3/5
ケルパ(初投稿)
娘と孫娘、そして彼の三人で、居間に集まっている。
娘が構えたスマートフォンの先には、どこか落ち着かない様子の紳士が座っていた。
「……もう録画、始まってるのか?」
「うん。しゃべっていいよ」
彼は小さく咳払いをする。
「では。えー……ケルパの演奏を、披露したいと思います。今日やる曲は、私が二十代の頃に流行った曲でして。コーヒーのCMにも使われましたから、ご存じの方もいるかもしれません。原曲は山岳民族に伝わる曲で、それを当時、著名なカルテットが現代風に――」
緊張のせいか、説明は次第に長くなっていく。
孫娘が、娘の袖を引いた。
「ねえ、おじいちゃん、何やってるの?」
娘は、端的に答える。
「おじいちゃん、SNSに出るんだよ」
「SNS出るの? 儲かるの?」
娘は思わず笑った。
「どうだろうね。儲かるかなあ」
二人のたわいない会話は、スマートフォンのマイクに、はっきりと拾われている。
一通り話し終えた紳士が、ようやく言った。
「……では、さっそくですが。一曲」
背筋を伸ばし、ケルパを構える。
指を、軽くはじいた。
その瞬間、居間は消えた。
しなりの良い木と、薄い金属が触れ合うことで生まれた軽やかな音が、広がっていく。
演奏を終えた紳士は、まだ見ぬ観客に向かって、静かに頭を下げた。
「お粗末でした」




