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2話「過去のこと」

 俺はこの世界16年目だから慣れたけど、一回この世界について説明した方がいいだろう。


 まず転生して驚いたのは、魔法があることだ。

 俺の時代には少なくとも表舞台には出てこなかった。

 それが今は皿洗いや火を起こすのに使われている。

 よく見ると部屋には水晶や何やらわけのわからない魔法陣、剣などがある。

 母親は魔法使い兼主婦、父親は剣士兼サラリーマンだそうだ。

 言葉もわからない赤ん坊によくしゃべってくれる。


 絵本にもこの世界を救った勇者の話とか、侵略者の話とかがあった。

 その時分かったが、何やらここはもう、一つの世界じゃないらしい。

 俺が死んですぐ、世界がくっついたそうだ。

 それはまさに未知との遭遇だった。

 


 くっついた場所は東京。

 突如黒い穴が開きそこから一人目の異世界人が出てきた。

 最初はコスプレイヤーだと思っていたみたいだが、異世界人がぞろぞろと出てくることにより、人は困惑しすぐに警察が動き、そしてついには政府が動くことになった。

 話は案外通じた。

 言葉は違ったが、あちらの世界では『翻訳魔法』なるものがあるらしく、それですんなり話ができたらしい。

 原理のわからない『魔法』との邂逅、あちらにしても『科学』についてあまりわかってなかったらしく困惑したそうだ。


 だが異世界人との交流ができたからって、いいことばかりじゃなかった。

 黒い穴……のちに『BP(ブラックポイント)』と呼ばれるようになる穴から、モンスターが出てくるようになったのだ。

 初め、モンスターたちは自衛隊などの政府機関が駆除していたが、ドラゴンが現れたことにより、俺たちの世界は困惑した。

 とても銃火器で相手できるものではなかった。

 戦車や戦闘機が出てくる騒ぎになった。

 結局ドラゴンは倒せたが、国会はドラゴンとの戦闘により破壊され、町にも被害が出た。

 なにより死者が出たことにより国民の不満が爆発した。

 今まで平和だった場所がモンスターたちによって戦場になったから当然だ。

 そしてその不満は異世界人にも向いた。

 あちらもこっちの科学を利用した犯罪にあったものがいるらしく、冷戦状態になった。

 

 さらには国会、首都・東京が壊滅状態になったことによる、政府機関の能力の低下もあった。

 そのため異世界の進行がない諸外国にとって、日本は格好のサンプルだったが、ついに日本への援助という形で信仰を始めた。そして、 その他の国も他国を出し抜き異世界の魔法の情報を得ようと各国の諜報機関が暗躍する、混沌とした状況となった。

 



 だがそんな時、奇妙な奴らが現れ日本と異世界を救うことになる。

 それは日本の、元はニートや引きこもり、あるいは中二病と言われる者たちだった。

 彼らは異世界への溢れんばかりの愛や憧れから、単身で異世界に突入した者たちだった。

 そういう人間も今まで何人かいたらしいが、たいていは死亡して帰ってくるものばかりだった。

 しかし、彼らは見事生き残り、異世界で力をつけ、地位を築き帰ってきた。

 そんな彼らからすればドラゴンは雑魚だったらしく、1週間で日本の政府機関を復活させ、他国の諜報機関を潰して回り、日本は異世界との交流権を独占することになった。



 そして、月日は流れ、今は異世界との交流が最も多い国として地球上の国のヒエルラキー最上位として君臨している。

 

 最も多い国、それはBPが他にも出現したからである。

 今やBPがない国は片手の指で足りるくらいだ。

 同じ異世界のBPが二つ以上開いているものもあれば、異なる世界のBPがあるところもある。

 日本は国土が小さいながらも、BPは10以上あると言われている。

 中には法則がちがう世界もあったりして一時はどうなることかと騒がれていたらしいが、今は安定している。





 そんな中、俺は他の子どもより優れた子として扱われていた。

 ……小学生までは。

 俺は前世の記憶があるのをいいことに、様々なことに挑戦した。

 体を思うように動かせるようになってから、父に剣を教えてもらい、稽古に励んだ。

 母に頼み魔法の練習に励んだ。

 

 だが、俺には剣の才能も、魔法使いとしての才能もなかった。

 なんとなくそう思い始めたのは小学3年の時だ。

 誰かに言われたわけではない。

 ただ自分でわかる。

 俺より遅く始めた友達が俺を越えていくのがわかる。

 親は何も言わない。むしろ今の年齢でここまでできるのはすごいと言う。


 確かにそうだろう。

 俺は小学三年生で、異世界の衛兵とやりあえる、勝てなくても負けないくらいの実力はある。

 だけど、俺より遅く生まれ、遅く稽古を始めた弟に負けるとは思わなかった。

 弟も勝てるとは思わなかったのか、ポカンとした表情だった。

 そして、なんだか申し訳なさそうな顔をする。


 悔しかった。

 負けたこともそうだが、勝ったのにあんな顔をしたのが悔しかった。 

 

 それから何度も弟に勝負を挑んだ。

 最初はまぐれだったはずだ。

 だが、日に日に俺との差が開いていくのがわかる。

 俺を負かすたびに弟があの何とも言えない、悲しそうな眼をするのが悔しかった。

 魔法でも勝てない日々。


 そして、ついに小学5年生になるころには剣でも魔法でも勝てなくなった。



 俺は剣と魔法の才能がないことを認め、槍の稽古に励んだ。

 だが結果は惨敗。

 ならばと弓や鉄砲などの遠距離武器や、罠や不意打ちなどの反則まがいなこともした。

 

 ……結局俺は勝てることなく中学生になった。

 

 そして中学生ともなればみんな体が出来上がってくる。

 俺は小学生までは近所では弟以外負けなしだった。

 それが中学生になった途端、周りが俺を越えていく。

 俺は自信を無くした。


 転生したから何でもできるというわけではない。

 わかっていたはずだ。 

 

 俺はついに誰にも勝てないまま、中学を卒業した。


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