プリズム
さっきまで、ママといた。
手、つないでた。
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ジェットコースターだった。
一番上。
風が強い。
となりに知らないお姉さんが乗っている。
「え?」
お姉さんは笑っている。
ぼくを見る。
落ちる。
おなかがふわっとなる。
こわくない。
楽しい。
降りる。
ママがいない。
でも、さっきの落ちる感じがまだ残っている。
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またジェットコースター。
今度は途中。
となりはちがう人。
また落ちる。
楽しい。
ぼくは声を出して笑う。
降りたら、だれもいない。
係の人が首をかしげている。
「ひとり?」
ぼくはうなずく。
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またちがうジェットコースター。
落ちる。
楽しい。
楽しいけど。
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おもちゃ売り場。
天井が高い。
知らないゲーム機。
見たことない形。
だれかが「新型」と言っている。
ぼくは手をのばす。
となりの人が、ぼくの横を通る。
カバンが、ぼくの腕にあたる。
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その人は足を止める。
子どもが、目の前にいる。
目が合う。
次の瞬間、いなくなる。
「……え?」
その人は、立ち尽くす。
通路は、そのまま動いている。
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屋根のある通りだった。
上に布がぶら下がってる。
人がいっぱい歩いてる。
ぼくをよける。
「ママ?」
言ってみた。
だれもふりむかない。
おなかが、ちょっとすいた。
前にいたおばさんが、なにか言った。
長い言葉。
ぜんぶ、わからない。
「え?」
ぼくが言うと、おばさんはもう一回言った。
やっぱり、わからない。
おばさんは笑って、ぼくの肩をぽんってたたいた。
ぼくは笑いかえした。
よくわからないけど。
ここ、どこ?
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川のそば。
水が黒い。
空も黒い。
さっきまで昼だったのに。
石がつめたい。
くつの中が、ちょっとつめたい。
「ママ?」
返事はない。
風がつよい。
「……だれか」
声が小さい。
水の音に消える。
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明るい道。
車がいっぱい走ってる。
知らない建物。
知らない文字。
人がたくさん歩いてる。
みんな、下を見てる。
手の中の四角い光るやつ。
ぼくはその人の前に出る。
「すみません」
止まらない。
「……たすけて」
ほんの一瞬だけ顔を上げる。
また下を見る。
ほかの人も、下を見てる。
「たすけて」
――――――――――
公園。
ベンチ。
夕方。
「たすけて」
女の人が顔を上げた。
ちゃんと、ぼくを見る。
しゃがむ。
「どうしたの?」
目が合う。
あったかい。
「さっきまでママといた」
女の人はうなずく。
「大丈夫。一緒に探そう」
帰れるかもしれない。
目が、ちょっとだけかゆい。
――――――――――
女の人は、しゃがんだままだった。
手は、空をつかもうとしている。
「……え?」
そこには、だれもいなかった。
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駅。
スーパー。
橋。
雨のバス停。
「たすけて」
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あたたかい部屋。
畳。
ちゃぶ台。
白い髪のおじいさんと、おばあさん。
おばあさんが、ちゃんとぼくを見る。
「どうしたの」
泣きそうになる。
「たすけて」
ごはんをくれる。
おじいさんは、ゆっくり話す。
「若いころ、遊園地でな」
はじめてのジェットコースター。
隣に、小さな男の子がいた。
ひとりで。
降りたら、いなくなっていた。
「見間違いだと思った」
おばあさんが、ぼくを見る。
ほんの少し、長く。
おじいさんは続ける。
昔から、ときどきあるらしい。
少年が、突然あらわれて、消える。
それを、はっきり見てしまった人は。
その後、いなくなる。
事故。
病気。
原因不明。
ぼくは意味がわからない。
あったかい。
目が、また、ちょっとかゆい。
――――――――――
部屋は、しずかだった。
ちゃぶ台。
湯気の消えたおわん。
おばあさんの手は、空を抱いている。
おじいさんは、さっきまでの場所を見ている。
――――――――――
あの子は、なにもしていない。
呼んでもいない。
選んでもいない。
ただ、そこにあらわれる。
ただ、消える。
見てしまった人が、消される。
それだけが、残る。
世界は、理由を語らない。
帳尻だけを合わせる。
――
目撃後の記録
1987年 北海道 女性(17)
翌日、急性心不全。
1994年 東京都 女性(22)
転落事故。
2003年 フランス 男性(41)
原因不明の失踪。
2016年 大阪府 男性(63)
自宅にて突然死。
2024年 岐阜県 夫妻
同日、室内にて死亡確認。




