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それが全能結晶の無能力者  作者: 詠見 きらい
episode-f. -それが全能結晶の無能力者-
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f-22 見上げれば星の海

f-22 見上げれば星の海


「なんだ……ボク、生きてる?」

「よお」


 夜空に星が散らばり、根源(、、)は目を醒ます。それと同時に声が掛けられた。そこにはボロボロの白衣を着た眼鏡の男が立っていた。その姿が視界に入った途端、舌を打ち、不快な視線を男に向けた。

「えーっと、なんだっけ? 皇凰真(すめらぎおうま)だっけ? 残念だったね上手くいかなかったね」

「――魔術師(、、、)が何の用だよ」

「そのよくわからんダサい名称やめてくんない? オラチンには辛いなぁ。そんな恥ずいの欲しくないしぃ」

 白衣の男の正体は……瀧乃曜嗣(たきのようじ)だった。凰真の憎悪を帯びた視線を浴びて尚、ヘラヘラと笑いながら凰真の前に立っている。

「お前がいなければもっと早くボクの思い通りに事が進んでたんだけれどね」

「そりゃダメだ。フェアじゃないよー? オラチンはどっちの味方でもないけれど、君らの方がどう考えても有利だし? 君らのやりたい放題するだけならこのお話いらないじゃん。陳腐すぎるシナリオが最初からなかったことになっちまう」

 瀧乃は雪哉と理愛の保護者だった。親を喪った二人を保護していた。それは約束だったから。瀧乃は一つ、誰にも言っていない秘密があった。

「まぁ、死に掛けてたとこ助けてもらったからさ雪哉くんのパパにね! だからお礼しなくちゃってことでお返しに何して欲しい?って訊いたら「雪哉と理愛を守って欲しい」ってそんな難しいこと言われちゃってさー、仕方ないから一人前になるまではいいよって返事しちゃったから見てやっただけー。ぼぼぼっ」

 そう言って瀧乃は腹を押さえて笑い出す。

「本当にガキで甘ったれた坊やだったさ。でもよくやったよくやったよ。こうして凰真くんに勝ったわけだし、ホントにオラチンいらないでしょ? だから何も言わずに出て来ちゃった」

 時任雪哉は挫け、折れ、弱音を吐きながらも――戦うことを止めなかった。そして勝利を掴み、皇凰真を撃破した。

「じゃあ……」

「オラチンはもうこの町に用は無いしね、今回(、、)はちょっと同じところに長いしすぎたし、今度は海にでもいこうかなーなんて」

「アナタは、一体何者なんだ……どうしてボクたち結晶なんていう逸脱した存在を知っている? 結晶も持たずにボクたちに歯向かえる?」

「痛すぎぃ!! 凰真くんよくもまぁそんな恥ずかしいことバンバン言えちゃうねぇ!?」

 そう言って瀧乃は凰真の胸倉を掴んだ。

「調子に乗るなよガキめ。お前だけがなんだか凄いパワー持ってるとか思ってる辺りが気に喰わないんだよ。歯向かう? 構ってちゃんかお前? こっちはめんどくさいからぶっ飛ばしてやりてーんだけど関係ないから放置してやってるだけって気づけ。お前如きが王とかそういう高貴なモンになれるかボケ。馬の糞にでもなってろ」

 そのまま胸倉を離して、凰真を睨む瀧乃。凰真は瀧乃の眼光を受け、身動きが取れなかった。まるで怪物。正体の見えない異形が目の前に立っている。

「一つだけ教えてやろうかな。オラチンの正体ってさー残念だけどオラチンに決まった正体(、、)なんてものはないのよ。だから悪いけど答えられない。教えないじゃないよ? 答えられないのだわ」

「じゃあ……」

「答えが無いのが答え。説明のしようがないし、多分ここではないどこかにも現れる(、、、)。だから考えることなんてやめろ。答えなんて出ないよ」

 ただそこにいるだけの男。

 花晶である凰真とは正反対すぎる。本質を持っていない。生きているだけの存在。敵でも味方でも無く、けれどそれはただの偶然だったのだ。死に掛けていたところを助けたのが時任雪哉の父親であっただけなのだ。

 瀧乃曜嗣がいなければとっくに凰真の思惑のままに夢を叶えることが出来たのだろう。しかしたった一つの理由で阻止された。フェアではない――などという一人の男の感情のせいで。

「で、ボクをどうするつもりだい……殺すのかい?」

「はははははははっ、ガキめ! 面白いコト言うなクソガキ! でもまぁ、勘違いシスコンキチ○イ小僧の雪哉くんには負けるかな。あのさ、なんでお前を殺す必要があるんだよ」

 瀧乃はそのまま背中を向けた。

「言ったはずだよ、オラチンは誰の敵でも味方でもなくて単純に雪哉くんの保護者してたのも恩返しなだけ。それにもう一人前の男になったしとっととこの町からおさらばしたいわけ。さすがにずーっと同じとこでボーっとしてんのもそろそろ疲れてったし飽きた。またどっか遠くにでも行って面白いモノでもさがすよ」

 そう言って、瀧乃は「今度は海の方に行こかなー」なんて言っているが凰真にはもう何がなんだかわからなかった。

「ボクは……」

 夢は叶わなかった。

 結晶であり、ヒトではなく、自分の生まれる地も無く、生きているだけの人でなし。人で無いモノが生きる世界を作りたかった。それがとても小さいモノでも。

 その為の力を、強い力を。

 他人の力を奪って自分のモノにしか出来ない力では――神にはなれない。

「なる必要なんてないんじゃね?」

 瀧乃がまるで心を読んだようにそう言った。

「生きてりゃ楽しいことあるし オラチンもいろいろ世界飛びまくって面白いもの探してんだよね。だからお前も適当に生きろよ。なんか小難しいことしてる場合? ずーっと箱ん中で生きてて考えることをしなかったからだろ? ってことで行くぞー」

「はぁ!? わけがわからない……なにいって……」

 瀧乃はそのまま凰真の手を引いて歩き出す。

「お前は神でも王でもなんでもない。何なのかさっぱりわからない結晶の中で生きてたヒトなんだよ。不思議パワー持ってるだけのただのヒトの形をしたモノ。これ以上説明できないし、それ以上考えんな。もっと気楽に生きてみろ」

「そんなこと……ボクには――」

 だが瀧乃は手を離すことはなく凰真は何も出来ずにただ引っ張られていくだけだった。今はまだ何も考えられない。この先の未来のことは、自分の方法で世界を築くはずだったそれは出来なかった。その方法以外が思いつかない。だから……

「どうしてボクを助ける……」

 瀧乃は何も言わなかった。

 歩きながら考え事をしている。

「知るか。違う生き方でも探してみろ。いろんな世界を見て、それで考えろ。お前がどこから来て、どうして存在してるのかいつか答えを見つけてみろよ」

 凰真はもう何も言わなかった。

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