第4話 青春はお弁当だ!
「で、何の用なのよ。 せっかくの創立記念日に呼び出して……」
不機嫌な顔の亜里沙さん。 それもそのはずだ。 僕達は今、休日の学校の部室にいる。 理由は……
「ほら、前に言ったろ。 『弁当作る』って」
「何それ」
「亜里沙は知らねぇだろうけど約束したんだよ。 ほら、お前って弁当作るじゃん?」
「えぇ、まぁ。 たまに作らない時あるけど」
「それで口車に乗せられちまってさ。 もうこうなったらアタシの本気を見せてやるぜってことでこの流れになったんだよ」
「……えぇと、つまり?」
「お姉ちゃん人生初のお弁当試食会ですー」
テーブルに水が注がれたコップを置く遥ちゃん。
「キョン君、胃薬いります?」
「いやいやいや! どうして、お弁当で胃薬が!?」
「なんとなくでーす」
そう言いながら胃薬を箱ごと置かれる。 ……大丈夫なのか?
「せっかくだから重箱で」
「うわ、無駄に威圧感」
亜理紗さんがしかめっ面をしながら重箱の蓋を開ける。
「……何ですか、これ」
「何って、弁当だよ。 見て解らんのか」
「解りませんよ。 念の為に聞きますけど、これは昆布ですか?」
手渡された割り箸で黒い物体を掴む。
「ちげぇよ! 玉子焼きだよ! ちょっと焦げちまったけどよ」
「……この現代で暗黒物質を生成出来る人間なんて初めて見たわ」
「同感です」
「キョン、作戦タイムよ」
僕と亜里沙さんに誘導される形でテーブルから離れた。
「私は腹痛で離脱するけどキョンは食べるんでしょ?」
「はい?」
「だって、見てみなさいよ。 環の顔を」
そわそわして落ち着く気配の無い部長。
「あれがどうかしたんですか?」
「もぉ、鈍いわねぇ。 手先が不器用な環が男の子の為に作ったお弁当なのよ? それを食べないでどうするってのよ」
「すいません、話が見えません」
「キョン! 亜理紗! 早く食えよ!」
テーブルでは重箱を着々と消化する部長と遥ちゃんの姿。 妹って不便だなぁ……
「わ、解りました! 今、行きます!」
席に着いて割り箸を手にする。 食べるまで帰れないんだろうなぁと覚悟しつつ、眼前に広がる暗黒物質達を摘む。
「……あ、あれ?」
「どうしたのよ、キョン」
僕の隣で亜理紗さんが耳打ちする。
「これ、普通に美味しいですよ」
「マジか! だよなぁ! だよなぁ! いやぁ、遥が気を使ってるのかと思って冷や冷やしたぜ!」
「なっ、なに言ってるの! これのどこが――」
「とりあえずどうぞ」
と、亜里沙さんに勧める。
「…………味は完璧ね。 見た目がアレだけど」
「アレってどういう意味だよ、アタシに喧嘩売ってんのか」
「まぁまぁ落ち着いて下さいよ、二人とも……」
一触即発というわけではないが近しい雰囲気の二人を止める。 そんな僕を見てか遥ちゃんがニコニコ笑っている。
「どうしたの?」
「いえ、何でもないですよ。 それよりドンドン食べちゃって下さい! その為の胃薬ですから!」
「う、うん。 頑張るよ」
「よぉし、じゃあ次は亜理紗の番な!」
「受けてやろうじゃないの! 環より普通に見た目が良くて普通に美味しい弁当を作ってみせるわ!」
「かかってこいやぁ!」
燃え上がる二人。 もう僕程度の人間じゃ止められそうにないな、これは。
「審判は公平を期してキョンな!」
「え!?」
美味しいのは解っているだけに量で攻めて来るであろう二人の弁当に僕は覚悟を決めなければならなかった……