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それが全能結晶の無能力者  作者: 詠見 きらい
episode-f. -それが全能結晶の無能力者-
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f-21 虹の向こうへ

f-21 虹の向こうへ


 深い、深い闇の中、一人の青年が立ち尽くしていた。

 彼の名は――月下雨弓(つきしたあゆみ)

 雨弓もまた復讐のままに自身を造り替えてまで戦った存在だった。けれど、今こうして雨弓が立つ闇黒の中、彼の姿は人と変わりなかった。

「オレ、死んだのか?」

 時任雪哉との戦いで妹を奪われ、そして夜那城切刃との戦いによって自身の憎しみ事、撃ち砕かれてしまった。

 切刃の一撃によって全てを消し飛ばされ、もう月下雨弓という存在は日常から消失している。完全に滅ぼされ、今はこうして無間に墜ちてしまった。

 けれど、

「よっ」

 ゆっくりと近付いて来る何か。そしてその小さな影が歩く度に道は七色に輝いていた。そして素っ気無く声を上げて、手を挙げて、現れたのは――

「に、虹子……お前、なんで!?」

「ワタシが選んで此処に来たの。ワタシはやっぱりさ、なんだろ……なんでか最期にアンタを選んじゃったわけ」

 虹色の瞳。

 虹色の子――月下虹子。少女はヒトではなく結晶。花晶として、ヒトにチカラを与えるモノ。生きる理由を探すモノ。その本質の通りに歩くモノ。

「おまえ、ここがどこかわかってんのか!?」

「死後とかそんな感じなんでしょ? でもさ、そんなのわかんないじゃん。死んだのかどうかすらわかんないのに勝手に死なないでくれない? アタシさ、まだアンタに言えてないことがあるんだ」

 そう言って虹子が雨弓の手を引っ張る。二人は歩く。身長に差がありすぎるから、虹子が歩けば雨弓の姿勢は自ずと低くなる。

「ちょ……おい! 訊けよ!」

「訊くのはアンタッ!」

 そして叫ぶ虹子。

 歩く速度は早くなる。

「ワタシも独りぼっちだったしさ、生きる為に必死だったし、いろいろ利用した。アンタも利用した。アンタの心も利用した」

「あ、ああ……」

 本当の家族はもう雨弓にはいない。本当の妹だってとっくの前から雨弓の前から消えている。だからこの手を握るのは贋物で、けれどそんな贋物でも雨弓にとっては安息だった。


「それでもワタシを妹としてみてくれたアンタに……いいや、兄貴には感謝してる」

 そして振り向いた虹子の表情は屈託の無い笑顔だった。雨弓はそれ以上、言葉を吐くことが出来なかった。結局、これだけあれば雨弓もよかったのだ。

「この先になにが待ってんだ?」

「わかんない。閻魔さま? それとも神さま? ワタシ、ヒトじゃないからどうなるかわかんないし。兄貴がどうなるのかもわかんないけどさ。それにまだワタシらが死んだなんてわかんないじゃない」

「そうかもしれねぇけどよ……ってかお前どうやってここに来たんだよ?」

「知らないし、ただ兄貴のところへ行きたかったからそこに向かって歩いただけ」

「ははは……お前すげーな」

「うるさいなぁ」

「いや、もう別に何が待っててもいいわ。虹子、一緒に行こうぜ。死んでんのかどうかわかんねーけど、もうお前いるならどうでもいいわ」

「ニンゲンじゃねーのにこんなワタシと一緒にいたいだなんて、変態ヤローめ」

「オレよりずっと変態クソ野郎の兄妹(、、)がいるけどな」

「確かにね」

 そうして二人が歩く道が虹色に煌いていく。

 そして闇黒の中を歩み続けていくと、そこには二人分が通れる道が見える。その道には光が差し込んでいた。虹子と雨弓は顔を合わせ、

「じゃあ行こうぜ。どうなってもお前だけはやっぱ離したくねぇ」

「ワタシも独りはイヤだから、兄貴がいないとダメみたい。いろいろあって、いろいろやってくうちにやっぱり此処が一番大事な場所だってのがわかったから」

「オレの横が、お前の居場所ってか?」

「そういうこと。誇れば?」

「そうさせてもらうわ」

 二人は手を繋ぎ、光の中へと吸い込まれていく。

(ワタシの願いか……花晶はみんな一つ大事なモノを持っていて、ワタシの願いはなんだったけな――)

 光は雨弓と虹子を包み、

(ああ、そうかー……そうだよね。わかったわかった……)

 意識が途切れて、

(ワタシの願い――ワタシのチカラは遠ざけるけれど、本当はそれでも引っ張ってくれるヒトが欲しかった。だからきっとその願いは――)

 

 消えていく。


(共存だったんだよね)


 消えていく――

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