番外編 花嫁の父
番外編を一話掲載します。
倉田姉妹の父親の目線です。
「お父さん、お母さん、長い間、お世話になりました。」
結婚式当日の朝、娘の春海が頭を下げる。
俺は、それだけで涙腺が崩壊した。
今日は娘の結婚式だ。
俺達夫婦には、二人の娘がいる。
上の子の春海は、小さい頃から男勝りで、妹や隣の姉弟を引き連れ、近所を暴れ回っていた。
小学生になると空手を習い始め、男勝りに拍車がかかる。
そんな娘の将来を、妻の洋子は本気で心配していた。
「夏海はいいとして、春海は将来、結婚出来ないんじゃないかしら。」
そんな春海も、中学生の頃には、少し落ち着きをみせる。
どうやら、好きな人が出来たらしいと、妻は言っていた。
ホッとすると同時に、寂しくもあった。
「春海に恋人でも出来たのかしら?夏海は何か知ってる?」
春海が高校三年になった頃、休日になるといそいそと出掛ける娘の変化に、妻が気付く。
「隣の立花冬樹と付き合ってる…。」
妹の夏海が、無表情に答えた。
そうか…、冬樹君か…。
彼なら文句が付けられないな…。
冬樹君の父親である立花雅樹(通称マサ)は、俺の幼稚園の頃からの親友だ。
マサと俺は、お互い結婚したのがほぼ同じ頃。
上の子供が生まれたのも、下の子供が生まれたのも同じ年だった。
その息子というだけで、文句が付けられない。
それに、冬樹君はしっかりしてるし、頭もいい。
小学生から習っていた空手は、大会で優勝を争うレベルだ。
マサの奥さんの佳代ちゃんが入院していた頃、まだ赤ん坊だった冬樹君の面倒を、妻が見に行っていたこともある。
俺達夫婦にとっては、息子同然だ。
他の奴の方が良かったなぁ。
その時は漠然と思った。
「冬樹君は、夏海と付き合ってると思ってた。」
妻の言葉に、
「冬樹君なら、春海でも夏海でもどっちでも嫁にくれてやるぞ。」
ちょっと強がってみせた。
それから年月が経ち、春海は冬樹君と結婚するという。
他の奴なら、いくらでも反対してやるのに。
「マサ、娘を持つ父親はつまらないよ。大事に育てても、他の男に取られちゃうんだから…。」
結婚式前日の昨日、マサと二人で酒を飲みながら、思わず愚痴をこぼす。
「タケちゃん(春海の父、剛)、そんなにイヤなら、強がらずに、もっと反対すれば良かっただろ!まぁ、そうなったら、俺がお前を説得するけどな。」
「別にイヤじゃないんだよ。冬樹君なら文句はないし。男親は色々複雑なんだよ…。お前もすぐ分かる…。」
「秋代は当分先だろ。だから、俺はまだ大丈夫だ。」
マサ達が帰った後、娘達から秋代ちゃんもプロポーズされたらしいという話を聞いた。
ざまあみろ、マサ!
そして今朝…。
「お父さん達、ちょっとここに座って!お決まりの挨拶するから!」
おいおい、やめてくれよ。
既にこの時点で、俺の涙腺は崩壊寸前だった。
「お父さん、お母さん、長い間、お世話になりました。」
涙腺崩壊。
横目で妻を見ると、泣き笑いの複雑な顔だった。
夏海は、必死に笑いを堪えている。
くそっ、夏海の奴!
お前の時は、絶対泣いてやらんからな!
その夜…。
「お父さんてば、式の間中、ずっと泣いてるんだもん!私、正直ちょっと引いちゃった。」
醜態を見せてしまった俺は、夏海に責められてしまった。
「今回は、初めてのことだったからだ!夏海の時は、二回目だから大丈夫だぞ!」
強がってみせた。
「ふーん…。」
夏海はちょっと拗ねたようだ。
「大丈夫だよ、夏海。夏海の時も、お父さんはきっと号泣だから!」
何が大丈夫なんだ、母さん。
娘を持つ父親なんて、ホントつまらん!
この話は、最終話の前に掲載する予定でしたが、カットした話です。
本編に入れる予定だった時は、夏海の目線でしたが、父親目線に書き直しました。