やっぱり運命。
プレイボーイ…。
直訳すれば遊ぶ男の子。
プレイボーイが運命の人だなんて、信じるもんか!
放課後…私は一人だった。
佐織は部活があるという。信子は彼氏の誕生日らしく、今日は一緒に帰るそうだ。
「…独り者はつらいなぁ…。」
ボソッと独り言。まぁ、佐織は彼氏いないけどさ。
私は一人が好きだけど嫌いだ。
一人は気楽だけど、やっぱり寂しい。話し相手が欲しかった。
「あ…おい、アンタ!」
後ろから男の人の声がして、振り向いた。もしかして…ナンパ?するとそこには…
「あ…プ…。」
清春が立っていたのだ。ついプレイボーイと言いかけた。危ない危ない…。
「プ…?」
「あ、気にしないで…、松本君。」
「あ、清春で良いよ。…長いからみんなキヨって言うけど。」
「じゃあキヨで良い?私も呼び捨てで良いよ。伊夜っていうの。」
「伊夜…変わった名前だな。」
「…そうかな…。あ、帰り?」
「うん…伊夜も?」
「…うん。」
…なぜか沈黙。
ま…今日改めてお互いの素性を知ったわけだし…一緒に帰ろうとか言えないなぁ…。
そんなことを思っていたら、キヨが話しかけてきた。
「なぁ、土曜日のミサンガ、弁償するよ。いくら?」
「えっ…ホントにもういいよ…。気にしないで。ボタンに引っかけたのは私なんだし…。」
「ふぅん…あっそ…ならさ…」
そう言いながらキヨが顔を近づけてきた。
「オレと付き合わない?伊夜…」
耳元でささやかれた。…マズい…力ぬける…。
「なっ…何言い出すのよ!っていうか、今日はじめて誰か分かったような人と付き合わないわよ。」
「何?動揺してんの?伊夜って男知らないんだろ。真っ赤になってムキになって…。」
クスッと笑うキヨ。カチンときた。
「はぁ?何言ってんのよ。私はキヨみたいに軽そうな男はイヤなの。」
「軽そう…ね。ま、そうかもね。」
「…自覚してるなんて…タチ悪っ!」
「オレと付き合っても、1週間しか一緒にいないよ。」
…噂はホントらしい。
「最低…。好きだから付き合ってるんでしょ。なのにそんなすぐに別れるの?」
「伊夜は純情だねぇ。」
また笑うキヨ…。
「…みんなそうなんじゃないの?」
「悪いけど違うよ。少なくてもオレは。付き合ってた中には何人か居たけどね。しつこかったヤツ。こっちは別れるって言ってんのに、ずっとその気でいんだよ。笑っちゃうね。」
そう言ってまた乾いた笑い。
「…それ…本気で言ってんの?」
「当たり前だろ。そもそも男と女が付き合うなんて本能だろ。誰だって持ってる。普段は理性だとか世間だとかに抑えられてたって、所詮人間は人間。それくらいにしか思ってないよ。」
なにそれ…そんなのおかしいよ。絶対変。
「…最悪…。ドキドキしないの?好きで好きでたまらないとか…思ったことないの?」
「ないね。恋も愛もない。根本は本能の問題。最終的には人間っていう種族を生き残らせるためのモノだろ。」
すらすらと言うキヨ。
「信じない。そんなの。少なくても私は違う。」
「じゃあ伊夜は運命とか信じるの?純愛はあると思う?」
「思う。」
「ははは。どこまでも夢見る女の子だな。男はほとんどなぁ、女は自分の欲求を満たすためのモノだとしか思ってないよ。そもそも女とは作りが違うんだ。」
「…じゃあ…キヨも女の子の事…そんな風にしか思ってないの?」
「当たり前だ。それに、付き合うなんてめんどくさい。オレは最小限の事ができればそれで良いんだけど。」
「最小限…。」
「してやろうか?」
なっ…。どこまでバカにする気!
「ふざけないでよ。」
なんだか、腹を立てるのがバカバカしくなった。
「はははっ。ホントに免疫無いんだなぁ。ある意味伊夜みたいな子も好きだけど。」
「私はキライ。」
私はキヨから目を離した。見たくもない。
すると、急にキヨは私の手首の辺りをつかんだ。
「いたっ…何するのよ…」
「女ってさ、不便だよね。力で男に勝てないもんね。」
…すごい力…ふりほどけない…。
すると、キヨは急に手を離した。
「やめたっ。キスの一つでもしてやろうかと思ったけど、オレは嫌がる女をいたぶる趣味無いし。」
…ドキドキしてる…。ホントに免疫無いんだ…私…キスって言葉にドキドキしてる…。
黙って背中を向ける私に、キヨは聞いた。
「男、幻滅した?でも、事実だから。伊夜には悪いけど。」
その時、私は自分でもびっくりする事を言っていた。
「キヨ、付き合おう。」
「はぁ?今、なんつった?」
私は向き直ってキッとキヨを睨むように見た。
「キヨ、私と付き合いたいんでしょ。付き合おう。私がキヨを変えてあげる。」
「伊夜さ、何言ってんの?」
「ドキドキしない恋なんてホントの恋じゃないよ。私とホントの恋しよう。私がキヨをそうさせてみせるから。」
「へぇ。オレを変える…。ホントにできるの?」
「する。1週間しか持たない付き合いなんかじゃない。土曜日の出会いが運命だって言うならそうかもしれない。」
「運命ねぇ。ホントに伊夜にできるの?男と付き合ったこと無いんだろ。」
「その方がかえって都合良いじゃない。」
「はははっ。ま、オレは良いけど。退屈しないですみそうだし。ただし、」
「オレが伊夜に飽きたらその時点で別れる。良いな。」
「良いわ。」
「よし、じゃあ、ま、よろしく。」
そう言ってキヨは帰って行った。
…キヨが見えなくなったら、急に全身の力が抜けてきた。
…ドキドキした…心臓の鼓動がありえない。
男の子って…あんなに力強いんだ…。声、低いんだ…。
知ってるはずの事が一つ一つ新鮮で、鮮明に残っている。
はっきり言って、自信は無い。
キヨを変える…なんて大きな事を言い切ったけど…確かにキヨの言うとおり、私は男を知らない。
でも、だからこそできることがあるはずだ。
理想とは違ったけど、私は男の子と付き合う。これは事実じゃん。…それに…
私、自分で言っておきながらキヨの事、本当に好きになったみたいだ。今日改めて知ったばかりのはずだけど。
私のドキドキなんて、キヨは分からないだろう。
なんとも思わないかもしれない。
でも、今はそれで良い。これからキヨにドキドキしてもらうんだ。
わたしの顔と同じぐらい赤い夕焼けを見て、私はそんな事を思っていた。