1―1 始まりの夜
1―1 始まりの夜
砕け散り四散した結晶を、人は雪と呼んだ。
真夏の夜に白い雪が降った。世界を覆い尽くす程の雪が。だがその雪は溶けることなく、ただ地上を白く染め上げた。そんな白く光る夜がこの世界の歴史を大きく変えた。世界一変の日。
そんな世界を書き換えるそれは雪ではなかった。これは結晶。砕かれた結晶が空を舞い、ただ落ちてきた。その結晶が落ちて来た日。神秘の光が墜落を繰り返した日。
だが落ちてきたのは結晶だけでは、なかった。
そんな奇跡のような真下で、地獄の業火が柱となって形を成した。
深淵のような闇夜の下、巨大な火柱がそんな降り注ぐ結晶さえも焼き払っていた。赤気が立ち上り、木々も鋼鉄も人間までも全てを平等に焼き尽くしている。
つい先程まで空中を飛行していた鋼鉄の塊は真っ二つに折れ、そこから轟々と炎と煙を巻き上げている。そんな炎の下に少年は額から血を流し倒れていた。
「な、……なにが――」
わからない。何もわからない。時任雪哉には何もかもがわからなかった。
気がつけば倒れていた。さっきまで飛行機の中にいた。目覚めれば地上だった。何一つわからないまま血を流していても、生きていることだけはわかった。しかし家族の姿は、なかった。
目の前の光景に絶句し、そして絶望した。
炎は全てを呑み込み、それはまるでこの世の終焉かと錯覚させるほどだった。声を上げた。慟哭を繰り返しながらも、雪哉は真っ先に家族の名を絶叫した。けれど返事が返ってくることはなかった。ただ炎が雄叫びを上げるように激しさを増し、そして白い結晶が雪哉の身体に積もるだけだった。地に膝をつき、ただ崩れるように倒れた。仰向けのまま空を見つめた。結晶の雪がひたすらに降り、雪哉は涙を流した。
そんな夏に降る不可解な結晶は人々に奇跡を与えることになる。だがそんな奇跡よりも、全てを失ってしまったと思い知らされた雪哉にとってはどうでもいいことだった。そんな一人の少年の絶望など他所に世界は一人歩きを始める。たった一人の慟哭で、この世界を停止させることなんてできやしない。それでも雪哉は咆哮することを止めることはできなかった。