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冬樹と夏海

夕方になると、親戚達が続々と集まり始める。




『ピンポーン』


また、誰か来たようだ。


「ただいまー。」


お姉ちゃんだった。


当然、冬樹もいる。


「お帰り、お姉ちゃん!冬樹も…久しぶり…。」


「お、おう…。久しぶり…。」


私達のぎこちない挨拶は、お姉ちゃんは気にしていないようだ。


久しぶりに会った冬樹は、また大人になっていた。







宴会が始まると、私とお母さん、秋姉ちゃんは忙しくて、余計なことを考える暇もなかった。




外がすっかり暗くなり、一段落ついた時、


「ねえ、おばさん!お酒が足りなくない?」


突然の秋姉ちゃんの発言。


そして、私の方を見ながら小さく微笑む。


…ん?


何かするの?


「うーん、大丈夫だと思うけど、念のため買い足した方がいいかも。余ってもどうせお父さんが飲むし。」


お母さんの判断を聞くと、秋姉ちゃんは、私にアイコンタクトを取る。


えっ!


何?


「お母さん…、私が買いに行ってこよう…か?」


これでいいの?


秋姉ちゃんは、お母さんに分からないように、OKサインを作りながら、


「じゃあ、冬樹に荷物持ち兼ボディーガードを頼もう!」


えっ!


驚きの声を辛うじて飲み込む。


「でも、冬樹君は今日の主役じゃない?私が行こうか?」


「いいの、いいの!これぐらいしか、冬樹の使い道なんてないんだから!」


お母さんに言いながら、私をチラッと見て、冬樹を呼びに行く秋姉ちゃん。




もう逃げられない。




私は、覚悟を決めるしかなかった。




「何で俺が行くんだよ。」


「おじさん達に頼むわけにはいかないでしょ!それに、こういう時の為に空手を習ったんでしょ?」


「チッ…。」


舌打ちした冬樹だったが、やっぱり、秋姉ちゃんには逆らえない。


私が部屋を覗くと、お姉ちゃんがチラッと私を見たが、おばさん達と話を続けた。







「…。」


「…。」


気まずい…。


私達は、微妙な距離を空けてスーパーまでの道を無言で歩く。


「…何か喋んなさいよ!」


「…何で命令口調なんだよ!…そういう所は春海さんにそっくりだな…。」


そこから、スーパーまでの道はまた無言が続く。




お母さんに頼まれた物を買い、荷物を冬樹に渡し、来た道を戻る。






私はようやく覚悟を決め、ゆっくり口を開く。


「あのさぁ…、今から私が言うこと…、ちょっとビックリさせちゃう…かも…知れないんだけ…ど…。」


「…?何だよ…。」


ぶっきらぼうな冬樹の返事に、心が折れそうになる。


私は小さく深呼吸をして、少しの勇気を付け足す。


「私…ね…、ずっと…ね…、………好きだったの…。冬樹のことが…、男の人として!」


言った、言えた、ついに言えた。


ちゃんと言えたよね?


心臓の音がうるさい。


上手く呼吸が出来ない。


酸欠気味で少し気が遠くなる。


怖くて冬樹の方は見れない。


「やっぱりそうだったか…。」


ん?


今、何て言った?


『やっぱりそうだったか』って?


どういうこと???


えーーーっ!




「こんな俺でも、色々考えるんだよ…。」


「???」


私の方が、ビックリして言葉が出ない。


「二年…、もう三年前か。お前の友達の詩織ちゃんと、色々?…あった時に言われたんだよ。」


「…。」


「今まで、冬樹君の何気ない優しさに傷ついた子がいないか考えてって…。それで…。」


「それで…?」


やっと言葉が出た。


「それで、子供の頃から振り返ると、まず最初にお前が出てくるわけだよ。」


「…?」


「夏海の行動とか、態度を思い出して、コロコロ変わるお前の表情を加えると、そういう結論に達したわけ。」


「…。」


「お前は昔から、考えていることがすぐ顔に出るからな。」


「うっ、うるさい!」


「ちょっと考えれば、簡単に分かることだったのに…。そういう方面は、俺も鈍感だよな…。これじゃあ、姉ちゃんのことバカに出来ないよ。」


「ハハハ…。」


自嘲気味に話す冬樹に、引きつった笑いを返す私。





「実はあの日…、駅前のカフェでお前と喧嘩した日…、さっきみたいなことを、お前に言われるかも、と思ってたんだよね…。」


「えっ!」


また驚かされる私。


もうどうにでもなれ!と思えてきた。


「もしそうだったらどうしよう、と思いながら店に入ると、何かお前、めちゃくちゃ怒ってるし、わけが分からなかったよ。」


「…!」


恥ずかしさで、この場から逃げ出したくなった。


確かに、あの時のメールは、私の気持ちに気付いている人からすれば、『これから告白します』、と捉えられかねない紛らわしい文面だったかも…。





「…で、俺はさっきのお前の告白に、返事をした方がいいのか?」


「あっ、違うの。返事とかはいいの。私自身がすっきりする為だけのものだから。」


答えは聞くまでもないから…。


「そうか…。」


冬樹は、そう一言呟いた。




今回は、完璧にふられたのに悲しくはなかった。


おそらく、冬樹に対する感情は、既に整理出来ていたのだろう。


ここ数年私を悩ませていたのは、想いを伝えることが出来なかった後悔だけだったのだろう。


「私達はこれからも、『大事な友達』だよね?」


昔、冬樹にそう宣言された時は、めちゃくちゃ悲しかったっけ。


「…?違うな…。夏海は、今度からは義妹だよ。」


そうか、私の実姉と結婚するんだから、冬樹は義兄になるのか。


「私の方が先に生まれたのに、妹になるのは何か納得いかない!」


「何つまんないことにこだわってるんだよ!バカな奴!」


「だって納得いかないんだもん!」


そうやって二人で笑い合っていると、少し涙が出た。


幸い、冬樹は気付いていないようだった。




さようなら、私の初恋。


さようなら、私の片思い。







「冬樹、今までありがとう。それと、これからもよろしく!」


「…?何だそれ。何か気持ち悪いぞ、お前。」


「うるさい!いいの!」


冬樹は首を傾げながら、私に背を向け、少し前を歩く。


私は、少し前を歩く『新しい義兄』の背中に、もう一度、「ありがとう」と呟いた。


聞こえないように、小さな声で。








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