表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/14

遅い昼ごはん。


「ちょっとぉ、まだ気にしてんの?」

放課後、佐織が話しかけてきた。

「……悪い?っていうか気にするでしょ、普通……」

机に顔をひっつける私。

「朝の意気込みはなんだったのよ?」

「……もう忘れて……」

弱々しい私。


「キヨと帰る約束してるんじゃないの?」

「……行かないと駄目かな……」

「当たり前じゃない!謝るのよ!」

「……行きづらいよ……」

「あのね……幼稚園児じゃないんだからさ……」


佐織がそう言った時、私の制服のブレザーの右ポケットが震えだした。

私は携帯を取りだし、新着メールを見た。


「何?メール?」

「……キヨからだ」

「ホント?何だって?」

「……校舎裏に居るって……」

「何で?」

「さぁ……どういうつもりかな……」

「とりあえず行きなさいよっ!」

バンッと威勢よく背中を叩く佐織。

……なぜかそれにとても元気づけられた。


「……ありがとう、行くよ」

私はカバンをつかみ、扉へ向かった。


「健闘を祈る!」

親指を立て、元気よく言う佐織。

「おうっ!」

敬礼して飛び出す私。

目指すは校舎裏!



風が冷たい。

マフラーに顔をうずめる。



私は校舎裏へ出る扉の前に立っていた。

深呼吸する。

……少し落ち着いた。

私はドアノブを手に取る。……手のひらが少し汗ばんでいる。


思いきって右に回す。


すると、目の前の木の下にキヨが座っていた。

「優秀じゃん。6分で来たよ」

ニカッと笑うキヨ。

「どのくらいかかると思った?」

うつ向き気味に聞く私。

「100分」

「バカッ」

プッと二人同時に吹き出した。

何故か心のわだかまりが取れた。


「キヨ、ゴメンね……お弁当……」

「あぁ、結局友達と食べたよ。気にするな」

「そうなんだ……」

……アッサリ言うんだな……。


私は少し拍子抜けした。心のどこかで、私とお昼を過ごせなかったことを残念がってくれるかも……と期待していた。


その時、キヨは手をこちらに伸ばして言った。


「弁当くれよ」

「……はっ?」

「あるんだろ。5時に起きて作ったやつ。お前の食べた余りでも良いから、くれよ」

……どうして?

「何で知ってるの?」

「いきなり一緒に弁当食うなんておかしいと思ったら、信子たちが教えてくれたよ。わざわざ早起きして弁当作ったんだろ」

「……そうだよ」

「オレ……今まで母さん以外に料理とか作ってもらったこと無いんだ。だから……何ていうか、その……嬉しくて……」

照れくさそうなキヨ。

そんなキヨを見ていると、嬉しさが込みあげてくる。

「実はね、昼ご飯イロイロあって食べなかったんだ。だから……いっぱいあるよ」

「マジで?」

「うん。ココで食べよっか?」

「食べる食べる!出してよ!」


私はカバンからお弁当を2つ取り出して、水色の包みの方をキヨに渡した。


キヨは嬉しそうに受け取ると、手早く包みを開きお弁当箱を出した。

「開けるぞ」

「どうぞ、めしあがれ」


お弁当箱を開くキヨ。

「すげぇ……ホントにお前が作ったのかよ?」

「そうだよ。……意外?」

「ちょっとな。でもうまそう。いただきます!」

キヨは早速オニギリを掴み、口に運ぶ。

「タラコじゃんっ!大スキなんだよ!……知ってた?」

「知らなかった……たまたまだよ。でも良かった。私もタラコ好きだし」

「そうか!やっぱりタラコはうまいよなぁ!」


まるで小さな子供みたいにはしゃぐキヨ。その姿は、到底プレイボーイには見えなかった。

私はその様子を見ながら自分の包みを開いて食べはじめた。



「―……あー、食った食った!」

腕を後ろで組み、寝ころぶキヨ。


「お前さ、料理上手いわ」

「そう?……ありがと」

そんな事言われたら……照れるよ。


「あのさ、明日から、こんな感じで作ってくれない?5時に起きるんじゃなくて……お前の弁当のついで……とかで」

「良いけど、そんなに気に入ったの?」

「久しぶりだよ。手料理。なんか懐かしかった」

そう言って、キヨは少し寂しい顔をした。


「お母さんは?今まで付き合ってた女のひとは?」

「母さんは家に居ないんだ。離婚してオレを連れて家を出たけど水商売やってるんだ」

「そうだったの……」

知らなかった……。

「だからさ、いつもコンビニで食事済ませてる。それに……」

キヨは起き上がり、私を見ながら言った。

「今まで付き合ってた奴らは、遊ぶだけだったから。メシ作ってくれるほどの関係にはなれなかった」


私はなぜか、キヨの心の声が聞こえた気がした。

キヨがプレイボーイなのは……寂しいからじゃないの?

お母さんは家に居ない。

他に頼る人も居ない。

……だから女の人と取っ替え引っ替え付き合ってるんでしょ?



キヨは木の幹に寄りかかり、空を眺めていた。

私はそんなプレイボーイの肩にそっと寄りかかって言った。


「明日から、一緒にお昼食べようね。私、キヨの好きなもの作るからね」



プレイボーイは答えるかわりに、私の肩を優しく抱きよせた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ