第2話 初めての旅路
俺が前世の記憶を思い出してから───約九ヶ月後。
あれから、様々な試行錯誤の果て───俺は魂内のエネルギーを操る術を確立し、その技術を使っていくつかの武器の作成に成功していた。
長くつらい生活だった……!
何度も吐くわ、体調は崩すわ、その度に兄達からはゴミを見るような目で見られるわ……散々だった。
それに、せっかく、魂内のエネルギーを操れるようになっても、そのエネルギーを使って、魔術のように様々な現象を起こす方法が分からない。
魂内のエネルギーを自在に操れるようになるだけでもかなりの苦労を要したのに、その問題に直面した時は心が折れかけた。
そんな俺の助けになったのは『前世の知識』だった。
様々な学問の知識に、コンピューターやプログラミングなどの専門知識など。
人類が二千年かけて培ってきた知識が、大いに役に立ってくれた。
そうして苦労の末、俺は、魂内のエネルギーを使い、魔術のように様々な現象を起こす術を確立したのだ。
確立した時、記念として、魂内のエネルギーのことを『魂力』、魂力を使って様々な現象を起こす術のことを『魂術』と命名した。
まぁ、確立したはいいものの、世の中には沢山の現象がある。
それら一つ一つを起こす方法はメモしてあるものの、反射的に起こせるほど体に覚え込ませるにはあまりにも時間が足りない。
そこで、武器の出番だ。
武器に命令式を刻み、魂力を込めることで、俺の代わりに現象を起こしてもらう。
あらかじめ、それなりに長い時間をかけて魂力を武器に溜める必要はあるが……使い勝手がよく、そして、仮にも生命力を消費するということで、強力な武器ができあがった。
いくつかの武器ができあがり、武器を作る中、ハンターとしての活動も行い、お金も溜めてきた。
だから、旅の準備が整ったらすぐに家を出た。
やることが山積みだ。
武器を作るための素材の調達、強い武器の量産、さらには、レベル上げなどなど。
ゲームのシナリオが始まるまでに強くなる必要がある。
ゲームが始まると、危険な魔獣や悪魔、邪神の軍勢などが活発化するからだ。
何があっても自分の身を守れるよう、それまでに強くならないとッ。
この世界には “魔素” と呼ばれる特別なエネルギー粒子が存在するのだが、それを体内に秘めている獣のことを魔獣という。
それらは普通の獣よりも数倍優れた肉体を持っており、凶暴だ。
魔獣は死ぬと周りに “魔素” を撒き散らす。
だが、一度、生物の中に取り込まれた魔素は、空気に晒された瞬間、崩壊を始めてしまう。
それ故、魔素は新しい宿主を求め、近くに居る生物の中に入り込むのだ。
入り込んだ魔素は生物に作用し、新たな宿主の体を魔獣の肉体のように強化する。
とどのつまり、魔獣を討伐して放出される魔素は、ゲームで言うところの “経験値” なのである。
ゲームのように、どれだけ経験値を吸収できたか数字として見ることはできないけど……確実に、レベル上げと同じような強化はできる。
ということで、俺は、まず、戦う肉体を作るべく、レベル上げから行うことにした。
魔獣は、街から近い所に生息する魔獣ほど弱く、遠い場所に住処を作るものほど強くなる傾向がある。
という訳で、戦闘初心者の俺は、街周辺に生息する魔獣を狩ってレベル上げ。
数ヶ月間、それをくり返し───「これなら少し遠い場所にあるレベル上げスポット(効率よく魔素を入手できる場所)に行くことができる!」と自信が付いた所で、俺は旅に出ることにした。
街を出るのはこれが初めてだ。
慎重に進まないとな。
相当な数を狩ったとはいえ、狩ったのは雑魚魔獣ばかり。持っている魔素もたかが知れてる。
まだ俺のレベルは高くない筈だ。他のハンターの肉体に比べたらヒヨっ子もいい所。だから、経路はしっかり選ばないとな。
かなり遠回りをすることになるが、それでも、安全第一。慎重に目的地を目指す。
───そうして、街を出て三日目。
俺は、大分、昔に作られたであろう、整備もされておらず、荒れた道を歩いていた。
辺りは木々に囲まれ、沢山の草花が道に侵入していて歩きづらい。
ここは、森とは言わないまでも、林の中。
魔獣除けがあると言っても、いつ、木の影から魔獣が出てきてもおかしくない。
俺は警戒しながら道を進んでいた。
と、そんな俺の耳に───
「きゃあああああ!!!!」
道の向こうから発せられた悲鳴が届いた。
おそらく女の子。
よりによって、俺の進行先で何かあったのか。
「………」
面倒だな。迂回するか?
いや、もう街から随分と離れてるんだ。道を逸れたら、凶悪な魔獣と遭遇する可能性がある。
魔獣除けの恩恵を自ら捨てるのはバカだ。
仕方ない。
慎重に進んで───
「───!」
前から誰か走ってくる。
悲鳴を上げた人物か?
俺は道の脇に生えてる木の後ろに隠れる。
アイツ……魔獣を連れてるなぁ。いや、追いかけられてる、と言う方が正しいか。
魔獣除けも完璧じゃないからな。一匹、迷い込んだか。
魔獣の身長は低く見積もっても二メートル以上。肌の色は黒く、太っている人間に近い体型。でも、頭は間違いなく豚のそれ。
アレ、『キラーピッグ』か!
「チッ!」
厄介な相手だ。
十メートル以上ある木を簡単に振り回し、大岩程度なら簡単に砕く握力を持ってる。さらには、例え、ここに手榴弾があったとしても、あの分厚い脂肪のせいで、大したダメージを与えられない、という。
馬鹿げた力と耐久力を持つ怪物だ。
わざわざ危険を犯す必要は無いな。
アイツらがここに辿り着く前に、女の子はキラーピッグに追い付かれるだろう。
キラーピッグは人間を掴まえて喰う。
キラーピッグが女の子に夢中になってる間に、キラーピッグの背後から道を抜ければいい。
「………───!」
いや待て。
相手はキラーピッグ一体だ。
あれ、これって……丁度いいのでは?
俺は武器を構える。
武器は金属の小槌だ。トンカチに近い。
武器名『ショックギャブル』。
この武器は、対象に当たった瞬間、強烈な衝撃を生み出し、相手を吹き飛ばす。
ちなみに、この武器を握った瞬間、俺には身体強化のバフがかかり、地球で言う所の一流アスリート並の肉体となる。
また、相手を衝撃で吹き飛ばす瞬間、反対方向にもそれなりの衝撃を生み出すようにしている。
何故、そんな風にしてるかって?
そりゃ、この機能を付けないと自傷するからさ。
最初の試作品では、当てた物に対してのみ、衝撃を与える仕様にしていた。
すると、どうなったか?
『───!??? うにゃ゛ッッッ!!!!』
あまりに衝撃が強すぎて、対象物だけでなく、俺自身も、後ろに吹き飛んでしまったのだ。
壁にぶつかって、気絶しそうになる中、俺は思った。───これ、反動をなんとかしないと、その内、死ぬ、て。
そんな武器を持って、俺はすぐに木の裏から出て、キラーピッグに攻撃を仕掛けた。
「フゴォォォオオオオオ!!!!」
ショックギャブルがキラーピッグの脇腹に突き刺さり、キラーピッグが少しだけ “くの字” に曲がる。
耳障りな金切り声を上げながら、すぐ横にある樹木に吹っ飛んでいくキラーピッグ。
吹き飛ばしたキラーピッグが樹木にぶつかり、ショックギャブルで巻き上げられた砂煙に覆われるのを確認してから、とりあえず、俺は女の子へ振り向いた。
「大丈夫か?」
一応、女の子の身を案じてるフリをする。
彼女の前に姿を現した以上、彼女を囮にして殺す時以外、悪印象を持たれる訳にはいかないからな。
改めて、女の子の様子を観察する。
ただの村娘って風体だな。武器も持ってないし……なんで一人? こんな街から離れた所で……死にたいのか?
女の子は、いきなり現れた俺に驚き、呆然としていたが、少しすると、自分が助けられたことを理解したようで、我に返る。
「だ、大丈夫です! ありがとうござ───ヒッ!」
女の子がお礼を述べると同時に、キラーピッグが立ち上がった。
その姿を見て、女の子の顔が青ざめる。
「フゴッ、フゴッ!」
ほとんどダメージなし。異常なほどの耐久力。
ゲームの説明文通り、脂肪で覆われてる箇所はダメージが通りにくいようだ。
なら、狙うは、脂肪の少ない関節部分か、内蔵の間───または頭部だ!
相手はCランクの魔獣。
肉体的な強さは向こうが圧倒的に上。
俺の勝ち筋はこの “ショックギャブル” のみ。それも、この武器でキラーピッグが怯むこと前提だ。
無駄な思考をする余裕は無い。一撃でも貰えば俺の負けだ。戸惑ったり、躊躇した時点で負け確。それぐらい、肉体に差があることを忘れるな!
先手必勝!
“決め打ち” で負かす!!
俺はキラーピッグに真正面から突っ込む。
その俺を地面に叩き付けようと、キラーピッグが右腕を上げた。
大事なのはタイミング。
見ろ! キラーピッグの腕が動き出す瞬間を!
「───!」
動く!
キラーピッグの腕が僅かに動いたのを確認。
攻撃が来る!
俺は腕から目を離し、無理やり、重心を低くしながら横移動。
キラーピッグの攻撃は右斜め上から真正面に向けたもの。
キラーピッグから見て右側に移動した俺には当たらない。
俺はキラーピッグの攻撃が外れるのを確認する───前から、すでに軽く跳び上がっていた。
攻撃を外し、少しだけ前かがみになったキラーピッグの後頭部を目掛けて、俺はショックギャブルを振り下ろす。
「フゴォォォオオ!!」
キラーピッグに攻撃が当たった瞬間、凄まじい衝撃が放たれ、キラーピッグを強制的にうつ伏せの体勢にする。
キラーピッグはすぐに立とうとするが、地面にキスをしたまま、体が震えるだけで中々立ち上がれない。
よっしゃ! 効いた! ───勝ち確ゥ!!
脳震盪か? まさかダウンまで持ち込めるとは思わなかった。
自然と両の口角を大きく上がる。
俺は何度もショックギャブルをキラーピッグの頭部にぶつける。
ショックギャブルが頭部にぶつかる度、衝撃の余波が四方に散らばった。
叩く度に、キラーピッグの顔の下で、少しずつ、クレーターができあがっていく。
五度、キラーピッグの頭部にショックギャブルを叩き付けた所で、動きを止めた。
キラーピッグの後頭部は見事に陥没し、キラーピッグはピクピクと震えるのみ。
討伐完了だ!
「………ふぅ」
俺はキラーピッグが立ち上がらないのを確認して、息を吐いた。
女の子はまたしても呆然としている。
ま、驚くのは当然だろうな。
キラーピッグはCランクの魔獣。ゲームの説明文では、Cランクの魔獣は戦車一台分の戦力に匹敵すると書かれていた。
魔獣や魔素が存在するこの世界でも、一般人では逆立ちしたってCランクの魔獣を単騎討伐することはできない。徒党を組んだって、ほとんどの確率で全滅する。
まぁ、ハンターや軍属、貴族はこの例に当てはまらないけど。
「改めて、大丈夫?」
「だ、大丈夫です!」
俺の声で女の子が我に返る。
そして、慌てた様子で立ち上がった。
「一人? 近くの村まで送ってこっか?」
「あ、いえ……その……」
「………?」
この近くには村が一つある。距離関係から、そこの村出身だと思い、「送っていく」という提案をした。
しかし、女の子は、その提案を受け入れるでも拒否する訳でもなく、歯切れの悪い様子。どうしたんだ?
それから数秒、沈黙の間が続くと、女の子は意を決した様子でこちらの目を見て、口を開いた。
「た、助けていただき、ありがとうございました! その! ハンター様の腕を見込んで、お願いがあります!」
街から離れた場所。そして、騎士のように鎧を着けている訳でもないことから、俺をハンターと推測したのだろう。
女の子が俺に依頼をしてくる。
「お願い?」
「はい! その、私の村の近くにキラーピッグの群れが発見されたんです!」
「───!」
俺は目を瞠る。
キラーピッグの群れだと!?
キラーピッグは、複数のCランクハンター、またはBランクのハンター一人でやっと倒せる魔獣だ。
その群れとなると、確実にBランク案件。
下手したら、街で最高位のハンター、Aランクが出張る必要が出てくる。
「それで、ギルドで助けてくれるハンターを探そうって思ってて! そしたらお兄さんが助けてくれて! それでッ、それで!」
「………」
キラーピッグ討伐の依頼をギルドに出そうとしてたのか。
「なんで一人? 他の人は?」
「あ、その……私の村、戦える人が少なくて……それで、少しでも、街に行ける人が増えるようにって、皆バラバラに街を目指すことになって……次、騎士団が来てくれるの、一ヶ月後だから……」
「……………」
そういうことか、なんとなく分かった。
普通、魔獣の被害を防ぐため、村の周りには、距離を置いて、魔獣が嫌う臭いを発する苗木が何重にも植えられる。
これが俗に言う “魔獣除け” 。
だが、これは絶対じゃない。実際、今だって、群れからはぐれたキラーピッグが現れた。道の近くにも苗木が植えられてるにも関わらず、だ。
もし、一体でも村にキラーピッグが入り込めば、戦える人が少ない村は全滅する。
しかも、今回、出現したのは群れ。一体が村に気付いた瞬間、芋づる式に、侵入するキラーピッグの数が増えていく。
キラーピッグが村を無視する確率もあるが………正直、その確率はかなり低い。むしろ、ハンターを呼びに行ってる間に、村がキラーピッグに見つかり、蹂躙される確率の方が高いぐらいだ。
村が壊滅したら領主が責任を取らされる。
だから、村が壊滅しないよう、領主は自前に騎士団に村を巡回させ、村近くの魔獣を間引く訳だが……今回は運が悪かったんだろうな。
女の子の目の周り、よく見ると少し腫れてる。
もしかしたら、故郷の村が無くなるかもしれない。そう考え、何度も涙を流したことが窺える。
今も、やや目は潤んでいた。
とはいえ、事情が事情だ。
人助けするほどの余裕も実力も、俺には無い。
俺は女の子に視線を合わせるため、膝を曲げ、腰を下げる。
「助けてくれってことか? 生憎だけど、その依頼は受けられない」
「───!?」
女の子の顔が悲痛で歪む。
「ど、どうして!?」
「俺じゃ力不足だからだ」
「ち、力不足……?」
女の子は俺の言葉を疑うようにキラーピッグの死体に視線を移す。
俺もキラーピッグの死体に視線を向けながら話を続けた。
「俺が一人でアレを倒せたのは強力な魔道具を持ってたからだ」
「魔道具……?」
俺はショックギャブルを女の子に見せる。
「これがあったから、俺は格上の魔獣にも勝てた。でも、回数制限がある。そして、もう後、数回も叩けば、この魔道具のエネルギーは尽きて、ただの小槌になってしまう」
「……」
俺がショックギャブルのことを話すと、女の子はあからさまに落ち込んでしまう。
実際、今、言ったことは本当だ。
ショックギャブルは、あらかじめ、俺の魂力を武器に流し、溜めとかなきゃならない。
曲がりなりにも生命力を使って攻撃する武器だ。その威力は今回の通りだ。ただのEランクハンターの俺でも、Cランクの魔獣を倒せるようになる。
しかし、その反面、消費も激しい。少し使うだけで魂力が尽き、ただの武器になっちまう。
ショックギャブルの場合、たった五回でエネルギー切れだ。
魂力の注入は一気にはできない。一度に沢山の魂力を注入してしまうと武器が壊れてしまうからだ。壊れないよう、ゆっくり行う必要がある。
しかも、魂力は絶大な力を発揮する分、著しく武器の耐久力を奪っていく。
ショックギャブルの場合、例え、エネルギーを充填できたとしても、通算十回も使えば壊れてしまうだろう。
当然、壊れた時のため、ショックギャブルは量産済だ。
だが、持ち運べる量には限りがあるし、戦闘中に壊れたら隙を晒すことになる。
何より、強力な武器があっても、今の俺じゃ、違う方向から一切に攻撃されれば、さばききれない。
「悪いけど、俺じゃ力になれない」
「……」
「だから、今すぐ君を街に送り届ける。それでいいかな?」
「………………え?」
断られて終わり、とでも思っていたのか、俺の提案を受け、女の子は驚いた顔をする。
「俺が着ている防具も魔道具でな。脚の魔道具は、一時的に俺のスピードを高める力がある。だから、俺が君を背負い、走る。そうしたら、一日とかからず、街に辿り着ける筈だ」
「───」
厳密には魔道具ではないけど、俺は自分の防具について軽く女の子に話した。
すると、さっきまで暗かった女の子の顔が一転、希望に満ちたものに変わる。
普通なら無視一択なんだけどな。
事情が無ければ間違いなく見捨ててた。
何故、この女の子に手を差し伸べたか?
理由は、もう少しの間、今の街に滞在する予定だからだ。
ここで見捨てたことを逆恨みされ、変な噂を流されたら、街に居づらくなる。
街に辿り着けずに野垂れ死ぬ可能性も無くはないけど、辿り着く可能性も同時にある。
たった数日の遅れを嫌がって、拠点を失うことになるなんて最悪だ。仕方ないから、最低限のお節介を焼くことにした。
それに、この子が居たから、Cランクの魔獣と一対一で戦えた訳だし。
今回の戦闘は本当に良い機会になった。
おかげで、奇襲や速攻を決められれば、Cランクの魔獣でも倒せることが分かったし。
ここからレベル上げスポットまではかなり距離がある。魔獣と遭遇するのだって、一度や二度じゃ済まないだろう。
生きて目的地に辿り着くには、自分の力量の把握は必須だった。
これは、その機会を提供してくれたお礼も兼ねてる、てことで。
脚の防具には、全身に身体強化をかける効果と、走る際に使う筋肉をさらにもう一段階強化する効果が付与されてる。もう一段階強化する方は任意発動だ。踝の所に取り付けた押しボタン式のスイッチを入れた瞬間、効果を発揮する。
これを使えば、夕方にはギルドのある街に辿り着ける筈だ。
「いいか? キラーピッグの群れはハンターでも危険な相手だ。お前を見た感じ、村はあまり裕福ではないな? なら、報酬も限られてる。依頼を受けてくれるハンターを見つけるのは難しいだろう」
「……」
俺の説明を聴いて、女の子の顔はまた暗くなる。
「だけど、受けてくれる人が居ない訳じゃない。今回の場合、受けてくれる人は二パターンだ。困ってる人を放っておけない人か、強い相手と戦いたいという人。丁度、どちらか一方に当てはまるパーティが一つ、ハンターが一人、俺の滞在する街には存在する。“金翼” と “野犬” という二つ名で、金翼は前者、野犬は後者だ。頼りになるのはその二つ。
もし、どちらも居なかったら、ギルドから領主に直訴してもらうんだ。本来、村を守るのは領主の務めだからな。そうすれば、ハンターより準備する時間はかかるだろうが、確実に動いてくれる筈だ」
「わ、わかりました」
女の子は真剣な顔で頷く。
どうやら、俺の話は分かってもらえたようだ。
「よしッ。じゃあ、しっかり掴まるんだ」
俺は女の子に背を向け、屈む。
女の子は俺におんぶの要領でもたれかかり、俺の首に両手を回した。
女の子がしっかり抱き着いたのを確認して、俺は脚の防具のボタンを押す。
「飛ばすぞ! 振り落とされるなよォ……!」
「はい!」
俺は立ち上がり、両手で女の子を下から支えた後、足に思いっきり力を入れ、走り出した。
裏話①
魂術について。
魂力を操れるようになっても、できることは、肉体の性能の一時的な強化や、熱・光・音の発生程度でした。
武器に魂力を注いでも、できるのは『少し熱い剣』か『光る剣』ぐらい。
サガの求める武器には遠く及びませんでした。
そこでサガが思い出したのは “データ” と “プログラミング” の知識です。
基本、“データ” は『二進数』で処理を行います。どんな情報も、細分化していけば、『零』か『一』という情報しか残りません。
それらのシンプルな情報を幾重にも組み合わせ、複雑な情報を作り出します。
この知識はエネルギーを様々なものに変える方法のヒントになりました。データのように、性質の違うエネルギーをいくつも組み合わせ、異なる現象を発生させればいい、そう考えたのです。
元々、熱や電気に変化させることや、エネルギーの右折や左折といった簡単な操作はできていました。
組み合わせを工夫すれば、それこそ、エネルギーを留めたり、任意のタイミングで爆発など、複雑なことだってできるようになる、とサガは考えた訳です。
ですが、何かを行う度、一からエネルギーの組み合わせを考えていては、あまりにも時間がかかり過ぎません。到底、実用的とは言えません。
そこで解決の糸口になったのが “プログラミング” でした。
プログラミングとは、言ってしまえば、体系化された文字式であり、キーワードです。決められた文字を入力することで、対応するデータが浮かび上がります。
これを思い出したことで、あらかじめ、キーワードと、それに紐付けする、作り出すエネルギーの数・種類・組み合わせ方を考えておく、という方法を考え付いたのです。
しかし、プログラミングは、大量の情報を一気に処理できる “コンピュータ” あってのものでした。
残念ながら、サガに、一からコンピュータを造るほどの知識はありません。
ですので、コンピュータの代わりを、サガは自分の頭脳で行わなければなりません。
そこからは地道な作業でした。
エネルギーの組み合わせと起こる現象を一から記録する作業。
望むことを実現するにはどのエネルギーを組み合わなければならないのか、なんのヒントも無い状態で探し続ける苦行。当然、中々、望む答えは手に入られません。
サガはひたすら実験を続け、その結果を紙に記し続けました。
物理学や化学などの知識を思い出せていなければ、十年単位で時間がかかっていたことでしょう。
そういう地道で面倒な作業を超えて、サガは魂術を確立させました。
裏話②
魔獣の生息分布について。
人は魔獣を “害獣” として処理します。
魔獣達だって馬鹿ではありません。人間が魔獣を駆除対象にしていることくらい、魔獣達も分かっているのです。
そのため、魔獣達は人里離れた場所に巣を作ります。
当然、巣を保持できるのは強い魔獣だけです。弱い魔獣は強い魔獣に住処を奪われ、餌にされるか、生息地から追い出されます。
その結果、強い魔獣ほど、人里離れた所に多く生息するようになり、弱い魔獣は、比較的、人里に近い所に生息するようになるのです。
そんな環境でも絶滅しないようにするため、弱い魔獣は繁殖能力が高くなりました。
そのため、いくらハンターが狩ろうと、そうそう数が減ることはありません、
ちなみに、サガが住む街周辺に出るのは、主に、小さな棘をいくつか体から生やした鼠『デイビーマウス』、紫色の体毛で身を覆う犬『マッドドッグ』、異様に膨らむ喉袋を持った鶏『ノイズチキン』の三種です。
どれも命の危険はそこまでなく、初心者ハンターの標的にされる魔獣達です。
裏話③
ハンターや魔獣にはランクがあります。
等級はE→D→C→B→A→Sという順番です。
ランクは強さや危険度を表す指標であり、ハンターは基本、ランクで物事を判断します。
ちなみに、ランクが同じでも、魔獣とハンターには実力差があります。基本、魔獣の方が上です。Eランクの魔獣は、Dランクのハンターと同等の強さを持つと考えてくださればいいです。
今回、まだEランクでしかない主人公・サガが勝てたのは、ショックギャブルという強力な武器があったから───と、“博打” に勝ったからです。
サガはキラーピッグと対面した際、キラーピッグの動きを見て、叩き付けが来ると予測しました。その予測が当たってることを前提に、避けて攻撃するまでの道筋を立てたのです。つまり、予測が外れていれば即死でした。
攻撃を避けられなければ死ぬ、避けてもすぐに攻撃できなければ死ぬ、だから自分の予測を疑わない。
つまり、覚悟がガン決まっている訳です。
裏話④
ハンターにとって、明確な悪評は、その街での活動終了を意味します。
まず、悪評を持つハンターとは誰もパーティを組みたがらなくなります。格下の魔獣しか狩ることができなくなるため、レベル上げがはかどらなくなり、成長が遅れます。
次に、何か諍いが起きたとしても、基本、話を聴いてもらえず、悪評を持つハンターが悪いということにされます。つまり、人の目の無い所で、追い剥ぎにあったり、殴り合いの喧嘩を売られることが多くなるのです。
最後に、他のハンターからの苦情が相次げば、最悪、受けられる依頼が制限されたりします。
悪評に疑念が多くあれば、ここまでのことにはなりませんが、疑念が少なくなったり、悪評に嘘偽りが無いと判断された瞬間、上記のことが起こります。
なので、ハンターは、少しでも悪評が立つのを防ぐため、慎重に行動するのです。




