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ケルパ  作者: spiraldiver
4/5

ケルパ(継承)

年末の大掃除で、押し入れの中身をひっくり返していたときだった。

箱に入れられ、丁寧に布で包まれた、変なものが出てきた。

とりあえず、手に取ってみる。

「お母さん、これなに?」

「ああ、それね。おじいちゃんが好きだった楽器よ」

「楽器なの? これ。高いの?」


その瞬間、母が突然吹き出した。

私は困惑して聞き返す。

「え? なに?」

「いや……あんた、全然変わってないなと思って」

そう言って、母は一人で何かに納得している。


近寄ってきて、私の手のひらの上のそれを眺めながら言った。

「懐かしいわあ。あんた、覚えてない? これ、物凄く欲しがっていたのよ」

「いや、全然覚えてない」

「そうよね。小さかったものね」

独り言のようにつぶやきながら、母はしばらくその楽器を見つめていた。

「おじいちゃんね、これの演奏をSNSにあげていたのよ。ちょっと見せてあげる」

そう言って、スマホを操作し始める。

「これでいいかしら」


画面の中には、懐かしい祖父の姿があった。

「えー、皆様こんばんは。本日もケルパの演奏を披露したいと思います」

「そうそう、ケルパ。そんな名前だったわね」

母の声が、すぐ横で聞こえる。

短い口上のあと、祖父の演奏が始まった。

聞いたことがないはずなのに、不思議と懐かしい音だった。


それ以上に気になったのは、

祖父が演奏しているケルパと、今、私の手元にあるそれが、同じものだということだった。

そこにあるのに、ここにもある。


とても変な感じがした。


演奏が終わるころ、画面の外からどたどたと足音が聞こえてきた。

「ほら、来た」

母がそう言った直後、

「貸して貸して! ケルパ貸してー!」

という叫び声が響いた。

画面には、祖父からケルパをひったくる子供が映っていた。

「あなたよ、これ」

母が懐かしそうに言う。

動画の中の私は、ケルパを滅茶苦茶に弾き、ぶんぶん振り回していた。


次の瞬間、柱にぶつかり、鈍い音がする。

ケルパに、大きな傷ができていた。

動画の中の私は、驚いたのか、申し訳なかったのか、母に抱きついてわんわん泣き出す。

そこで、動画は終わった。


「ほんと、このとき大変だったわ」

母の声を聞きながら、手元のケルパを見る。

時間が経って、少し目立たなくなってはいるが、

確かに、傷の跡が残っていた。

「……あのときは、ごめんね」

覚えていない自分のしたことを、私は謝りながら、ケルパを弾いてみた。

濁った音が鳴った。

「まだ、当分は許してくれそうにないな」

そう思いながら、私はきれいな布で、そっと傷を拭いた。


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