第1話 青春は部活動だ!
「部長」
「ん?」
「この部活って……何をする部活なんですか?」
ふとした疑問を部長にぶつける。 僕の真向かいで漫画を読んでいる部長は本をテーブルに置いて溜め息を吐いた。
「なぁ、キョンよ」
「はい」
「それを聞くのは野暮っつーもんだぞ」
「そ、そういうものなんですか?」
「別に気にすることないわよ、キョン」
僕と部長の会話に亜里沙さんが首を突っ込んで来た。
「どうしてですか?」
「大した理由なんてないもの。 ね、環」
「……そりゃあ、そうだけどよぉ」
「理由があるなら教えて下さいよ」
「いや、教えねぇ」
「どうしてですか」
「聞いたところで何になるってんだ。 別にお前の今後の人生の分岐になるわけでもあるめぇし」
何が何でも『理由』を語ろうとしない部長。 本当に大した理由じゃないような気がしてきた。
「じゃあ、いいです」
「お、そうか!」
聞かれないと思ったのか部長の顔がぱぁっと明るくなる。
「亜里沙さんに聞きますので」
「おいっ! キョンっ!」
テーブルを両手で強く叩いて抗議の意を示す部長――だったが、強く叩き過ぎたせいか痛みを堪えてぷるぷる震えている。 涙目になるぐらいなら叩かなきゃ良かったのに。
「ここって最初は二人で使う宿直室だったのよ。 でも、不便だって理由で取り壊しか物置として使う話が出ていたの」
「それがどうして部室になったんですか?」
「その頃はまだ部室じゃなくて休憩室みたいな感じで使ってたんだけど、共学化と環の妹の遥ちゃんが入学してくるってことで部室にしたってわけ」
「へぇ」
「流れで部室にしただけだから青春部に目的とかそういうのって無いのよねぇ」
「基本的にやりたいことやるだけだしな」
テーブルに突っ伏した部長が呟く。 痛みが引いたのかいつもの部長に戻っている。
「それでよく部として認められましたね」
「アタシもそれがすげー不思議なんだよ」
「奇跡ね」
二人して顔を見合わせて頷く。 何か大きな力が働いてそうな気がするのは気のせいだろうか……
「はぁい、お茶ですよー」
台所から遥ちゃんがお盆にお茶を載せて運んで来る。
「遥ちゃんは知ってたの?」
「いいえ。 今、初めて。 お姉ちゃん、全然話してくれませんでしたし」
「それで今の気持ちは?」
亜理紗さんがお茶を飲みながら一言。
「うーん……なんとなくそうなんじゃないかなぁって思ってたから特に驚きとか感動とかは無いですねー」
ふわふわとした受け答えの遥ちゃん。
「あら、意外と現実的ね」
「よく言われますー」
「本当にアタシの妹かって思う時があるんだよなぁ」
「そうね。 背も胸も全部、遥ちゃんに取られちゃったし」
「うるせぇぇぇぇ!」
亜理紗さんに言い負かされてテーブルに突っ伏す部長。 この人、肉体とメンタルの両方が豆腐みたいだ……
「もう放っておいてくれ」
「はいはい。 それじゃあ、今日はここまでにしましょうか」
壁掛け時計を見れば部活が終了する午後の四時近く。
「ほら、部長。 帰りますよ」
「……家までおぶってけ、キョン。 アタシは疲れた」
「い、いやです……」
「じゃあ、私が代わりに」
「亜理紗は乱暴するから嫌いだ!」
「ほーら、わがまま言ってないで帰るわよ!」
今日の青春部は部長のわがままで幕を閉じた。