、弟はまだ家を出たくないということで普通の学校に進学した。おかげで俺は家で肩身が狭かったが……まあいい、晴れて寮で生活することになったし、こうして友人もできたしな。
弟のことを思ったら気分が悪くなってきた。
エディとの食事に戻ろう。




