f-18 それが全能結晶の無能力者<8>
f-18 それが全能結晶の無能力者<8>
瞳を開くことすら許されない強い光の中で、ふと声が聞こえた気がした。
この世界がまだ夢だからか、甘い夢を見ることをまだ無意識の内に望んでいたのか、理由はわからないけれど……その声を雪哉は知っていた。
――雪哉、お前に家族が出来るぞ。
ずっと独りだったお前に、父さんがしてやれることはこれぐらいだけれど、お前に妹が出来るんだ。
……雪哉、こんな父さんを許してくれ――
その声は雪哉の父だった。けれど両目を開くことは出来ず、それが本当に父なのかどうかは確認できなかった。でも、今はそれよりも雪哉は父の言葉に対して首を横に振っていた。
許すも許さないも、最初から恨んでも憎んでもいない。
雪哉の父がArkにいたのは、家族を守る為だった。
母が雪哉を産んで以来、子を授かることはなかった。そんな雪哉に家族が出来たのは、理愛というヒトではない別の存在のお陰だった。
たとえそれが実験だったとしても、理愛の花晶としての能力を開花させる為だったとしても雪哉の父はそれに縋った。
「……感謝してる。アンタのおかげで俺は理愛に出会えた」
落ちる。落ちる。真っ直ぐ落ちる。白い光の向こうへ落ちていく。
落ちていく中で、雪哉は自分の両親の声が聞こえた気がした。妄想だとしても、それが本当かどうかわからなくても、雪哉はその声を聞き入れた。
「今のは、お父さんですか?」
「そうだな」
光のせいで理愛の顔を見れないが、声は聞こえる。そして雪哉は理愛の問いに頷いた。
「わたしがこの世界に目覚めて……いえ、無理矢理起こされて……独りぼっちだったわたしに手を差し伸べてくれた最初の人がお父さんでした。わたしは今でも覚えています。あの言葉を覚えています」
「……なんだ?」
「今日から家族だ、と」
眩しすぎる光のせいで表情は解らないけれど、きっと理愛は笑っていると思った。そして雪哉もまた柔らかな表情を浮かべ、更に強く手を握った。
「そしてこれからも家族だ」
雪哉が呟く。
「はい」
理愛が頷く。
強制的にこの世界で目覚め、凰真の願望の為に生かされ、そして偽りだとわかっていても雪哉の家族の一人として生きることになった。
理愛が望まれているのは結晶としての異能だけで、他は不要だったから。誰も自分を見てくれなかったそんな世界で、最初に理愛の全てを必要としてくれた最初のヒトだったから、だから雪哉の父に理愛は感謝していた。
「わたしを家族として迎え入れてくれて本当に嬉しかった……兄さんとはいろいろあったけど、今はこうして一緒に歩いています。だからもう他に望みません」
失ったモノは大きかったけれど、解らないことは沢山あるけれど、それでも今こうして実感できる幸福を失くしたくないから、だから二人は戦える。
理愛はそっと雪哉の左肩に手を添える。腕は凰真に喰い千切られ無くなってしまっている。だが、理愛の身体が白く光る。そしてその光がゆっくりと理愛の左腕に集う。
「わたしは独りで生きれません。ヒトは独りで生きていけるかもしれません。でもわたしは無理です。だから兄さんと一緒に生きるんです。その為に一緒に外に出ます。そうでしょう、兄さん?」
粒子がゆっくりと形成する。肩口から腕の形が創り上げられていく。無くなったはずの腕が、雪哉が理愛に貰ったあの腕が、
「理愛……」
「わたしを、守ってくれるんでしょう?」
「…………ああ」
光が消える。そして完成した。
雪哉の消えたはずの左腕が出来上がる。そして――
「往くぞ、理愛」
「ええ、往きます……兄さんと二人で、駆け抜けます」
そして光が晴れた向こう側、終わりへといま突き進む。