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プレイボーイ。


週があけた月曜日、学校に行って私はミサンガの事を佐織と信子に話した。

二人は案の定大爆笑だった。

「伊夜、可愛過ぎぃー!」

「いよっち、なんで土曜日に呼んでくれなかったのよ〜!」

「うっさいなー。言ったらこうなるって目に見えてたから言わなかったんだよっ!」

…悔しいというよりもむしろむなしい。…あまりに自分が惨めで…。

「あははは、でもさ、本当にその人が誰か分からないの?」

信子はこっちを見て言う。

「…うん。でもかなりタチ悪そうな不良っぽかった…。」

「意外と運命の出会いだったかもねぇ。」

ボソッと言う佐織。冗談じゃないわよ。他人事だと思って…。

「とにかく、もうあの事は土曜日に全部終わったのっ!これ以上からかわないでよ。」

またムキになる私。

「ま、良いじゃん。ホントに運命ならまた再会するだろうし。」

ニヤケて言う信子。その横で佐織もうんうん、と頷いている。

「…そうだよね。ま、いっか。これにめげずに新しい恋探すぞっ。」

「あれ、伊夜にしては前向きじゃん。」

驚いたような佐織。

「なんかあっさり終わったせいかな…意外とさっぱりしてんの。」

「ほぉ…それは良い傾向なんじゃない?いつまでもくよくよしてるのもどうかと思うし。」

信子も納得したような顔だ。

「よし、んじゃあ気晴らしに保健室行こうっ!」

私たちは保健室へと向かった。

保健室の先生・向井(むかい)先生は去年大学を卒業したばかりの若くて明るい。

親しみやすい性格なので保健室は休息の場になっていた。

「先生〜、来たよ〜」

信子が少しなれなれしく呼ぶ。他の先生は絶対に怒るが向井先生だけは違った。

「おっ、のぶちゃん!さおちゃんにいよっちも!いらっしゃい!!」

こんな風に先生自体が生徒をあだ名で呼ぶため、どうしても友達みたいになる。

今日も保健室はたくさんの生徒たちで賑わっていた。

別にみんな体調が悪いわけでも、怪我をしているわけでも無いけど、安らぎを求めて自然と保健室に人が集まる。

「先生〜、授業めんどーい。保健室で寝よっかなぁ。」

佐織が半ば本気かとも取れるような言葉を発する。

「さおちゃん、具合か悪いなら喜んで寝かせるけど、サボリにはベッドは使わせないよ。」

向井先生にあっさり断られて佐織はちぇっと悔しそうな顔する。

「ところで、みんな、もうお昼は食べたの?」

「うん。とっくに。」

「オッケーオッケー。ベリーグッドだよ。君たち、ダイエットなんかしちゃダメだよ。」

「はぁーい。」

私たちは声を揃えて返事をした。やっぱり向井先生は好きだなぁ…。

その時、笑う私たちの後ろから、男の子の声がした。

「先生、オレ、昼から授業出るよ。」

「お、キヨ、偉い偉い。布団畳んだかい?」

「うん。」

私は後ろを振り返った−…。

「あっ!!」

私とキヨと呼ばれた男の子は同時に声をあげた。

…昨日のミサンガを切った人だ…。

「あれ?キヨ、いよっちと知り合い?」

向井先生は意外そうな顔をする。

「えっ…知り合いっていうか…。アンタ、ココの生徒だったんだ…。」

「…あなたも…。」

気まずい沈黙。

佐織と信子は状況を理解したのか、ニヤニヤしてる。向井先生だけは分からないみたいだ。

「えっと…昨日はゴメン…今度弁償するよ…。」

「あ、気にしないで。たいしたものじゃなかったし…。」

「そぉ?…あ、オレ、2‐D組の松本清春(まつもときよはる)っていうんだ。」

「私は2‐B…香坂伊夜(こうさかいよ)。」

「ふぅん…悪いけどオレそろそろ行くわじゃあね、先生。」

そう言って清春は行ってしまった。

「…会っちゃった…また…。」

私はボソッとつぶやいた。すると今まで言いたいことを我慢していた佐織と信子が、

「ねぇ、さっきの人でしょ。ミサンガの人!」

「よりによってD組の松本とはねぇ…。」

と、口々に話し始める。

すると向井先生まで興味深そうに聞いてきた。

「ねぇ、いよっちってキヨと仲良いの?」

「ち…違います…。土曜日たまたま会っただけです…。」

私はうろたえながら答えた。ところが佐織がそんな私に追い打ちをかけるように言った。

「でもそれが運命の出会いだったんだもんねぇ、伊夜。」

「やめてよ。そんなんじゃないって。」

「うん…確かに違うかもね…。」

と、信子がいつになく真面目な顔で言った。

「のぶちゃん?何か知ってるの?」

「…いよっち…松本の別名知ってる?」

…別名?…そんなのがある人なのか…?

「…知らないけど…。」

「…プレイボーイ・キヨ…」

プ…プレイボーイ…。私は分かりやすすぎるそのあだ名にかえって笑えた。

「何?キヨってそんな風に呼ばれてるの?」

「そうですよ、先生!D組の松本って言ったら1週間ごとに付き合ってる女が違うって有名なんですから!」

力を込めて話す信子。すると話を聞いてた佐織が横から、

「あ…聞いたことある…女の取り合いで他校とケンカして謹慎くらったっていう…」

「そう、それ。だから純愛を求める、いよっちには向かないと思うけどなぁ…。」

「悪いけど、そんな気ないから。」

私は少し怒って反論した。

「そうなの?いよっちとお似合いだと思うけどな…。それにキヨはそれ程悪い子じゃないよ。」

向井先生は苦笑する。

その時、チャイムが鳴った。騒いでいた生徒たちが自分のクラスへと帰っていく。

「さあさあ、みんな帰った帰った。授業遅れるよ!」

向井先生は追い立てるような口調で言った。でもその声はどこかあたかかい。

「はいはい。またね、先生!」

私たちもそう言って保健室を出ていく。

私はふと清春が寝ていたらしきベッドの方を見た。

几帳面に折り畳まれた布団が目に入ってきて、なぜかその光景がしばらく頭から離れなかった…。


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