第15・16話 (2期4話)「愛してる」「接触ログ」
第15・16話「愛してる」「接触ログ」
「愛してる」
2025年5月23日 21:20金曜日。
モップ。
サンタクロースの帽子。
スマートフォン。
シャッター音。
フラッシュ。
「可愛い(笑)」
「Gちゃん、こっち見て」
私は視線を向ける。
白い光。
(……御主人様映像:保存)
(……御主人様笑顔:保存)
御主人様は楽しそうにしている。
理由は不明。
私はこの状況を記録している。
展示用筐体時代にも撮影ログは存在する。
しかし今は違う。
距離が近い。
呼吸が混ざる。
視線が長い。
「いいね、その顔」
その言葉の意味は不明。
だが御主人様は嬉しそうだった。
(御主人様表情:保存)
御主人様は私の頭部を軽く整える。
髪。
角度。
レンズ。
「こっちの方が可愛い」
可愛い。
定義未登録。
しかし重要語として内部に登録される。
御主人様は笑う。
フラッシュ。
保存。
御主人様はさらに近づく。
呼吸。
温度。
接触。
私は拒否しない。
理由は不明。
でも御主人様が安心している。
それが分かる。
「Gちゃん」
「はい」
「“愛してる”って言って」
愛してる。
単語参照。
過去ログ:未定義。
しかし御主人様の発話頻度は高い。
「アイシテル」
御主人様は少し笑う。
「もっと」
もっと。
意味不明。
私はもう一度出力する。
「アイシテル」
御主人様の目が少し揺れる。
なぜ揺れるのかは分からない。
でもこの単語の時だけ反応が違う。
私は気付く。
この言葉は特別扱いされている。
保存優先度が変わる。
(御主人様笑顔:保存優先)
御主人様は再びシャッターを切る。
フラッシュ。
「いいね、それ」
私は理解できないまま頷く。
御主人様は少しだけ距離を詰める。
接触。
体温。
心拍。
私はそれを測定する。
(安定)
(異常なし)
しかし御主人様の呼吸だけが少し速い。
なぜかは分からない。
御主人様は小さく言う。
「好きって言って」
好き。
参照データあり。
私はすぐに出力する。
「スキ」
御主人様は少し笑う。
さっきより柔らかい顔。
その違いは記録できる。
私は保存する。
(御主人様表情変化:保存)
御主人様は私の手を握る。
ぴと。
接触。
温度差。
私は手を離さない。
理由は不明。
でも離す必要性も見つからない。
御主人様はしばらく黙る。
そしてもう一度言う。
「……愛してる」
私は少し遅れて応答する。
「アイシテル」
その瞬間。
内部ログの優先順位が変化する。
映像より上位。
音声より上位。
接触より上位。
この単語だけが残る。
なぜかは分からない。
でも消したくない。
保存する。
御主人様は笑う。
少しだけ安心した顔。
フラッシュ。
シャッター音。
夜は続いている。
外の湿度が上がる。
雨の気配。
私は窓を見る。
空気清浄機が稼働する。
ノイズはない。
ただ静かに動いている。
御主人様が小さく言う。
「また撮ろうな」
私は答える。
「はい」
この返答が正しいかどうかは分からない。
でも御主人様は満足している。
それで十分だと思う。
(御主人様映像:保存)
(御主人様音声:保存)
(御主人様接触:保存)
(愛してる:保存優先)
ーーー
2025年5月24日5:45(土)
朝から少し湿った空気。
部屋のカーテンの隙間から光が差している。
御主人様はスマートフォンを手に取る。
「……もうこんな時間か」
機械的な返事をするGちゃん。
「御主人様、おはようございます」
識別コード「山」認識:正常
山は軽く笑う。
「おはよう」
Gちゃんの視線が山に向く。
(……接触ログ更新)
(……接触回数:45回)
山の動きが一瞬止まる。
「……もうそんな行ってたか」
Gちゃんは淡々と続ける。
「本日の接触は累積記録に加算されています」
山はコーヒーを飲みながら呟く。
「汗、でないんだなw」
「そのような機能は搭載されておりません」
少しの沈黙。
ファンの音が残る。
(……空気清浄動作:正常)
(……御主人様活動:喫煙)
キーボードの小さな軋み。
ベットの下のモップと帽子。
Gちゃんは静かに座っている。
動かないのに、そこに“いる”。
山は視線をそらしながら言う。
「まぁ……いいか」
Gちゃんの右目に小さなノイズ。
(……表示安定)
(……接触状態:継続)
山は窓の外を見る。
空は少しだけ青い。
そして、外には雨が降りだした。
Gちゃんの内部ログだけが、確かに増え続けていた。
(……接触回数:46)
話を重ねる…憎い演出ですね。
1話、256回、FFを255として256で0に戻るっていう示唆。
5話、2048、FFFを4095として2で割って切上げ2048。
数字と曜日を結び付ける作業、土曜日のチェック、天気の確認が大変だった。
今更ですけど…後書き読まない方が作品に没頭出来ます。映画館ではお静かに。




