二十歳の春 〜帰り道〜
呼称についての補足その2
斉藤千絵は、女の子には名前を呼び捨てで、男の子には君付けで呼びます。
広田詩織は、女の子にはちゃん付けで、男の子には君付けで呼びます。
ちなみに、冬樹は春海を「春海さん」と呼ぶように変わりました。一応、彼氏と彼女なので。
あれから四年が過ぎ、私達は大学二年生になった。
さすがに四年も経つと、冬樹のことを考えることも少なくなっていた。
GWも間近のある日の朝、
「夏海ー、詩織ー、おっはよー!」
「「おはよう。」」
相変わらず、朝からテンションの高い千絵。
「ところで…、お嬢様方に折り入ってご相談と言うか、お願いがございます。」
「イヤ。」
こういう時の千絵のお願いは、ロクなことがない。
「ちょっとー、まだ何も言ってないじゃん。夏海、酷くない?」
「どうせ、ロクなことじゃないでしょ!」
「夏海ちゃん、話だけでも聞いてあげたら?」
「詩織は優しいね。どこかのツンデレお嬢とは違って!」
「だ、誰がツンデレよ!…で、お願いって何?」
「一緒に合コンへ行ってください!」
「はぁー?」
「…!」
「バイト先で、T大の男の子と知り合ったんだけど、その子とその子の友達と、合コンすることになっちゃって。」
「私はパス。」
「ゴメン夏海、パス出来ない。モデル系の美人と、ロリ系の可愛い子連れてくって言っちゃった!」
言っちゃったじゃないよ…。
「それって私も?」
「もちろん詩織も。だから夏海、お願い!」
「私、合コンって嫌い。他の子探してよ!」
「じゃあ、合コンじゃなくて、『飲み会』ってことにすれば?そこに、たまたま、男の子がいたということでどう?」
それを、『合コン』と言うのでは?
結局、断りきれず、『飲み会』に行くことになる。
私に、次に進むきっかけを与えようと、千絵なりに気を使ったのだろう。
そう好意的に解釈した。
「ちょっと夏海!何ダラダラ歩いてるの!もう男の子たち来てると思うから、いい加減に覚悟決めなさいよ。」
考え事をしながら歩いていると、千絵に急かされた。
「私、合コンって初めてだからちょっと楽しみ。」
だから詩織ちゃん、『合コン』じゃなくて、『飲み会』って言ってるじゃん!
「あっ!千絵ちゃん、こっち、こっち!」
三人組の男の子の一人に呼ばれた。
その瞬間、一番端でつまらなそうに頬杖をついていた男の子が、ゆっくり、こっちを見る。
「…。」
「…。」
「「…あーっ!」」
久しぶりに見たその男の子の顔は、私が知ってる顔より大人になっていた。
立花冬樹だった。
「何だよ!お前たち知り合い?」
「えーと…、中学の…同級生?」
何で疑問系なのよ!
「何であんたがここにいるの?…おね…彼女はいいの?」
「春海さんには、ちゃんと許可を取ってきた…。」
「よく許してくれたね。何て言ってきたの?」
「『飲み会』って…。」
あんたもかよ…。
「あー、えーと、冬樹は…、嫌がるコイツを、俺が無理矢理引っ張ってきた。えーと…、何かゴメン。」
「何で康太君が謝るの?私も嫌がる夏海を、無理矢理引っ張ってきたから同じだよ。」
せっかく前向きになってきていたのに、何でこうなるの?
「…ねえ夏海?…冬樹君って…あの冬樹君…だよね?」
「…そうだよ。」
千絵達に泣きながら話したあの冬樹。
「…ごめんね…。」
さすがの千絵も、申し訳なさそうだった。
「…別に…大丈夫だよ。」
「家が近くなんだから、冬樹君は夏海を送っていってね。」
駅前で解散する時、千絵が私達に言った。
私に向かって親指を立てながら…。
あの子はホント余計なことを…。
「なぁ、千絵ちゃんっていう子、何で俺達の家が近くだって知ってるんだ?中学の同級生とは言ったけど…。」
さっきから黙ってると思ったら、そんなことを考えていたのか、コイツは!
「…中学の同級生だから、家も近いと思ったんじゃない…。」
ちょっと苦しい言い訳…?
「そうか…。…でも今日は、本当にビックリしたよ!」
「私も…。まさか、彼女がいる冬樹と合コンで会うとは…。」
冬樹にいたずらっぽい笑みを向けてみる。
ちゃんと、笑えていただろうか?
「分かってると思うけど…、春海さんには絶対に言うなよ!」
「言うわけないじゃん!今日は、私も、冬樹も、友達と飲みに行ったら、たまたま昔の知り合いに会いました…でしょ?」
二人きりでも、思ってたより普通に話せた。
「元気だった?」
「おう。っていうか、春海さんと俺の話はしないの?」
「うちはそういう話、あんまりしないから…。」
「女の人って、彼氏とか、好きな人の話って好きじゃないのか?…『恋バナ』ってやつ?」
「プッ…フフフ!」
「何笑ってんだよ!」
「ゴメン、ゴメン、冬樹の口から、『恋バナ』っていう単語が出てくるとは思わなかったから。」
「うちの姉ちゃんは、いつも聞いてくるぜ。自分のことは興味ないくせに、人のことは気になるみたいで。」
「秋姉ちゃんは、冬樹が凄く大事なんだよ。お母さんがいないから、『私が冬樹の母親代わり』みたいな。」
「分かっているんだけど、時々、鬱陶しいんだよね。」
秋姉ちゃん程、弟思いのお姉さんなんて、めったにいないのに…。
「じゃあ、またな!たまには連絡くらいしろよ!」
「うん、またね!」
冬樹の携帯番号なんて、私は知らない…。
あえて聞くこともしなかった…。
番号やアドレスを知っていても、連絡することはないと思ったから…。
お酒は二十歳になってから。