第3話 青春はお姉さんだ!
「ふぬぅぅぅぅぅ!」
「……」
「んんんんん!」
テーブルの上では部長が一生懸命に背伸びをしている。
「あの部長……?」
「なっ、なんだよ……!」
「そんなことしても背は伸びま――」
「ちげぇよ!」
部長の踵が真後ろにいた僕の鼻頭に直撃した!
「なっ! 何するんですか!」
「身長の話をするんじゃねぇよ! 失われたモノが今更取り戻せるかってんだ! ……っつーか、天井見ろよ」
促されて天井を見れば今にも切れそうな蛍光灯。 あぁ、これを変えようとしていたのか。
「それを何だぁ? 背伸びの儀式と間違えるたぁ、お前の目は節穴か! 馬鹿ちんが!」
「熱くなりすぎよ、落ち着きなさい環」
テレビの前では亜理紗さんがコントローラー片手にゲームをプレイ中。 見事なドライビングテクニックで敵車を次々と抜いていく。
「だったら亜理紗がやれよ! 部長命令だ!」
「嫌よ。 今はね、大事な大会で優勝出来るかどうかの瀬戸際なのよ。 私、風にならなきゃ!」
「ちっ……遥、出来るか?」
「うーん……どうでしょ。 とりあえずやってみますね」
部長に代わって遥ちゃんがテーブルに上る。
「あ、届きます届きます。 大丈夫ですよ」
「他の教室より天井がちょっと低くて助かったな」
勝ち誇る部長。 この人、何ら成果を上げてないのにどうして偉そうなんだろう。
「で、代えの蛍光灯ってあったか?」
「無いわよ。 年一で代えるからそんなにいらないだろって先生が」
「マジか。 じゃあ、職員室まで取りに行くか。 行くぞ、遥」
「はーい」
部長と遥さんが部室から出て行く。
「ちょっとー! 電気消してきなさいよ! 蛍光灯代える時、熱くて掴めないでしょ!」
亜里沙さんが声を上げるが既に遅し。
「もう……まぁ、ゲームには問題無いからいいんだけど」
「そういうもんなんですか?」
「そういうものよ。 あ、そうだ。 遥達が戻って来るまで私に付き合いなさいよ、キョン」
「別にいいですけど」
対戦プレイ。 僕が黒、亜理紗さんが赤の車を使い、僕達を含めた十台で五週のレースが始まった。
「キョンってさ」
「はい?」
「遥ちゃんと同じクラスじゃない?」
「えぇ、そうですけど」
「好きなの?」
「はい!?」
思わぬ亜里沙さんの言葉に動揺して壁に衝突。 そのままリタイアとなる。
「キョンって、ゲーム下手くそ?」
「亜里沙さんが変なこと言うからですよ!」
「だってさ、気になるじゃない? 遥ちゃんみたいな子がクラスにいたらさ」
「そりゃあ、気になるといえば気になりますよ」
「ふーん……」
つまらなさそうな亜里沙さん。 あっという間に一位を獲得し、レースは終了した。
「じゃあさ、キョンは年上が好きなの?」
「そ、そういうわけじゃ……」
「お姉さん、空いてるけど。 どうよ?」
ニヤニヤ笑いながら僕の肩を突付く亜里沙さん。
「か、考えさせて下さい」
「うふふ。 良い返事、期待してるからね」
何なんだ、この人……
「おーす。 戻ってきたぞー」
「お待たせしましたー」
蛍光灯片手に部長と遥ちゃんが戻ってきた。
「どうした、キョン。 顔が微妙に青ざめているけど」
「あはは……気にしないで下さい」
「亜理紗。 お前、キョンに変なこと吹き込んだな?」
「さぁて、何のことかしらねぇ」
いたずらをした子供のような笑顔でゲームを続ける亜里沙さん。 この人に色んな意味で敵いそうにないことを実感した僕だった……