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8話 センチメンタル イン ザ ダイパーガール(ズ)

わたしは廊下から見えるプールを見つめる。今日はあいにくの雨模様だった。


『新人さんが6人入るからよろしくね。場合によっては『うさぎ組』も借りるかも』


おとといのプールでの一言を思い返す。今日からは2人だけではないのだ。それが嬉しくて、少し寂しい。


いつもより早く来たあずちゃんは先程から旧『うさぎ組』を掃除している。年中クラスだった教室である。


「すいません、シルバー人材センターのものですが」


玄関付近にいたわたしに声がかかる。ポロシャツに『シルバー人材センター』と刺繍が入っている。


「あ、こちらです」


うさぎ組の方へ案内する。最初の女性に引き連れられて、6人の高齢女性が歩いていく。


先頭の女性が担当者らしくあずちゃんと名刺交換している。


「みなさんおはようございます。この会社、『有限会社りす組』の代表をしております、岸本梓と申します。この会社は先月できたばかりの若い会社で、わたしも今日まで15歳です。若輩者ではありますがみなさんよろしくお願いします」


と、年齢の事を言ったら少しざわっとする高齢女性たち。


「それから、私は障害を抱えてまして、みなさんにお恥ずかしいところをお見せするかもしれませんが、重ねてお願いします」


一拍遅れて、パチパチと拍手が起こる。


「全員で12名、シルバー人材センターさんにはここでのお手伝いをお願いしてますが、製造に4人、梱包と発送に1人、事務作業に1人の振り分けです。まずは全員、このタブレットで作り方を見てください」


そんな声を背に自室である『ひよこ組』に戻る。


ズキズキと胸が痛む。

あずちゃんが岸本梓として遠くへいく。そんな感覚にとらわれる。


こんなに人が出入りするなら自動販売機でも置こうかと検討していたら、お昼を過ぎになっていた。


バシャーン


と、誰かがプールに飛び込むような音がした。『ような』表現したがそんな音が出せるのはプールしかなく、誰が飛び込んだかも言うまでもない、あずちゃんだ。おとといと同じく、Tシャツに水遊び用おむつ。


「何してんの?」


わたしが聞く。あずちゃんは笑って答える。


「あはは、おとといと逆だね。マイナスとマイナスをかけるとプラスになるか試してた」


意味がわからない。何を言えばいいかわからないわたしの髪を雨が濡らしていく。あずちゃんはさらに続けた。


「こんな事言えば社長失格かもしれないけど、キツかった。『もう戻れないんだな』って。『失うものは何もない』なんてもう言えないし。自分で決めて自分がやった事なのに、イメージ以上に『2人じゃない』事が・・・キツかった」


わたしだけじゃなかった。それが嬉しい。

わたしもプールに飛び込む。どうせ雨でびしょ濡れになっているし。それを見てあずちゃんが驚く。


雨の中のプールはひどく冷たい。

でも、胸はもう痛まない。

わたしもそう思っていたとあずちゃんに伝えようとした時、声がした。


「あんたら、雨の中何やってんの?」


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