3-13 bad [a]nd happy [e]nd(2)
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無知は罪だ。
戒めを背負い雪哉は走る。
何も知らないままだった。そして知ろうともしなかった。
だから、
二駅、電車で進んで前に来た町に到着する。
日は落ち、もうすぐ夜がやって来る時間帯だ。
しかし、この町に来るのは二度目だが本当に人気の無い陰気な町だ。そして――
「やはり、いるな……」
黒い装備で身を固めた「銃者達」たちが町を跋扈していた。
一体、彼らはこの町で何をしているのか、それは雪哉にはわからない。雪哉はそのまま切刃の住むアパートに向かった。
相変わらず暗く、外灯がなければここはただの闇黒だ。人工の光で照らされた道を歩き、ようやくアパートに到着する。
一番端の扉、表札には夜那城の名すら無く、ただの白い札が掛けられただけだ。しかし扉は開く。誰もいない。切刃どころかあの切歌さえこの部屋にはいなかった。
「不法侵入になるのかね?」
土足で他人の世界に踏み込むことに躊躇いはあった。しかし今の雪哉は形振り構っていられない。
雪哉は自分の鞄からクリアファイルを取り出した。それは瀧乃に渡された書類だった。そしてその紙に記されていたのは、
「夜那城家は機巧術師だった……とはな」
古い日本の伝統的な機械で作られた仕掛けや細工を施す者。夜那城家はそんな古い過去からカラクリを作る家系だった。
「すまない、切刃」
切刃は靴を脱ぎ、そのまま中へ侵入する。部屋の鍵を掛けていない切刃も切刃だが、そんな切刃の部屋へ勝手に入り込む雪哉もまた罪人だ。
部屋の中には最低限の生活する物資しか揃っていない。ベットや冷蔵庫のみだけの殺風景がここに広がっている。
しかしそれは前回見た光景だ。気にはならない。それよりも、雪哉はまだ見えない部分に焦点を置いた。
「これじゃ泥棒だな」
箪笥の襖や、机の棚、見えないところは片っ端から開いていく。しかし何も見つからない。どこもかしこも空っぽで、何一つ雪哉が求めているモノは見つからない。
「もしカラクリを作っているなら作品の一つや二つあると思ったんだがな」
その程度の興味だった。しかしそれだけの為に部屋を物色するというのは何とも趣味の悪い話だ。
だが今回は切刃の家を不法侵入した挙句に泥棒紛いの行為をするわけではなかった。切刃に会いに来ただけだ。切刃はどこかにいる。きっといる。そう信じて動いただけだ。しかし切刃はいなかった。
しかし、ここまでは予定調和。いきなり消失した存在を容易に見つけられるとは思っていない。これはちょっとした雪哉の嫌がらせだ。いつか切刃に「お前の私物を勝手に漁った」と言っては驚かせる雪哉の茶目っ気から出た行為だ。意味の無いことなのかもしれない。それでも、ただこの場所に来て、切刃がいないから何もせずに帰るなんて雪哉には出来なかった。
このままここで黙って座っていればいきなり切刃が帰って来るなんて――そんな希望を抱くつもりもない。雪哉はそのままその場に座って、書類を捲る。
「夜那城切刃はカラクリ細工を作る名家だった……そして、藍園逢離は――」
藍園逢離はそんな夜那城家に使える従者の一人だったわけだ。
逢離が切刃を見る度に視線を逸らしたり、居心地を悪くしていたのはこれだったわけだ。元々は主人である夜那城家の人間が目の前にいれば気負いもする。しかし、藍園逢離は夜那城の元から離れ、この町で暮らしていた。藍園逢離ただ一人だけ、夜那城家から放り出されている。これはどういうことなのか、書類には記載されていないだけにわからない。
「……しかし、これは本当なのか?」
藍園逢離が藍園家から出た後の話だ。
夜那城家は切刃の代で没落している。しかも原因は火災によるものだ。炎上した夜那城家の住所を見る限り雪哉たちの町からかなり離れている。そんな事件があったのか今の雪哉ではわからない。時間を掛ければすぐにわかることなのだろうが今すぐに調べ上げるとなると時間が足らない。
それはさて置き、数年前に起こったその火災は森林さえも焦土と化して、山が丸一日燃えていたそうだ。そしてその山の中にあったとされる夜那城の家は全焼。当然、藍園家も全焼した。そうして炎によって夜那城と藍園の全ては焼き払われた。偏狭の奥底にあった長く続く歴史は炎によって焼かれ、そして誰の記憶にも残らずに終わってしまった。
そんなこと知らなかった。切刃にそんな過去があったなんて。唯一、そんな災厄の中で生き残ったのは切刃だた一人だった。そこからの切刃の人生がどのような過程を踏まえてこの町までやって来れたのか、それはわからない。
しかし、待て、それは、おかしい。
「じゃあ、アレは……、あの切刃の言っていた「姉」は? 夜那城切歌は、何なんだ?」
書類には生存したのは夜那城切刃のみと書かれている。焼死した夜那城の人間たち。しかし切刃の名しか書かれていない。では、切刃の姉はどうしてここにいる? 生きている? そしてその事実は書かれていない。
夜那城切歌は幻だったのか? いや、理愛も彼女を見ている。彼女を評価していた。「嫌い」だとはっきり言っている。幻覚を見ていたわけではなさそうだ。では――
考えたどころでどうにもならない。そんな事実を知った雪哉が切刃に出来ることは何も無い。切刃は、ここにはいないのだから。そして逢離のこともそうだ。逢離に何か出来るかと言えば、この過去を黙っておくことしかできない。理愛が選んだ人だから。雪哉は黙殺を選ぶのだろう。
歌は、聞こえなかった。
この町で聞いた天使の歌は夜空に響くことはなかった。
だから迷うことなく進むことが出来る。帰ることが出来る。しかし帰ろうとはしなかった。まだやるべきことがある。
だから、雪哉が向かった場所は――あの狂気で溢れていた路地裏だった。そこには血が零れ、肉が毀れていた。そんな日常から遠離したこの場所に、雪哉は何を望んだのか。
地や壁にこびり付いた赤い血は消えていた。肉も落ちていない。それでも雪哉は壁に触れ、そして散乱するゴミを足でどかしては何かを探す。
落ちていた切刃の携帯電話。もしかしたらそれ以外の何かが落ちているかもしれない。それでも、あれからもう数日が経過している。何も見つからないと考えた方がいいのだが、それでも雪哉は諦めきれなかった。
それから十数分。
雪哉の詮索は終わらない。しかし雪哉の目に何かが映った。そしてそのまま膝を折り、身を屈めそれを手に取る。
「なるほど」
合致した。納得できた。頷く。光が差した気がした。
「何をしている?」
しかし光が射したのは本当だった。比喩ではなく、本当に眩しい光で雪哉は照らされたのだ。手で光を遮っても幾度と無くその光は雪哉を照らし続けた。そして指の隙間から見えたのは、黒を装備したあの「銃撃者」たちだった。
「どうしてこんなところに高校生が?」
どうやら銃者達は二名。
両者共に肩に背負っているのは黒い鉄塊。しかしそれは火を放ち、鉄を飛ばす。回避など出来ぬ、破壊の証。銃器の知識の無い雪哉にとってそれが何と言う銃なのかはわからないが、自動小銃であろうその兵器を前にして雪哉は無力だ。引鉄を一度引けば無数に穿たれ、命は絶えることだろう。
「すみません、学校を休んだ友達の見舞いに行った帰りなんです」
それは前回、切刃の家に行った時の理由であって今回は違う。だが咄嗟に出た言葉はこれだった。
「しかし帰り道にここを歩くのはおかしな話だ。駅からも離れているだろう?」
「ええ、まぁ、でも……自分、この町の人間じゃなくて。土地勘も無いんで迷ってしまって――」
適当な言葉を並べている内に嘘が大きくなっていくが仕方がない。
だが強ち間違っていないのも事実だ。この町に来たのは二度目だし、うろ覚えで歩いていただけだから切刃の家とこの路地裏ぐらいしかはっきり覚えていない。迷ったというのは完全に嘘だったが。
「わかった。じゃあこのまま真っ直ぐ道沿いに歩いていけば本道に出るから……とっとと行け」
「わかりました」
そのまま雪哉は首を縦に振って、背中を向けて走り出した。
しかし、目の前に武装する彼らもまた雪哉の敵ではあるはずだ。時任理愛の兄であり、その左腕には結晶としての最高位――花晶の力が眠っているというのに、「銃撃者」らは雪哉に関しては完全に無反応だった。
(Arkの全てが――俺の敵ではない、ということか?)
花晶という言葉自体がこの世界にはまだ浸透しておらず、そもそも雪哉自身もその言葉を知ったのは理愛がその結晶そのものであるということを知った時だ。それまでは種晶こそが結晶の原種であり、人々に力を与える神秘の象徴と思っていたほどだ。
どうして「銃撃者」がこの町にいるのかは気になったが、今はとにかく何事も無くこの場を去ることが先決だった。雪哉は少しずつ歩幅を広げ、足早に路地裏から脱出する。
「危なかったな……」
適当に口から出た言葉でなんとか危機を脱することができたが、こうも呆気なく事が進んでしまうと返って気味が悪い。しかし本道に出ても人気はない。これでは路地裏と変わらない。とにかく収穫はあった。このまま――
「なっ!?」
爆発音。
しかも近い。大きな音ではなかったがそれでも何かが弾けた音がしたのは確かだった。それも背後、路地裏からという最悪の連鎖。ここで物語の主人公ならば、きっと振り返り、そのまま来た道を戻るという選択肢を選ぶのだろう。だが、雪哉は違った。
わざわざ首を突っ込むことではない。冷酷ではない。無関心だ。切刃のことでこの場所に来ただけだ。それ以外には興味を示す必要などないのだから。
だが、悲鳴を聞いてしまったのだけは誤算だった。路地裏の向こうから慟哭が響き、爆発と破砕が共鳴を続け、やがて悲鳴も消えていく。そしてまるで今までの騒音は嘘だったように静寂が辺りを包んだ。
「なるほど」
そして路地裏へ進むかどうか迷っていた雪哉だが、そんな迷いはもう無くなってしまった。首を曲げて後ろを向いていただけの身体は、気がつけば正面を向いていた。合点したことは、静寂の正体だ。
「これはこれは……」
邂逅することを望んでいたわけではなかっただけに、まさかの登場に雪哉は戦慄を覚えた。それは路地裏にいたあの仮面の怪物だったのだ。背丈は雪哉ほどしかないが、仮面と黒衣、そして血に染まった刃。人間とは思えないそんな異常の塊が雪哉の目の前に現れたのだ。
「こうして再び合間見えることになるとは、思わなかったんだがな……」
こんな怪物との再会を願う奴はきっとただの愚か者。雪哉も邂逅など求めてはいなかった。だが心の奥底で、もしも怪物と出会った時は――
「黒を纏いし狂戦士よ、今宵も獲物を求めてその得物で狩りを続けていたのか?」
雪哉は問いかける。しかし怪物は反応しない。そして、黒い法衣で隠された左腕には何かが掴まれている。
「――うっ!?」
月光が照らし出され、映るのは肉だった。そしてそれは先程、雪哉に声を掛けたであろう銃撃者の一人だった。いや、銃撃者の一人だった「もの」と言うべきか。首から上は無く、そのままワイヤーで括られた肉塊を引きずるように怪物は歩く。雪哉には背を向け、そのまま何もしてこない。足は震えていた。二人いた内の一人はいない。きっとこのまま路地裏へ進めば、待っているのは先日と同じ地獄だろう。
「ははっ、二度目だというのに慣れないものだな……クソッ!」
雪哉は笑い続ける膝を叩き、そのまま怪物を追う。
逃げればいい。助けを求めろ。いや、それは出来ない。助けを求めている間にきっと逃してしまう。やはり、これは放置できない。そして、確かめることもある。
闇黒が溢れるその路地裏の奥へ進んでしまえば、きっと後戻りは出来ない。背後にはまだ光が照らされている。光の見える方へ逃げてしまえば、どれだけ楽だろう。
それでも迷ってはいけない。だからこのまま進むことにしよう。
真実を知る為にも――その先へ。
闇黒の中へ、音は聞こえない。左右を見渡しながら、ゆっくりと進む。
――案の定、地獄が広がっていた。
そこには血と肉で溢れ返った穢土そのものだった。
こんな闇黒の釜の底へ足を踏み入れてしまったことに雪哉は後悔していた。
そんな真紅を背に黒き怪物は立ち尽くす。刃は血が滴り落ち、鉄糸には肉が巻かれている。
「またこうしてお前と出会うことになるとはな」
恐怖を覆い隠さんと雪哉は強気の姿勢を向ける。顔を手で隠し、怪物を睨み付ける。今、目の前にいるのは殺人を生産する人殺しだ。敵味方の概念などそこには存在せず、ただ生きる者を殺し続ける殺人鬼。そんな鬼を前にして震えない方がおかしい。だが怪物は雪哉の問い掛けを完全に無視。ただ俯瞰し、そのまま微動だにせず屹立していた。
「俺を生かしたのは何故だ?」
初めての邂逅、雪哉は怪物と対峙した。しかし圧倒的な力の前に敗れ、そして殺されるはずだった。
だが怪物が口を開くことは無い。いや、仮面を被っているのでわからないと言うべきか。表情も読み取れず、何を考えているのかもわからない。ただ動かない。刃先すら動じず、だけど雪哉は捲くし立てるように言葉を吐く。
「どうして、殺人を続ける? 殺戮を繰り返す? 何が目的だ? 何のために人の命を奪う?」
無言。怪物は終始、口を割らない。
雪哉は両手を上げ、やれやれと首を左右に振った。この会話に意味はない。雪哉の独りよがりでしかない。そんな意味の無い会話などやらない方がましだ。
だが、
「なんだ?」
そこで初めて怪物は動きを見せた。滴り落ちる赤の雫を拭い、そのまま鞘へと帯刀した。肉が巻かれていたワイヤーも解き、肉が鈍い音を立てて地に落ちる。そしてゆっくり右手を上げ、雪哉を指差した。最初は意味がわからなかったが、怪物が指差すは雪哉の聖骸布によって隠れていた左腕だった。
「花晶……知っているのか?」
怪物は頷いた。
この世界には結晶で溢れている。道端に転がっていてもおかしくないほどに、それは大量に存在する。それは力を与え、超常を与える。だが、下位なのだ。上位である花晶の格下であることはまだ誰も知らない。
だが、花晶を怪物は知っている。そして雪哉の左腕に興味を示している。雪哉もつい口を滑らせてしまったことには悔やんだがそんな後悔は忘却する。
「これが、欲しいか?」
雪哉はゆっくりと包帯を解く始め、そして言い終わる前には既に封印は解かれ、白銀の左腕が姿を顕現す。
しかし怪物は首を横に振った。それは否定だろう。花晶に対して関心は持っているが、欲求はない。そして、怪物は帯刀されていたはずの狂気の刃をゆっくりと引き抜いた。
「俺を、殺すか?」
怪物は頷く。
「守りたい者を守り切れてないんだ……ここでは、死ねない」
雪哉は構える。こうなることはわかっていた。きっとこうして戦うことになるのだと、そう実感していた。だが、勝利という可能性は翳んで見えない。得ることは、とても難しいものだろう。それでも、迷いは無い。臆して、怯えて、震えていた雪哉はここにはいない。地獄の中心に立つ雪哉は、ただ覚悟を決めて、腕を握り締め、怪物に真正面から対峙すると決意していた。
「来い!」
怪物が動く。
しかし、怪物の動きははっきりと捉えることが出来る。
(前回とは、動きが……違う?)
初めて接触した時のあの神の如き速さはどこへやら。今は常人である雪哉の動体視力でもしっかりと視界内で捉え切れている。突き進む怪物の動きを見てから反応しても十分に間に合うほどだった。
では、雪哉が突然に覚醒したのかと言えばそうではない。
今の雪哉はただの人間と変わらない。理愛がいなければただの無能力者でしかない雪哉にとっては有能力者の時点で勝算は無いに等しい。五感も何もかもが常人と何ら変わらない。ただ左腕が頑丈であるぐらいしか戦える要素は無い。
だから、どうした。逃げたくない。臆病な自分と決別する為にも、この怪物を止めなくてはいけない。この左腕は理愛の頂いたモノだ。だからこれを渡すわけにはいかない。
怪物は上から下へ勢いに任せて刃を振り下ろすが、雪哉はそれを左腕で払い除ける。自ら刃に触れ、そしてその刃を弾き返す。怪物の体勢が崩れ、雪哉はそのまま怪物の足元を掬うように蹴る。だが怪物は重力に逆らうようにグルンと宙を返る。大道芸を見せ付けられ、そのまま怪物は壁に両足を付けた。しかし重力は平等に生きる者を縛る。だが壁に着地した怪物はそのまま落ちることはなく、強く壁を蹴り上げ、雪哉に向かって突進する。
「……とんでもないヤツだな」
人間技とは思えない運動能力を前に雪哉は冷汗を掻きながら突進する怪物の攻撃を躱す。だが怪物は雪哉に攻撃を回避されたことなど気に掛けることなく刃を振るう。
(漫画のようには、いかないか……)
紙一重で攻撃を躱し、その隙を突くなんて剣豪のような動きが出来るわけもない。リーチ差では明らかに負けている。素手と刃では分が悪い。雪哉は構える。こちらから動くことはない。刃の届く範囲内に自ら踏み入れるような自殺行為はしたくない。
雪哉は大袈裟に溜まった息を吐き捨てて、頭を掻く。 そしてそのままその場に直立した。構えも解き、怪物を見つめた。雪哉の不可解な行動に怪物もまた動くことを止めた。
「これ、なんだと思う?」
雪哉はポケットからあるモノを取り出す。
「お前が殺したこの路地裏に落ちていたものだ……薬莢の殻だな」
それは銃撃の際に吐き出すモノだ。
しかし怪物は何の反応も見せない。それでも雪哉は話を続けた。
「あの日、俺が見た死体と同じところにこれが落ちていたのは運がよかった。何せ時間が経っていたんだからな……」
そして雪哉はその薬莢を捨てる。もうこれは必要のないものだ。
「あの死体は銃撃者じゃなかったのか? そして薬莢は奴らの銃撃で落としたものだと考えているのだがどうだろう?」
前回、この場所に訪れた時に見つけてしまったものだった。こんなところに銃弾の薬莢が落ちていたことがおかしかった。そしてそれが雪哉にもう一つの可能性を見出させた。
「死体はよく見ていなかった。だから俺は、間違っているのかもしれない……それでも信じたいんだ。切刃は生きている。あの死体は切刃じゃなかった。そして――」
小さい人間なんだ。心は脆く、弱い。
「殺したのは、お前だな――」
ずっと信じられずにいた。信じたくなかった。だから逃げていた。それももう終わりだ。落ちていた薬莢如きで真実に辿り着けたとは思えない。だがどんな小さな可能性でもそれに縋りたかった。だから、嬉しかった。しかし同時に、
「――切刃」
悲しかったのだ。