03
今さっき私を部室から連れ出したちょっと怖い顔で、身長が約180センチのあからさまに人に威圧感を与える容姿の彼は、1-3の難波昌樹という。
そんな彼は実は、料理が好きで高2がいないため高1で料理部の部長をしている。
(ちなみに高3はすでに引退している)
そして、彼が私を呼びに来た理由は料理部の女子が喧嘩しているから止めて欲しいというものだった。
私も料理部の部員だから他人事と放っておく訳にはいかず、二人で調理室に向かった。
「ゆな先輩!」
調理室に入ると誰かが怒鳴り合っている声が聞こえた。
すると中学生の後輩の一人が私の元に走りよって来てくれ、状況を説明してくれた。
喧嘩をしているのは私と同学年の高1の女子だった。
喧嘩の原因はなんともくだらない、引退した高3の杉山という先輩に味見に持って行くのに誰が先輩に持って行くか、そして誰のを食べてもらうか、で揉めていたらしい。
「明美!則子!」
二人の名前を呼んで間に入った。
「あれ?ゆな、今日休みじゃないの?」
「あなたたちが喧嘩してるって、呼ばれたの」
「喧嘩してないよ!話し合ってただけ」
二人は喧嘩じゃないと言ったが、あんなに大きな声でする話し合いはないと思うけどなーと思いながらも、
「分かったから!」
と二人を落ち着かせて提案した。
「杉山先輩をここに呼んで、味見してもらえばいいでしょ」
と。
昔から、料理部では、杉山葵を巡る事件が多かった。
しかも、食べる専門だとか言って、活動には参加しないしさ。
ましてや、引退してもなお事件を起こす。
まったく迷惑な男だよ。
・・・・・・嫌いだ。
でもーーー。
「だけどさ、先輩来てくれるかな?」
さっきまで元気に怒鳴り合っていた明美が小さな声でおかしなことを言った。
「あの人暇なのか知らないけど、結構な頻度で調理室いるじゃない」
「そうだけどさ、最近来てくれないのよ。今日も断られちゃって。でも届けてくれるなら食べるって言ってくれたから」
こんどは則子が明美と同じ感じで答える。
てか、届けるならってどんだけ、偉そうなんだよ。
私も最近調理部に行けていなかったから、知らなかった。
思ったより、簡単なことじゃなかったらしく、安易に提案したことを反省する。
「そうなんだ。ごめん知らなかった」
「本当だよー。ゆなも最近来ないし、寂しかったし」
そう言われ、また「ごめん」謝る。
「そういうことじゃなくて、寂しかったって話だよな」
突然、横から難波が入ってきた。
「うん。ゆなのクッキーの作り方教えてって言ってたのにまだ教えてもらってないし」
「私も。ゆなー」
そう言って抱きついて来た。
久しぶりに料理部に来たことを思い出した。
3年間続けてきた大事な部活。
天文学部に入ってからあまりこちらに来られてなかったことを思い出し、後輩のみんなにも申し訳ないと思い、みんなに聞こえる少し大きな声で
「ごめん」
と言った。
みんな少し驚いた顔をしたが、さっき状況を説明してくれた後輩が
「餃子の上手な作り方教えてくれるっていう約束忘れてないですよね」
と言って、みんな口々に~を作る約束がーっと言い出した。
なかには「デートの約束忘れてないですよね」と冗談を言い出す後輩がいて、なぜか難波が「そんな約束はしていない」と答えていた。
料理部の安心感を思い出して、ここまで続けて来られて良かったと思った。
「さっ!じゃあ、私は杉山先輩呼んでくるよ」
しばらくしてから、私が言うと明美と則子が驚いた顔をした。
「多分来ないよ」
「それにいつもの場所にいるか分からないし」
「でも、私が提案したんだし、責任もって呼んで来るよ。断られたらごめんね」
二人は中学入学時からのつきあいなのであの出来事を知っている。だから、私が杉山に会わないように気を遣ってくれたようで、行かなくていいと言ってくれたが、私は調理室をでた。
二人の気遣いに罪悪感を感じながら。
とりあえず、みんなが言ういつもの場所である、元映画研究会の部室(今は使われていない)に来た。
ここは杉山が授業をサボるための場所として使っているのだ。
そこに杉山はいなかった。
この映画研究会の隣は倉庫になっていて、そこにいるのは分かっていた。
映画研究会の部室に杉山がいることを知っている人が多いので、杉山は一人になりたい時、倉庫に隠れているのだ。
灯台下暗しってやつだ。
そのことを知っている人は私しかいない、多分…。
倉庫の扉を開け、
「杉山先輩」
と、名前を呼ぶ。
「あれれ?珍しいお客さんだなー」
と、古びたソファーから身体を起こした杉山が言った。
窓から少しの光が差していて、杉山を照らしていた。
相変わらず、綺麗な顔をしている、と思った。
「先輩、睡眠中すいませんでした。料理部の料理の味見をして頂きたいのですが」
と、私がすごく丁寧な口調で言うと、杉山は小さく笑い、
「なんか変だよ。いつものしゃべり方がいいな」
と言った。
今の一言で機嫌が悪くなったのが分かるのなんて私だけなんじゃないだろうか。
「うるさい。とにかく味見に来てよ」
「えー。どうしようかな。キスしてくれたら行くよ」
楽しそうに笑う杉山。
「嫌だ」
もちろん私はそう答えた。
「そんなこと言っていいの?行かないよ?」
「来て」
「じゃあ、ゆなからして」
私が黙ると、杉山は面白そうに私を見ている。
私が何をしても結局はそうしなきゃならない。
だって私は杉山に逆らうことが出来ないから。
だから私は無表情で言った。
「杉山からして」
と。
「ぶー。減点。葵って呼びなさい」
「葵」
だめだ、名前呼んだら。
気持ちが溢れそうになる。
「何その顔。最強に可愛いよ」
その瞬間。
唇を奪われて、何も考えられなくなって目を閉じた。
・・・・・・嫌い。
でも、好き。
長いキスの後、平常心を装って、調理部に戻った。
みんな、杉山が来て喜んでいる。
特に女子が。
罪悪感で胸がじくじくする。
そして、キスの後杉山に言われた言葉が頭から離れなかった。
「俺はゆな以外見てないのに、ゆなは違う」
「そろそろ、友達やめてもいいよね?」
やっぱり私は黙っていた。




