第7話 青春は特技だ!
「キョンって特技とかねーの?」
「特技、ですか」
うーんと考える。 あるにはあるけど自慢出来るものでも無いしなぁ。
「強いて言うなら速読ですかね」
「ほぉ。 結構早い方か?」
「まぁ、それなりには」
「因みにアタシの特技は身体が柔らかいことだ」
と、立体体前屈を軽々とこなす。
「そこから逆立ち!」
「!」
「パンツ見えるからやめなさい、環」
「おっと! いけねぇいけねぇ。 そういや男子がいるんだったな」
亜里沙さんに制止されて元の体勢に戻る部長。
「別にアタシは構わないんだけどなぁ」
「アンタが構わなくても『女子』というカテゴリーに所属している以上、やめさないって言ってんのよ」
「へいへい」
「亜里沙さんは何かあります?」
「私は……舌でさくらんぼの茎が結べることかしら」
「凄いですね!」
「ありがと。 実践したいんだけど、さくらんぼってあったっけ?」
「今は在庫切れですー」
奥の台所から遥ちゃんの声が聞こえた。
「あれ? 今の会話って遥ちゃんに聞こえてたんですか?」
「いや。 アイツってすげー耳がいいんだよ。 集音マイクより音拾うんじゃねぇのってぐらい」
「それじゃあ、悪口なんかも聞こえちゃうんじゃないんですか?」
「……だろうなぁ。 けど、遥は心が広過ぎるから余程のことが無い限りは怒ったりしねぇんだよ」
「経験あり、ですね」
「まぁな、長くはなるから語らないけど」
「大変でしたよ。 かくれんぼしてた小学生の時、お姉ちゃんが勝手に帰っちゃった時があって、夜遅くになっても見当たらないから事件だ誘拐だなんて騒ぎになって……」
遥ちゃんが台所からお菓子と紅茶をお盆に載せてテーブルに着く。
「いやぁ、あの時は本当にどうしようもなかったな」
「それで家に帰ったら……」
「ごく普通に?」
「ええ。 もうたくさん怒ってあげましたよ」
遥ちゃんは笑いながらも部長をジロリと睨む。
「だからまぁ、遥には迷惑かけっ放しというか何と言うか……」
ドンドン萎縮する部長。 可哀想で見ていられない。
「じゃ、じゃあ! 話題を変えましょう! 来月、一年生は中間テストがあるんですけど、二年生はどうなんですか?」
「アタシ達も来月は中間あるぜ。 ま、準備は万全だから問題無いっちゃ無いけど」
「だけど、気は抜けないものね。 また学年一位と二位独占しないと!」
「え、お二人ともそんなに成績が良いんですか?」
「キョン、お前はアタシを何だと思ってたんだ」
「……正直に言いますよ?」
「言えよ、怒らないから」
「態度がデカい小学生」
「正直過ぎだろうがぁぁぁぁぁぁ!」
激昂した部長がテーブルを飛び越して僕に噛み付いてきた!
「痛い! 痛い! 痛い! 痛いです!」
「うがぁぁぁ!」
「あーあ、こうなったらしばらくは収まらないわよ。 自分のしたことを後悔なさいな、キョン」
「反省します! 反省しますから!」
「じゃあ、後で誠意の印として真夏堂までひとっ走りして来い」
「……場所解らないんですけど」
「地図書いてやる。 代金は……ほら、無駄遣いするなよ」
そう言って部長は自分の財布から千円札を抜き出し、僕に手渡す。
「部長一人分で千円って……」
「んなわけないだろ。 遥と亜理紗の分も含めて、だ」
「私はチーズケーキでいいわよ」
「私はプリンでお願いしますー」
「……行って来ます」
「おう、期待しているからなー」
僕は余計なことを言わないようにしようと固く誓うことにした……絶対に……