第6話 青春は好きなタイプだ!
「おはようございまーす」
「おー、来たか」
部室にはゲームに熱中している亜里沙さんとそれを見守る部長と遥ちゃん。
「何やってるんです?」
「ギャルゲーだってさ。 タイトルは『ときめき大スクール』――大学を舞台にしたゲームらしい」
「大学が舞台ってこれまた微妙なラインですね」
「何言ってんのよ、キョン。 私と環は大学に行くことにしてるのよ」
「へぇ、そうなんですか」
「その為に先手を打って大学ならではの恋愛模様を学習するの!」
「……が、頑張って下さい」
鞄をロッカーにしまい、亜里沙さんの背中を見る形でテーブルに座る。
「…………」
亜里沙さんは難しい顔をして画面と睨めっこをする。 その画面では攻略対象であろう男性キャラにデートに誘われ、どう返答するかの選択肢が出ている。
「環、どうする?」
「ここは快く快諾だろ。 だって、初めてのデートだろ?」
「遥ちゃんは?」
「私も同じで」
「キョンは?」
「僕も」
「まぁ、妥当な所よね」
と、ボタンをポチポチ押してゲームを進行させる亜里沙さん。
「おーおーおー、やっぱりオーソドックスな選択肢がベストなのね」
「でもさ、こいつはアタシのタイプじゃねぇなあ」
「あらそう? 焼けた肌に黒髪なんてワイルドで素敵じゃない」
「なんつーの? すげーがっつきそうでさ、肉食は肉食でも暴食は困るわぁ」
「だけど、最初のプレイはやっぱり好みで選びたいのよ」
男性のタイプ論を交わした二人。 ……僕には立ち入れない領域だなぁ。
「遥ちゃんの好きな男性のタイプってどんなの?」
言葉にはそう出しながらも亜里沙さんは僕の方をちらっと見てにやりと笑う。
「私ですか? そうですねぇ、優しい人がいいです!」
「カッコ良さとかは? そういうの気にしないの?」
「全くというわけではないんですけど……」
「だそうよ、キョン『君』」
何故、『君』付け。 空気を察したのか部長が近寄って来た。
「おい、キョン」
「な、何ですか?」
「お前、ウチの可愛い妹に手を出す気じゃねーだろーな? あぁん?」
「なっ、何言ってるんですか! 目が据わってます! 怖い! 怖いです!」
チッと舌打ちすると部長は亜里沙さんの隣に座り、ゲームの続きへ。
「大丈夫でしたか、キョン君?」
「う、うん。 かなり心臓に悪かったよ……」
「あの、あまり気にしないで下さいね…… お姉ちゃん、私に関わることだといつもああだから」
「あ、うん。 解った……」
「それでそれでキョン君のタイプを私にだけこっそり教えてくれませんか?」
「ごめん、遥ちゃん、話の前後が繋がってない」
「大丈夫です。 こっそり耳打ちでもいいですよ、はい!」
「えぇと……」
「はい!」
やけにノリノリの遥ちゃん。 どうしよう……一緒に授業受けてる時は何となく『可愛くていいなぁ』とか思ってたけど……苦手なタイプかもしれない。
「ほ」
「『ほ』?」
「保留で……」
「えぇー! ちょっとそれはズルいですー!」
満足行くような答えが得られなかったからか、頬を膨らませて抗議する遥ちゃん。
「じゃっ、じゃあ! せめてこんな髪型が好きとか身体のここが好きとかで良いから教えて下さい!」
「……た、楽しい人、かな?」
「楽しい人、ですか。 お姉ちゃん、私って楽しい感じですか?」
「あー? ……あー、傍から見てる分には楽しいな」
「だそうです!」
「あはは。 そう。 それは良かった……」
「はい! 良かったです!」
嬉しそうに僕に身体を寄せてくる遥ちゃん。 それを見ていた部長に後でボコボコにされたのはここだけの話……