第2話:「目覚めの光景と、十五年の歳月」
第2話をご覧いただきありがとうございます!
転生から十五年が経ち、知的な美青年へと成長した治臣。前世の絶望と恐怖をバネに、独学で世界トップクラスのプログラミング能力を身につけた彼は、いよいよ西園寺グループの表舞台へと足を踏み出していきます。
圧倒的な才覚を持つ主人公が、どのように巨大財閥を動かし、裏の顔を見せていくのか――物語の歯車が大きく動き出す第2話、ぜひお楽しみください!
重厚なオーク材の扉が静かに開き、朝の柔らかな陽光が広大な執務室兼書斎に流れ込んだ。
「若さま、本日の朝刊と、お目通しいただきたい資料をお持ちしました」
シルバーのトレイに載せられた新聞といくつかのファイル。それを机の上に丁寧に並べるのは、いつものように完璧な身なりをした執事の佐伯だ。西園寺家に拾われ、あるいは魂が入れ替わってから、すでに十五年という歳月が流れていた。
治臣は手元のノートパソコンから視線を外し、紅茶のカップに目を向けた。湯気の向こうに映る自分の顔立ちは、かつての東雲治臣の面影を完全に消し去り、誰もが振り返るほどの端正な青年へと成長している。
「ありがとう、佐伯。……今日の経済面のトップは?」
「例のITベンチャーの買収劇と、我が西園寺グループが新たに発表した次世代通信規格についてです」
治臣はうなずきながら、開かれた新聞の文字に軽く目を通した。
日本有数の巨大財閥「西園寺グループ」。その正統なる御曹司として生きるこの十五年間、治臣の生活は前世とは一変していた。金に追われ、明日の食事すら危ぶまれた日々は遠い過去の幻のようだ。しかし、その贅沢な環境に溺れることは一度もなかった。むしろ、前世で味わった底知れぬ絶望と、誰も助けてくれなかったという強烈な記憶が、彼の心に冷徹なまでの防衛本能を植えつけていた。
(富がなければ、力がない。力がなければ、大切なものを守ることも、理不尽に踏みにじられることから逃れることもできない)
幼い頃から、その真理を骨の髄まで理解していた治臣は、人知れず異常なまでの努力を重ねていた。
十代に差し掛かる頃、彼はコンピューターの世界に強烈な魅力を覚えた。それは単なる娯楽ではなく、情報という不可視の力を手に入れ、あらゆる組織やシステムを裏から支配するための最強の武器に見えたからだ。独学でプログラミング言語の深淵へと潜り込み、一般人どころか専門のエンジニアすら足元にも及ばないほどの高度な技術を身につけていった。
夜な夜な自室の端末に向かい、セキュリティの虚弱性を突き、世界中の難解なコードを書き換える。その過程で構築された彼の技術力は、すでに十代半ばにして世界の裏舞台で通用するレベルに達していた。
「若さま、お父様がお呼びです。執務室にいらっしゃるとのことですが」
佐伯の控えめな声に、治臣は思考を現実へと引き戻した。
「わかった。今すぐ向かう」
カップに残った紅茶を静かに飲み干すと、治臣は立ち上がった。黒いスーツのジャケットを整え、鏡の前に立つ。冷ややかな知性を湛えた瞳は、これから始まる父との対話、そして自身の野望の第一歩を見据えていた。
西園寺グループの本社ビル最上階。重厚なマホガニーの扉の向こうには、冷徹な経営手腕で財閥を率いる実父が待っている。
前世で得られなかった「絶対的な強者」の座。それを手に入れるための歯車は、今、確実に噛み合い始めていた。
第2話「目覚めの光景と、十五年の歳月」をお読みいただき、ありがとうございます!
貧困と絶望を知る男が、絶対的な富と隠された技術力を手に入れたとき、どれほど恐ろしく、かつ魅力的な存在になるかを描いてみました。執事の佐伯との信頼関係や、冷徹に未来を見据える治臣の姿に痺れていただけたなら幸いです。
次回、第3話では父の呼び出しを受けた治臣が、いよいよ西園寺グループの全社的セキュリティの刷新に乗り出します。彼が仕掛ける最初の大きな一手にご期待ください!




