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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

プリズム

作者: 覚力丸
掲載日:2026/02/23

さっきまで、ママといた。

手、つないでた。


 


――――――――――


 


ジェットコースターだった。


 


一番上。

風が強い。


 


となりに知らないお姉さんが乗っている。


 


「え?」


 


お姉さんは笑っている。

ぼくを見る。


 


落ちる。


 


おなかがふわっとなる。


 


こわくない。


 


楽しい。


 


降りる。


 


ママがいない。


 


でも、さっきの落ちる感じがまだ残っている。


 


――――――――――


 


またジェットコースター。


 


今度は途中。


 


となりはちがう人。


 


また落ちる。


 


楽しい。


 


ぼくは声を出して笑う。


 


降りたら、だれもいない。


 


係の人が首をかしげている。


 


「ひとり?」


 


ぼくはうなずく。


 


――――――――――


 


またちがうジェットコースター。


 


落ちる。


 


楽しい。


 


楽しいけど。


 


――――――――――


 


おもちゃ売り場。


 


天井が高い。


 


知らないゲーム機。


 


見たことない形。


 


だれかが「新型」と言っている。


 


ぼくは手をのばす。


 


となりの人が、ぼくの横を通る。


 


カバンが、ぼくの腕にあたる。


 


――――――――――


 


その人は足を止める。


 


子どもが、目の前にいる。


 


目が合う。


 


次の瞬間、いなくなる。


 


「……え?」


 


その人は、立ち尽くす。


 


通路は、そのまま動いている。


 


――――――――――


 


屋根のある通りだった。


 


上に布がぶら下がってる。


 


人がいっぱい歩いてる。


 


ぼくをよける。


 


「ママ?」


 


言ってみた。


 


だれもふりむかない。


 


おなかが、ちょっとすいた。


 


前にいたおばさんが、なにか言った。


 


長い言葉。


 


ぜんぶ、わからない。


 


「え?」


 


ぼくが言うと、おばさんはもう一回言った。


 


やっぱり、わからない。


 


おばさんは笑って、ぼくの肩をぽんってたたいた。


 


ぼくは笑いかえした。


 


よくわからないけど。


 


ここ、どこ?


 


――――――――――


 


川のそば。


 


水が黒い。


 


空も黒い。


 


さっきまで昼だったのに。


 


石がつめたい。


 


くつの中が、ちょっとつめたい。


 


「ママ?」


 


返事はない。


 


風がつよい。


 


「……だれか」


 


声が小さい。


 


水の音に消える。


 


――――――――――


 


明るい道。


 


車がいっぱい走ってる。


 


知らない建物。


 


知らない文字。


 


人がたくさん歩いてる。


 


みんな、下を見てる。


 


手の中の四角い光るやつ。


 


ぼくはその人の前に出る。


 


「すみません」


 


止まらない。


 


「……たすけて」


 


ほんの一瞬だけ顔を上げる。


 


また下を見る。


 


ほかの人も、下を見てる。


 


「たすけて」


 


――――――――――


 


公園。


 


ベンチ。


 


夕方。


 


「たすけて」


 


女の人が顔を上げた。


 


ちゃんと、ぼくを見る。


 


しゃがむ。


 


「どうしたの?」


 


目が合う。


 


あったかい。


 


「さっきまでママといた」


 


女の人はうなずく。


 


「大丈夫。一緒に探そう」


 


帰れるかもしれない。


 


目が、ちょっとだけかゆい。


 


――――――――――


 


女の人は、しゃがんだままだった。


 


手は、空をつかもうとしている。


 


「……え?」


 


そこには、だれもいなかった。


 


――――――――――


 


駅。


 


スーパー。


 


橋。


 


雨のバス停。


 


「たすけて」


 


――――――――――


 


あたたかい部屋。


 


畳。


 


ちゃぶ台。


 


白い髪のおじいさんと、おばあさん。


 


おばあさんが、ちゃんとぼくを見る。


 


「どうしたの」


 


泣きそうになる。


 


「たすけて」


 


ごはんをくれる。


 


おじいさんは、ゆっくり話す。


 


「若いころ、遊園地でな」


 


はじめてのジェットコースター。


 


隣に、小さな男の子がいた。


 


ひとりで。


 


降りたら、いなくなっていた。


 


「見間違いだと思った」


 


おばあさんが、ぼくを見る。


 


ほんの少し、長く。


 


おじいさんは続ける。


 


昔から、ときどきあるらしい。


 


少年が、突然あらわれて、消える。


 


それを、はっきり見てしまった人は。


 


その後、いなくなる。


 


事故。


 


病気。


 


原因不明。


 


ぼくは意味がわからない。


 


あったかい。


 


目が、また、ちょっとかゆい。


 


――――――――――


 


部屋は、しずかだった。


 


ちゃぶ台。


 


湯気の消えたおわん。


 


おばあさんの手は、空を抱いている。


 


おじいさんは、さっきまでの場所を見ている。


 


――――――――――


 


あの子は、なにもしていない。


 


呼んでもいない。


 


選んでもいない。


 


ただ、そこにあらわれる。


 


ただ、消える。


 


見てしまった人が、消される。


 


それだけが、残る。


 


世界は、理由を語らない。


 


帳尻だけを合わせる。


 


――


 


目撃後の記録


 


1987年 北海道 女性(17)

翌日、急性心不全。


 


1994年 東京都 女性(22)

転落事故。


 


2003年 フランス 男性(41)

原因不明の失踪。


 


2016年 大阪府 男性(63)

自宅にて突然死。


 


2024年 岐阜県 夫妻

同日、室内にて死亡確認。

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