二十歳の冬 〜私の部屋〜
冬樹と喧嘩した翌日、私は学校をさぼった。
冬樹のことよりも、詩織のことの方が私を悩ませていた。
昼頃、千絵からメールがきたが、返事は返さなかった。
その日の夕方、詩織が一人で私の家にやって来た。
たまたま家にいたお姉ちゃんが、詩織を私の部屋に通す。
「元気…なの?」
「うん…。」
「学校…、さぼっちゃダメだよ…。」
「心配かけてごめん…。」
「お姉さん…、綺麗な人だね…。」
「会うの…、初めてだっけ?」
「うん…。」
「…。」
「…。」
お互いの出方を伺う会話をした後、沈黙がおとずれる。
「…昨日は…ごめん。詩織の気持ち考えず、無神経なこと言って…。」
「ううん。私の方が酷いこと言った…。ごめんなさい…。」
「…。」
「私にとって、夏海ちゃんと千絵ちゃんは、物凄く大切なの…。私の初めての…親友…だから…。」
「私もだよ…。このまま離れていくのはイヤ…だけど…。」
ぎこちない会話。
しばらくすると、コン、コンと部屋をノックする音。
そして、お姉ちゃんの声が部屋の外から聞こえた。
「夏海ー。もう一人友達が来たよー。」
入って来たのは千絵だった。
「よっ!お二人さん!仲直りは出来たかね?」
おどけてみせる千絵。
事情を知った上で、何とか、場を和ませようとする千絵が何だか可笑しかった。
「ちょっとー、何笑ってるの、夏海!」
つられて詩織も笑い出す。
「詩織も笑ってるー!何なのよー、あんた達は!」
千絵と詩織は失わずに済みそうで、ホッとした。
「それにしても、夏海のお姉さんも綺麗な人だよね。」
「私もそう思った!」
「初めて夏海を見た時もそうだったけど、私が男なら、間違いなく惚れちゃうね。」
「何よ、それ!でも、性格にやや難有りだから、惚れたら苦労するよ!」
今まで通り、三人で笑い合うことが出来た。
千絵と詩織の優しさに、涙が出そうになった。
その日、千絵は、詩織の様子がおかしいことに気付き、何があったか聞き出したらしい。
詩織がどこまで話したか分からないが、私と喧嘩したことは話したようだった。
千絵は、学校に来なかった私のお見舞いにかこつけ、詩織と私を仲直りさせようと画策する。
詩織は、先に私と二人で話しがしたいと言い出す。
千絵は時間をずらして、私の家に来る。
これが、時間差で二人が家に来た真相。
詩織と喧嘩した後、冬樹に絶縁宣言したことは、二人には話さなかった。
この年は、本当に色々なことがあった。
冬樹に偶然再会し、『大事な友達』に戻ることが出来た。
それなのに、また冬樹から離れることになってしまった。
新たな年が来てすぐ、成人式があった。
色艶やかな振袖や、格好いいスーツに身を包んだ旧友に再会した。
みんな少しずつ大人になっていた。
成人式には、冬樹も来ていたが、私達は会話を交わすどころか、視線を合わすことさえしなかった。
まるで、私が冬樹を意識し始めたころに戻ったみたいに…。
外見だけ大人になっても、内面は中学生のままだった。
そんな自分に、思わず苦笑いした。
一度、狂ってしまった歯車は、元に戻らず時間だけが過ぎて行く。
詩織は、失恋の痛手から立ち直り、元に戻っていく。
前よりも、更に明るくなったと言うほうが、正しいかも知れない。
詩織には、彼氏も出来た。
千絵と康太君は、私達が大学四年の夏前に、別れてしまった。
お互いの就職活動の忙しさによるすれ違いが原因らしい。
さすがの千絵も、最初は落ち込んでいたが、直ぐに立ち直り、次の恋を探していた。
私は、相変わらず冬樹を引きずっていた。
今回は、『後悔』の二文字も加えて…。
『失恋は女の子を強くする(by詩織)』
『前の恋を忘れるには、新しい恋が一番(by千絵)』
そうして私達は、大学を卒業した。
それぞれの心に、恋の傷跡を残して…。
今回で、第二部「大学生編」完結です。
話は小説冒頭の時間に戻り、まだまだ続きます。
第三部で完結予定です。