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第3話 後悔せずとも自責する

 あの後、俺の予測通り、夕方頃には街に到着する。

 そして、女の子にギルドまでの道を教え、そこで別れた。

 女の子は俺にもギルドまで着いてきて欲しそうにしていたが、それは丁重にお断りした。理由は、俺が女の子を連れてきたという事実を、少しでもハンター達から隠すため。

 何故、隠すか? それは、女の子と俺が知り合いだと思われたくないから。もし、俺が女の子と知り合いだとバレたら「知り合いなら受けてやればいいのに。薄情者」と悪印象を与えることになる。悪印象は悪評に繋がりやすい。却下だ!

 だが、これを正直に話す訳にもいかないので、


「俺が一緒に居る所を見られれば、俺と一緒に仕事をすると勘違いする輩が出てくる。俺と一緒ということは、俺と報酬を分ける、てことだ。それを嫌がる奴は多い。そうすると、さらに、依頼を受ける人が居なくなるぞ」


 と、それらしい文言を並べて説得した。

 さらに、「先に村に行って、少しの間でも村人を守って欲しい」と言われるのを防ぐため、


「村に戻る際は、しっかりと討伐メンバーを全員、連れて戻るんだ。村を出入りする人が増えれば、その分、キラーピッグに勘づかれる可能性も上がるからな」


 俺が村に入ることで、キラーピッグが村の存在に気付くかも、と仄めかし、釘を刺しておいた。

 とりあえず、本当は三日かかる道を一日で連れてってやったんだ。

 これで、彼女から逆恨みされることも無いだろう。




 てな訳で、できるだけ懸念事項を減らした俺は、今、『白雲山脈』という所に居る。


 この山には、沢山の白い葉をつける樹木が並んでいる。

 それにより、山に白い雲がかかってるように見えることから、白雲山脈という名が付かられたのだとか。


 この山こそ、俺が目指した狩場。

 ここに生息する()()()()()がレベル上げに最適なのだ。


 名を『メタルスライム』。

 赤く発光する宝玉のような核を、水銀のようなボディで包んだ生物だ。

 この山脈は、このメタルスライムが際限なく発生する。


 魔獣の中でも “スライム系” は、倒すのが難しい代わりに、他の魔獣よりも多くの魔素を取り込んでいる。

 それ故、倒せる者からすれば美味しい魔獣だ。

 とりわけ、メタルスライムは他のスライムよりも沢山の魔素を取り込んでおり、レベル上げ効率が良い。

 さらに、その体を上手く保管して持ち帰れば、鍛冶屋に依頼して『ミスリル』という希少金属(レアメタル)にできるため、倒すことができれば、人生一発逆転も夢じゃない魔獣だ。


 ───そう、倒せれば。


 メタルスライムは半径二メートル以内に他生物が現れると硬化する特性がある。

 この硬化が厄介で、ダイヤモンドですら、硬化したメタルスライムの体には傷を付けられない。

 つまり、近距離戦闘を得意とする者にとっての天敵なのだ。

 さらには、スライム系全般の特性として、エネルギー耐性が非常に高い。()()が効きにくいのだ。

 弓や銃などの遠距離武器も駄目。水銀のような体であるため、核に届く前に失速、核に攻撃を届かせることすらできない。


 倒し方はシンプル。めちゃくちゃ肉体を鍛えた後、ダイヤモンドよりもさらに硬い金属で造られた武器で攻撃する。これだけ。


 だが、メタルスライムを倒せるほどの高レベルならば、メタルスライムを倒した程度では大してレベルを上げられず、また、メタルスライムを倒せるほどの実力があれば、メタルスライムよりも高価で希少価値のある物を手に入れられるため、メタルスライムを狙う理由が無い。


 まぁ、他にも理由はあるんだが………とにかく、この白雲山脈には、ほとんど人が立ち寄らないということだ。

 つまり、ここに居るメタルスライムをどれだけ倒そうが、誰にも迷惑をかけないということ。

 ()り放題だぜ! ヒャッホー!


 俺みたいなEランクのハンターがどうやってメタルスライムを狩るか。

 そりゃ勿論、魂力を込めた武器を使ってヨォ!


 メタルキラー。その名の通り、金属を斬るための剣。

 この剣を使えば、あらゆる金属を豆腐のように斬ることができる。

 まだ魔力が通った金属『ミスリル』や『アダンマンタイト』では試してないから、そこら辺を斬れるかは微妙だけど………まぁ、大丈夫だろ。

 駄目だったら他の狩場へ行こ。美味い狩場はここだけじゃないしね。




 さて、早速、狩りの準備だ。


 俺はメタルスライムの近くまで移動し、()を設置する。

 丁度、メタルスライム一匹が収まる程度の容器を起き、その中に小さな鉄の塊を入れるのだ。


 メタルスライムは鉱物を食す。

 食事しないでも生きられるクセに、何故か、鉱物を見つけると飛び付いてくるんだよな。

 おまけに、鉱物を食してる間は襲ってこないという。

 どんだけ鉱物が好きなんだよ。


 俺は容器から少し離れた岩場で罠を見張る。

 すると、早速、鉱物に釣られて、メタルスライムが寄ってきた。

 一匹が容器の中に入る。


 楽勝!


 俺は、岩場から出て、他のメタルスライムに見つからないよう、さっさと容器を持ち、また岩場に戻る。

 そして、メタルキラーを取り出した。


 メタルスライムは他の生物が近寄ると硬化する。

 今もカチコチだ。

 他のスライムだと、攻撃が体の中を通る代わりに、核が移動して、当てるのが難しい。

 だが、メタルスライムに限っては、そんなこと、心配しなくていい。


 ただ、核、目掛けて、メタルキラーの切っ先を落とすだけ!


 まるで空気を裂くみたいに、簡単にメタルスライムの体が斬られる。いや、体どころか───核ですら、真っ二つになっていた。

 魔力が通った金属でも効果抜群!

 核を斬られたことで、メタルスライムの体が萎んでいく。


 メタルスライムは、寿命で死ぬと、体がすぐに崩壊するが、核をやられたことによる絶命では、少しの間、体が崩れずに残るのだ。

 これは後で精錬してミスリルにするので、“保管” の効果が付与してある容器に移してっと……………ん?


「「………」」


 俺の近くで、ふよふよと動くメタルスライムと目が合った。

 え、なんで? ちゃんと周りを確認したのに……あ、俺と一緒で岩場に隠れてた?

 それよりヤバい。メタルスライムは、外敵を見つけたら、勢いよく飛んでくる性質が───


「───うびょい!!?」


 プロ野球選手の投球並に早い鉄球(メタルスライム)を、なんとか、思いっきり背中を仰け反らせて回避!

 あ、あぶねェーーー!!!!

 俺は、メタルキラーを持ち、バッグを背負って、すぐにその場から離れた。


※この後、メタルスライムが居なくなってから、きちんと、その他の荷物も回収しました。



   □□□



 俺は二週間ぶりに街へと戻ってきていた。

 行きで六日、白雲山脈で三日滞在、帰りに五日使った形だ。

 メタルスライムのレベル上げの効果はまだ確認できてない。というのも、魔素を吸収しても、すぐに肉体が強くなる訳じゃない。時間をかけて、取り込んだ魔素が、肉体を変容させていくのだ。

 しかも、今回、俺が取り込んだ魔素量は、俺のレベルにしては過剰と言えるほどの量。変容にも時間がかかる。

 とはいえ、五日も経ったんだ。流石に変容も終わってると思うけどね。早い人だと、どんなに魔素を取り込んでも、一日寝るだけで変容を終えるんだとか(先輩ハンター談)。

 多分、今の俺は、Cランクのハンターと同等レベルの肉体は持ってると思うんだけど………ゲームとレベル上げの速度が一緒かどうかはまだ分かってないから、なんとも言えない。


 とはいえ、初めての遠征、無事に帰還!

 達成感パねェ!

 ミスリルを作るため、メタルスライムの体もいくつか回収できたし。

 いや〜、これで何作ろうかな〜?

 前よりも装備が良くなることは間違いなし!

 しかも、素材が良い=耐久性が高いことから、よりハイレベルなエネルギー運用が可能! つまりはッ、組み込める能力の数が増える!

 夢が広がるなァ〜。

 人目が無ければスキップしてた所だ。


 俺のハイテンションと対比するように、天気は生憎の曇り模様。

 なんでだよ! お天道様も俺の快挙をお祝いしてくれたってい〜んだぜ〜?


「………」


 色々と予定通り進んでることで、少しテンションがおかしくなってんな。

 まぁいいや。どうせ、咎める人なんていないし。


 俺は鼻歌を口ずさみながら街路を進む。




 そんな俺の耳に()()()()()()が届いてきた。




 とある建物と建物の間、路地裏から聞こえてきた声。

 何も考えずに俺はそちらに視線を向けていた。

 好奇心とか興味とか、そんな感情が挟む余地も無い。ただ声が聞こえたから反射的に振り向いただけ。


 だけど、そんな考えなしの行動を反省することになる。


「───え」


 ()()()()()()()()()と思っていた………いや、そもそも、もう頭の片隅にすら残ってなかった存在を目にして、思わず、声が漏れてしまった。


 ───しまった!


 俺はすぐに両手で口を覆う。

 しかし、時すでに遅く。


 両腕を組み、腰を下ろして、顔を腕に押し付けていた()()が、俺の声に反応して顔を上げた。


 やっぱり、俺が街まで連れてきた女の子だ。

 村の近くにキラーピッグが現れた、と訴えていた女の子だ。

 何故、まだここに居る?


「………」


 俺は目を瞑り、顔を空に向け、思考する。

 ここで無視するのは……無いよなァ。

 第三者視点で考える。泣いてる知り合いの女の子を放置するハンター。もし、ここを見られてたら、どう考えても噂が立つよなァ。ガッツリ立ち止まっちゃったし……見られてる可能性が高い。


 危険度の高い魔獣の群れ討伐を依頼しに来た女の子が二週間も街に滞在していて、しかも泣いている。面倒事の臭いがプンプンする。

 でも、もう反応しちゃったしなァ。


「……」


 仕方ない。やれるだけのことはやろう。

 疑問は解消しておきたいし。


「………おにぃちゃん?」


 女の子が震えた声で呟く。


 別に、俺が彼女の実兄という訳ではない。

 単純に、俺が名乗ってないのと、俺の方が年上に見えるから、女の子は俺のことを「ハンターのお兄ちゃん」と呼ぶようになっただけ。


「あ〜えっとォ……久しぶりだね? なんでまだ街に? キラーピッグはどうなったの?」


「───!!」


 自分で「ぎこちない笑顔になってるだろうな」と自覚しながら、できるだけ優しく女の子に話しかける。

 すると、一度は、俺との再開で引っ込みそうになった女の子の涙が、またしても溢れそうになった。






 俺は女の子から事情を聞いた。


「まさか、そんな偶然が……?」


 女の子から聞かされた内容は不自然そのもので、俺は驚愕を隠せなかった。


 なんでも、女の子曰く、俺が依頼を勧めた三者『金翼』『狂犬』『領主』どなたも対応に当たってくれなかったとのこと。

 まず、『金翼』と『狂犬』は別の依頼を受けて遠征中。頼む以前の問題で。

 領主の騎士団は、別の村でも魔獣の群れが発見されたらしく、すでにそちらの解決に向かっているそうで、その村の問題が解決でき次第、女の子の村の件に当たる、ということだった。


 他のハンターも、すでに別の依頼を受けてこの街に居ないか、報酬面を見て受けるのを渋り、誰も助けてくれなかったとのこと。


 マジか………ありえるか? こんなこと。


 いくらなんでも偶然が重なり過ぎだろ。

 ゲームのシナリオであったっけ? 『キラーピッグの群れ襲撃』のシナリオなんて。

 いや、ここはゲームに似た世界ではあっても、現実世界に変わりはないんだ。ゲームで語られなかった事件が起きても不思議ではない。ましてや、今はシナリオ開始前だしな。


 とはいえ……作為的なものを感じる。

 きな臭いなァ。

 この街をしばらく拠点にしようと思ってたけど、考え直した方が良いかも。


 ……………っと、いかんいかん。

 今後の計画は後で立てればいい。

 今は目の前の面倒事だ。


「……とりあえず、ここでハンターを雇えなかったのは分かった。でも、なんでそんな悲観してんだ? 他の村人が別の都市でハンターを雇ったかもしれないだろ? 一度、戻ろうとは思わなかったのか?」


「私達の村から行ける都市はここだけで、皆、村を出た場所は違うけど、最後にはここに来る予定だったの。でも……ここに来た人は居ないくて………多分、もう、他の皆は……。それに、お兄ちゃんが、キラーピッグにバレないように、戻るなら、助けてくれる人を連れて、て」


「あ〜」


 そういや言ったわ、そんなこと。

 俺は後頭部を掻いて気まずさを誤魔化す。


 女の子の話を整理すると、村人の目的地はこの都市だけ。つまり、他の村人がここに来てない時点で、救援要請をするために出た村人は、この女の子を除いて、全滅した、と。

 村を助けてくれるハンターや騎士団が来てくれた確率は限りなく低い訳ね。戻って確かめるまでもないな、そりゃ。


 さて、どうするか?


「………」


 キラーピッグの群れ、かァ。

 正直に言って、これほど()()()()相手もいない。


 実力の把握は、強くなる上で、しなくてはならないことだ。

 明日になったら、適当な魔獣を相手にして、今の俺の肉体強度を試す予定だった。

 でも、その相手をどうするか、俺は迷っていた。


 魔獣を相手にするんだ。どんな時だって命の危険がある。故に、防具は外せない。

 でも、そうなると、防具による強化もあって、街近辺にいる低ランクの魔獣じゃ、弱すぎて実力を試せない。

 かといって、遠出して、高ランクの魔獣と戦おうにもなァ。

 どんな魔獣と遭遇するか分からない上、運悪くAランクの魔獣なんかと遭遇したら笑えない。つうか死ぬ!


 その点、キラーピッグの群れは最適だ。

 一度、戦闘をして、どんな生物か分かってるし。

 Cランクの群れは危険度Bランクに分類される。実力を試すにも最適。

 しかも、俺に手が負えなかったとしても、一体一体はCランク程度だから、逃げる算段が立てやすい。

 どこに居るか分かってるから、やぶ蛇をつつく心配も無い。

 Cランクの群れ、実力を試すには持ってこいだ。


 正直、今の俺の実力を試すのに、これ以上の相手はいるだろうか?


 ……………。


「なぁ、キラーピッグ討伐の依頼、俺が受けようか?」


「………………え?」


 俺がそう提案すると、一瞬、女の子の動きが止まり、その後、彼女から呆けた声が出る。

 余っ程、予想外の言葉だったのだろう。


「で、でも! お兄ちゃん、実力が足りないって……」


「あぁ、二週間前はそうだった。だが、今は違う。この二週間、どこに行ってたと思う? 一部のハンターしか知らない “魔素狩り場” に行ってたんだ。俺はそこで大量の魔素を得て、強くなった。きっと、今の俺なら、キラーピッグの群れだって倒せる」


「───」


 俺の話を聴いても、女の子は「信じられない」と言うように口を開け、止まっている。

 まぁ、急激に強くなるなんて話、ゲーム世界であるここでも、そうそう聞かないもんな。信じられなくても無理は無い。


 だが───


「二週間経った今、正直、村が助かるかは半々だ。すでに村がキラーピッグに見つかり、壊滅してる可能性もある。それは否定できない。だけど、二週間なら、まだ助かる可能性があるんだッ。まだ村が見つかってない可能性があるんだ!」


「───!」


 正直、無駄足になる可能性は全然ある。

 でも、まだ群れが居てくれる幸運(ラッキー)があるかもしれない。

 そしたら、他の魔獣を相手するよりも危険は少なく、比較的楽に名声だって得られる。


 そんな打算で、女の子に「俺を雇うべきだ」と熱弁した。


 俺が熱弁すると、女の子の瞳に光が宿る。


「どうする? 俺の言葉が信じられないって言うなら断ってくれて構わない。もう村は助からないと思って、ここで蹲っとく、て言うなら、俺からはもう何も無い。でも、もし、俺の話を信じる、て言うなら───まだ村が助かるかもしれない、そう思うなら───」


 俺は女の子に手を伸ばした。


「俺がお前の依頼を受けてやる。まだキラーピッグが村の近くに居るなら、俺が全部、ぶっ倒してやるよ」


 女の子が俺の目をジッと見つめる。

 それは、俺を見定める目だ。

 幼いなりに、俺が嘘をついてないか確かめているのだろう。


 でも、少しすると、女の子は唾を飲み込み、意を決したように───俺の手を取った。



   □□□



 俺は脚部防具の力を起動させ、村への道を走っていた。

 当然、村出身の女の子も一緒だ。背中におぶってる。

 今の俺は “素” でCランクハンターほどの実力があると自負してる(まだ試せてはないけど)。そこに防具の身体強化が加われば、軽くBランクを凌駕する。

 以前は一日かかった道のりも、半日もかからない。


 素早く動いてるせいで目まぐるしく景色が変わる。

 それでも、動体視力も強化されてるため、高速移動しながらも、道に何が落ちてるかまでハッキリ確認できる。


 もう後、数分で村に辿り着く。


 村に近付くにつれ、道に()がチラホラ倒れてるのを確認できた。

 そのどれもが損傷し、ピクリとも動かない。

 これが意味する所は、つまり───


「………」


 俺は最悪な想像を頭に(よぎ)らせながらも、村まで急いだ。






「「……………」」






 村に到着する頃には、雨が降り始めた。

 村に到着してから既に数分は経ってるのに、俺達は村の入口から動けないでいる。


 ───村は()()していた。


 建物は穴だらけで、一部の物は倒壊しており、道や畑は踏み荒らされてる。そして、そんな村のいたる所に倒れる村人()()()()()

 それらはどれも酷い損傷具合で、言葉で表現するのは差し控えたいほどだ。


「………」


 改めて、俺が村の様子を確認してると、隣に立っていた女の子が膝から崩れ落ちる。まるで、急に力を奪われたみたいな崩れ方。

 女の子は腰を下ろした状態で、呆然と壊滅した村を見つめていた。


 無駄足かー、残念。

 現実、そう甘かねぇか。


 と、いかんいかん。

 露骨にガッカリしてると、変に勘繰られる。

 一応、村を助けに来たハンターとして、生存者が居ないか確認でもしとくか。


 俺は生き残った村人やキラーピッグが居ないか確認するため、軽く村を歩いて回る。

 ………酷いな、こりゃ。

 キラーピッグが人を襲うのは、魔獣としての(さが)もあるが、基本は “食す” ためだ。

 キラーピッグは大食い。人を見つければ、まず間違いなく食べるか、保存食にされる。

 だというのに……村人の死体の中には、明らかに食べられて付いた跡とは別の痕跡があった。

 遊び殺された………つまり、飢えてはないということか。

 群れの目的が分からんな。というか、よくよく考えたら、キラーピッグって群れる魔獣か?


 ───上位個体の発生。


「………」


 考えたくねぇな。

 やっぱ、ここを離れるのが正解かもな。

 こんなにも食料(したい)が残ってるのに、キラーピッグが一匹も残ってないってことは、統率が取れてるということ。

 上位個体が発生し、ソイツが指揮を取ってるのだとすれば、なんらおかしいことは無い。

 すると……群れの危険度は一気にAまで跳ね上がるぞ。幾つかの都市が壊滅する危機だ。

 次点で、魔道具で扇動、なんてのも考えられるけど……まぁ原因究明する必要は無いか。


 街や村の問題を解決するのは領主の仕事だ。

 これ以上は一ハンターが出しゃばるべきじゃない。




 俺は生き残った村人やキラーピッグが居ないことを確認して、村の入口に戻る。


 そして、正面から、女の子の様子を確認した。


「───ッッッ」


 でも、俺は、すぐに女の子から視線を逸らす。


「……」


 なんだ? なんだ?? なんだ???


 生まれ故郷が壊滅したのだ。

 てっきり、泣き喚いたり、俺に八つ当たりでもしてくるかと思っていた。


 でも、女の子は、ただ呆然と村を眺めるのみ。


 雨のせいで、涙を流してるかは分からない。

 でも、彼女の顔はしっかりと視認できた。


 感情の抜け落ちた顔。

 でも、それ以上に気になったのが彼女の “瞳” だ。

 漆黒───そう表現するのが正しいだろう。

 底が見えない穴を覗き込んだみたいな、そんな果てしなく続く黒色。

 本来、瞳に反射される筈の光が、今は全く見えなかった。


 変な汗がどんどんと溢れ出てくる。

 俺は自分でも分かるくらい動揺していた。

 心臓の鼓動がうるさい。


 なんだ、あの顔は?

 俺の選択のせいで、あんな顔をさせたのか?


 どうすればいい?

 この場合、どう声をかければいい?


 俺は、ここからどう行動するのが正解だ?


「……………ッ」


 俺は女の子に背を向ける。


「森の中も見てくる」


 そう言って、俺は逃げるように村から森に入った。






 森の中で、村人だと思われる死体をいくつも発見する。


「………チッ」


 俺は死体を発見する度、小さく舌打ちをしていた。


 まさか、他人のことで、心がこんなに揺さぶられるとは思ってもみなかった。


 何度考えても、俺にできることは無かった、という結論に辿り着く。

 初めて女の子と出会った時の俺の実力じゃ、キラーピッグの群れとの対決は無理。

 俺は、あの時にうてる最善の手を取れたと自負している。


 でも………あの女の子の顔が思い浮かぶ度、もっと良い手はなかったのか? 本当にキラーピッグの群れには敵わなかったのか? そんな無駄な思考が頭を過る。嫌な堂々巡りだ。


 もし、女の子が、俺の予想通り、村人の死に泣いたり、怒ったりすれば、ここまで心を掻き乱されることは無かっただろう。

 でも、あんな顔をされるとは………。


 あの女の子の顔を見た時、俺が感じたのは “焦燥” だ。

 取り返しのつかない事態を引き起こした、この世に産んではならないものを誕生させてしまった、そんな説明不可能な不安。


 もし、生きた村人でも見つけられれば、あの女の子の顔も和らぐかと思って探しに来たのだけど、結果は空振り。


「はぁ………」


 これからどうする?


 本来なら、キラーピッグを討伐して、さよならをする予定だった。

 ただの一期一会。大してよく知らない女の子。深入りする必要もない相手だと、そう考えていた。


 でも、今は、女の子のあの顔が頭から離れない。

 どうしても、このまま別れてはいけない、と本能が警告してくる。

 あの女の子をこのまま放置すれば、いずれ取り返しのつかない事態を引き起こす。俺を殺すために超一流の殺し屋(アサシン)になるかもしれない。うまく貴族に取り入り、そこで持った権力を用いて俺を追い詰めるかもしれない。とんでもなく扇動が上手で、世界的犯罪組織を作り上げるかも。───そんな、自分でもありえないと分かっている妄想が、次々と湧き上がってくる。

 こんなことは初めてだ。


「クソッ」


 こんな妄想を永遠と繰り返しながら、これから生きていくのか?

 時間が経てば、少しは収まるのか?

 ふざけんなよッ。“死の恐怖” から逃れるために頑張ってるのに、こんな漠然とした恐怖を胸に残しながら、これから生きていかないといけないのか? ───マジでふざけんなよ!

 これを抱えていくなんて………俺にはこれ “も” 無理だ。


「仕方ない」


 俺は意を決して、村へと戻るのだった。

裏話


メタルスライムが大量発生する理由は、この山脈のどこかにある長い洞窟、その奥地に置かれている鍋です。

この鍋は、昔、この山脈を住処にしていた『ゴブリン』と呼ばれる “亜人族” が作った物です。


↓以下、ゴブリンの説明

平均身長百三十センチほど、人と同じ二手二足で生活する亜人。緑色の体皮と長い鼻、発達した下顎の犬種が特徴で、基本、群れで行動する。一個体の強さはそこまで高くないが、知能はそこそこあるため、武器を使ったり、戦術を考えたりなど、群れと戦う場合は苦戦を強いられる。また、繁殖率も高く、遺伝子もほとんどの種族より優性であるため、数が増えやすい。


白雲山脈に生息していたゴブリンは、部族がさらなる発展を遂げるため、強い武器を欲しがりました。そこで、ゴブリンの中でも特殊な術を使えるようになった個体・ゴブリンシャーマンが、鍋を使って実験を始めたのが事の始まりです。

シャーマンが欲しがったのは『ミスリル』でした。白雲山脈を住処にする部族には鍛冶に精通するゴブリンも居たため、メタルスライムの体さえあればミスリルを作れる、と考えたシャーマンは、無限にメタルスライムを生み出す機構を鍋に組み込みました。

大気中の “魔素” を自動で吸収し、変換することで、エネルギーを常に供給し、そのエネルギーを利用して、土に含まれる金属原子を抽出、メタルスライムの体と核に変換する───自動メタルスライム製造鍋を作ろうとしたのです。


結果として、長い年月をかけることで、製造鍋の製作は成功しました。しかし、生成したメタルスライムを倒す方法をゴブリン達は持っていなかったのです。うっかりですね。

さらに、運が悪いことに、膨大なエネルギーを常に運用していた弊害で、鍋がシャーマンの支配下から外れ、暴走。

常時、メタルスライムが鍋から生まれるようになってしまったのです。


最終的に、増え過ぎてしまったメタルスライムに敗れ、ゴブリン達はこの山脈を放棄せざる得なくなってしまいました。

元々、大量にゴブリンが住み着いていた関係で、人間達は白雲山脈を立ち入り禁止区域に指定しており、ゴブリン撤退後も、メタルスライムが大量に生息していた関係から、立ち入り禁止は解いたものの、今後も放置することに。

最終的に、大量のメタルスライムのみが生息する地となってしまったのです。


ちなみに、この鍋で生まれたメタルスライムは一年で命を落とします。寿命が短いのは人口生物の性ですね。

落命したメタルスライムの体は、原子間の結合が保てなくなり、すぐに崩壊して、地面に吸収されていきます。

その性質のおかげで、白雲山脈のメタルスライムの数は一定数から増えずに保たれているのです。山脈近くの金属原子が枯渇しないのもこれが理由ですね。

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