ケルパ(継承)
年末の大掃除で、押し入れの中身をひっくり返していたときだった。
箱に入れられ、丁寧に布で包まれた、変なものが出てきた。
とりあえず、手に取ってみる。
「お母さん、これなに?」
「ああ、それね。おじいちゃんが好きだった楽器よ」
「楽器なの? これ。高いの?」
その瞬間、母が突然吹き出した。
私は困惑して聞き返す。
「え? なに?」
「いや……あんた、全然変わってないなと思って」
そう言って、母は一人で何かに納得している。
近寄ってきて、私の手のひらの上のそれを眺めながら言った。
「懐かしいわあ。あんた、覚えてない? これ、物凄く欲しがっていたのよ」
「いや、全然覚えてない」
「そうよね。小さかったものね」
独り言のようにつぶやきながら、母はしばらくその楽器を見つめていた。
「おじいちゃんね、これの演奏をSNSにあげていたのよ。ちょっと見せてあげる」
そう言って、スマホを操作し始める。
「これでいいかしら」
画面の中には、懐かしい祖父の姿があった。
「えー、皆様こんばんは。本日もケルパの演奏を披露したいと思います」
「そうそう、ケルパ。そんな名前だったわね」
母の声が、すぐ横で聞こえる。
短い口上のあと、祖父の演奏が始まった。
聞いたことがないはずなのに、不思議と懐かしい音だった。
それ以上に気になったのは、
祖父が演奏しているケルパと、今、私の手元にあるそれが、同じものだということだった。
そこにあるのに、ここにもある。
とても変な感じがした。
演奏が終わるころ、画面の外からどたどたと足音が聞こえてきた。
「ほら、来た」
母がそう言った直後、
「貸して貸して! ケルパ貸してー!」
という叫び声が響いた。
画面には、祖父からケルパをひったくる子供が映っていた。
「あなたよ、これ」
母が懐かしそうに言う。
動画の中の私は、ケルパを滅茶苦茶に弾き、ぶんぶん振り回していた。
次の瞬間、柱にぶつかり、鈍い音がする。
ケルパに、大きな傷ができていた。
動画の中の私は、驚いたのか、申し訳なかったのか、母に抱きついてわんわん泣き出す。
そこで、動画は終わった。
「ほんと、このとき大変だったわ」
母の声を聞きながら、手元のケルパを見る。
時間が経って、少し目立たなくなってはいるが、
確かに、傷の跡が残っていた。
「……あのときは、ごめんね」
覚えていない自分のしたことを、私は謝りながら、ケルパを弾いてみた。
濁った音が鳴った。
「まだ、当分は許してくれそうにないな」
そう思いながら、私はきれいな布で、そっと傷を拭いた。




