夏 〜短い会話〜
「別に嫌ってないよ。」
私達の関係は、中学生になっても相変わらずだった。
イヤ、むしろ悪化したと言っていい。
一年生の一学期は、クラスが別だったこともあって、一言も話さなかった。
廊下ですれ違っても、挨拶どころか、視線すら合わせない。
嫌いになったわけではない。
どんどん大人びていく冬樹に、向き合うことが出来ないほど、好きになっていたのかも知れない。
「やっぱり、立花君が一番カッコイイと思う。」
「でも、もう少し背が高いほうが良くない?」
「身長なんてすぐ伸びるって!」
「夏海はどう思う?」
「…。」
『どう思う?』と聞かれても…。
答えられるわけがない。
自分の本心を見透かされそうで…。
友達同士の何気ない会話に、妙な焦りを覚えた。
「そういえば、夏海と立花君って、幼なじみじゃなかったっけ?」
「小さい頃、結婚の約束とかしてたりする?」
「してないよ…。」
「なんだー、つまんない!」
嘘はついていない。
私とは、約束してないのだから…。
夏休みの終わり頃、家の前で偶然、冬樹に会った。
いつものように、何食わぬ顔で通りすぎようとすると、
「おい!」
冬樹に呼び止められた。
「お前、なんで俺を無視するんだよ。」
「別に無視してないよ。特に、話し掛ける用事がないだけ…。」
「だったら、挨拶ぐらいしろよな!俺が何か嫌われるようなことしたかと思うだろ!」
「ごめん…。別に嫌ってないよ…。」
「まぁ、いいけど。今度からは挨拶ぐらいしろよな。じゃあな!」
久しぶりに交わした短い会話が、私のモヤモヤを消してくれた気がした。
これってやっぱり恋なの?