秋代と夏海
明日、私のお姉ちゃんが結婚する。
両親も相手の家族も、非常に喜んでいる。
私だけは喜べない。
私自身の気持ちの整理が、まだ出来ていないから…。
お姉ちゃんの結婚相手が、冬樹じゃなければいいのに…。
何度も忘れようとしたこの気持ち。
『私は今でも冬樹のことが好き。』
一度も伝えたことがないこの気持ち。
今更、『好きだ』と言ったところで、冬樹が私に振り向いてくれるわけがない。
万が一、お姉ちゃんとの結婚がダメになっても、冬樹が私を選ぶことは、百パーセントない。
そんなことは分かってる。
私は、そこまで幻想を抱くほど子供ではない。
ただ、この胸の内のモヤモヤを、簡単に消し去ることが出来るほど、大人にも成り切れていない。
あの日の『後悔』に決着を付けなければ、私は先に進むことが出来ないのだ。
いっそ、決着を付けなくてもいいかと思ったこともある。
しかし、そこからは新たな後悔しか生まれない。
何とかしなければいけないのだ。
そんなことも分かってる。
機会があったのに、逃げ回ってばかりいた私。
残されたチャンスは今日しかない。
冬樹に『私の想い』を伝える手段も、方法も思いつかなかった。
私は自分の部屋で、途方に暮れるしかなかった…。
思い出を振り返り、涙することしか出来なかった…。
突然、ドアをノックする音がする。
「はい…。…誰?」
「夏ちゃん!私だよ!」
秋姉ちゃんの声だった。
「どうぞ…。」
急いで涙を拭い返事をする。
「夏ちゃん、久しぶり!手伝いに来たよ!元気…だ…った…?」
涙の跡に気付かれた。
さすが秋姉ちゃん。
久しぶりに見た秋姉ちゃんは、すっかり大人の女性になっていた。
「そうか…。最愛の姉が嫁いでしまうのが、悲しいんだね…。って、違うよね。…冬樹のこと?」
「…!」
この人は、何でもお見通しなのだろう。
「やっぱり…、夏ちゃんも冬樹が好きだったかぁ…。」
さすがの秋姉ちゃんも、困った顔をした。
「違うの…。確かに私も冬樹が好きだったけど…、今更どうこうするつもりはないの…。」
「…?」
「ただ…、今のままじゃ先に進めなくて…。」
「つまり、自分の気持ちを整理したいということ?」
「うん…。」
「うーん…。」
しばらく、秋姉ちゃんも考え込む。
「やっぱり…、夏ちゃんの気持ちを伝えるしかないと思う。」
「でも…、その方法がなくて…。」
「大丈夫、方法はある。立場上、夏ちゃんの応援は出来ないけど、私が二人で話が出来るようにしてあげる。」
「えっ!」
「私にまかせて!その代わり、今日で気持ちに整理をつけるって約束してね。」
そう言って、秋姉ちゃんは私に笑いかけた。
その笑顔は、どことなく冬樹に似ていた。
「分かった。約束する。」
「よし!じゃあ、おばさんの手伝いに行こう!私、おばさんに、夏ちゃんを呼んで来るように言われたんだった。」
私は、『私のもう一人のお姉ちゃん』の背中に、「ありがとう」と呟いた。
聞こえないように、小さな声で。