はじめの一歩。
私たちの出会いは突然だった。
それって運命だったのかな…?
「付き合うの?!あのプレイボーイと!」
佐織と信子が声をそろえて叫んだ。
「ちょっと、もう少し静かにしてよ…。」
ここは帰り道にあるハンバーガーショップ。
周りのお客さんは突然の叫び声に驚いて、こっちを見ていた。
「それで?どうして付き合おうと思ったのよ。」
さすがに周囲の視線を感じたのか、さっきよりも声をひそめて佐織が尋ねた。
「なんか、キヨってホントの恋愛してないなって…そう思ったら、それじゃダメだって思って…。」
「ま、いよっちは恋、してないけどね。」
呆れたような口調で素っ気なく言い放つ信子。
「…そうだけど…。」
「でもさ、伊夜、よりによってプレイボーイだよ!そんな奴とホントの恋するって、本気でできると思ってるの?」
佐織が聞く。
「…やってみる。」
…それしか言えないよ…。
「やってみるって?どうしてみるのよ?」
信子はいつになく突っ込んでくる。
「…もう、良いから。ごめん、こんなこと話して。私、帰る。」
私はその場に居られなくなって席を立った。
「ちょっと、伊夜!」
後ろの方で佐織の声がした。でも、そのあとで小さく信子の声が
「ほっときなよ。」
と聞こえた。
…私は悔しかった。私に理解を示してくれない友だちに…。
どんな人だろうと私は付き合うって決めた。…なのに…。
「よぉ、伊夜じゃん!」
後ろから肩をつかまれた。
声が男だ!
ギョッとして振り返ると…。
「…なんだ、キヨか…。」
「なんだじゃないだろ。俺さ、一応彼氏なんですけど?」
キヨは不満そうに言った。
「…ごめん…。帰り?一緒に帰らない?」
「おぅ。」
私達は歩き出した。
微妙な距離を保ちながら。
「…なぁ…」
キヨが話しかけた。
「なんかあったのかよ?」
「…まぁ…いろいろ…」
「ま、あんまり気にすんなよなな」
あっさりと言うキヨ。
…誰のせいで落ち込んでると思ってんのよ!
…うん…?…待てよ…。気にするな…って事は、多少励ましてくれてるの?
「…なんだ、キヨって優しいじゃん」
唐突に…しかも自然に私が言い放ったせいか、キヨはびっくりしてこっちを見た。
「別にっ、優しくねぇよっ。いきなりなんなんだよオマエ…」
「…そんなにムキにならなくても…」
「伊夜が変なこと言うからだろ。…ったく…そもそも俺たちが付き合いはじめた訳、分かってるのか?」
「忘れてないよ。…私のこと…飽きた?」
「…飽きたっていうか呆れた。俺に立てつく女は伊夜がはじめてだったのに…特に何も無いじゃん」
「な…何もって…どんな事があったら良いのよ…?」
「ま、普通なら昨日の間にキスする。早かったらその先もやってる」
「…その先…」
…なにそれ…だいたい想像出来るけど…。
「何?興味あんの?」
からかうように言うキヨ。
「違う。…そうじゃないでしょ」
私は立ち止まってキヨを見た。
「そんなの違う。そうなるまでには時間がかかるの。そんな簡単にしないの」
「じゃあ、はじめは何すんだよ?」
私は黙って、キヨの前に手をさしだした。
はじめは何のことか分かってなかったが、理解するとキヨは私の手を握った。
「こっからはじめるのが伊夜式かよ」
「…悪い?」
私が聞くと、キヨは
「いいえ。べつに」
と妥協した様に言った。
キヨには悪いけど、私はこれだけでドキドキしてるんだから…。
大きいてのひら…。
しかも手は私の方が冷たかった。
何気に私に歩幅を合わせてくれるし…車道側歩いてくれるし…。
ほら、キヨは優しいヤツじゃん。
プレイボーイだけど…良いとこあるよ。
…何とかやれそうだよ。
私はキヨに気付かれないように、少しキヨの方へ近付いた。
キヨは気付いたのか分からないけど、さっきより握る力が少し強くなった気がした。
手を繋いだ二つの影は、ゆっくりとした歩調で、夕日の沈む方へ消えていった。