知り合い以上、恋人未満。
「アンタさ、失恋したんだろ?」
キヨが私に初めて言った言葉。
私は1年付き合っていた彼氏と別れた。原因は彼氏の浮気。私の他に2人も彼女がいた。
『信子は良い女だと思うよ?でもさ、良いだけで他には何にも無いんだ。つまんない。一緒にいて疲れたんだよ』
…そう言って私と別れた。
一人で校舎裏で泣いていた。その時声をかけてきたのがキヨだった。
ただでさえ感傷的な私にそんな言葉は不愉快この上なかった。
「アンタなんかに関係無いじゃない」
「…っと思うじゃん?実は関係アリなんだな。ここは俺のナワバリなんだよ」
「…は?」
意味不明。
「キミさ、今は授業中ですよ?それとも何?俺ねらい?」
…何?この男。
「ふざけんじゃないわよ。もう男はこりごりなの。それに、アナタだって授業サボってるじゃない!」
「俺は良いの。常連さんだから。でもキミはマジメっ子でしょ?」
「何それ。メガネかけてたらみんなマジメっ子だと思わないでよ!」
「いや…んな事言ってないし」
ケロッと答えるキヨ。
「もう、ほっといてよ」
そう言ってまた泣き出す私。
それを見て、キヨは溜め息まじりに私の横にしゃがみ込んだ。
「あのさ、俺はメガネかけてる子って、カワイイと思うけど?」
「…そんな事で泣いてるんじゃないんだけど…」
「うん…」
急にしおらしいキヨ。
「何よ…コロコロ変わって…アナタって変なヤツ」
「けっ。勝手に言ってろ」
「…なんで隣に居るのよ?」
「…なんとなく。アンタ、ほっとけない気がしたから」
「…余計なお世話です…」
そう言って、お互いに笑いあった。
私たちは、それから何となく一緒に居た。それが当たり前の様に…。
キヨの事、好きかキライかといえば…好きだった。…少なくても私は…。
告白とかは無かった。付き合うという宣言をキチンとしないまま、私たちは何をするにも一緒だった。
「俺たち、恋人みたいじゃねぇ?」
いつだかキヨが私に言った。その表情が、複雑すぎてキヨの気持が分からなかった。
私は、
「そう?」
とそっけなく返事をした。
ちょっとショックだったから。私は付き合ってたつもりだったから。
でも、所詮つもりはつもりだった…。
キヨに彼女ができた。
正確には私が知る前から付き合っていたから、彼女がいた…となるけど。
私がその事を知ったのは、その本人から言われたから。
「あんた、キヨのなんなの?」
私に聞いてきた人は、高校の制服を着ていた。
…私?
キヨの…友達?…それとも…
「おっ…もしかして修羅場?」
キヨが急に現れた。まるで、今まで側で見ていたかのように…。
「キヨ、なんでこの子とずっといる訳?私、アナタの彼女でしょ?」
彼女の方が私を指差しながら言った。
…どうなの?キヨ…。
すると、キヨは急に冷たい目になった。
「悪いけど、二人とも彼女だと思ってない」
えっ…?
「俺さ、一人の女の子をずっと愛せない訳よ。どうしても飽きる。美佳も信子もただの女。それだけ」
そう言ってキヨはクルッとこっちに背を向け、ヒラヒラ手を振って去っていった。
ちなみに、その2日後、キヨには新しい彼女が出来ていた。私より一つ年下の子だった。
涙も出なかった。
自分が情けなかった。
付き合っていると思い込んでいた自分がみじめだった。
それから私はキヨと全く会わなかった。会わないようにした。
風の噂で、キヨの受験する高校が私と同じと知った。キヨが居る…という理由で志望高を変えるのもくやしくて変更はしなかった。
高校に合格してしばらくしたころ、彼氏ができた。今でも仲良くしている。
この前、保健室で見掛けたとき、驚いたけれど平静を装った。いよっちも、さおりんも知らないから。
いよっちがキヨと付き合うと知った。私は心配になった。私だけではなく、いよっちまで…。
いよっちが女子に呼び出されたとき…ついさおりんに言ってしまった。
さおりんはそれを聞いて、無言でいよっちを追いかけた。私もついていった。
結局その人たちはいなくなった。…でもね…キヨ、アナタに言いたいの。
いよっちを、私のようにはさせない。
固まるキヨといよっち。うつ向いたままのさおりん。
私は沈黙を破るように…キヨを真っ直ぐ見て言った。
「キヨ、いよっちと別れて」